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平成14年広審第30号
件名

漁船光栄丸プレジャーボート(船名なし)衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年7月10日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(伊東由人、勝又三郎、西林 眞)

理事官
黒田敏幸

受審人
A 職名:光栄丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:プレジャーボート(船名なし)乗組員

損害
光栄丸・・・船首に擦過傷
プレジャーボート・・・左舷側フェンダーが剥離し、転覆、乗組員1人が左足開放骨折

原因
プレジャーボート・・・見張り不十分、法定灯火不表示、船員の常務(衝突回避措置)不遵守

主文

 本件衝突は、航行中の手漕ぎプレジャーボート(船名なし)が、見張り不十分で、衝突のおそれのある態勢で接近する光栄丸に対し白灯を十分な時間表示しなかったばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したものである。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年9月2日22時10分
 岡山県 正頭漁港

2 船舶の要目
船種船名 漁船光栄丸 プレジャーボート(船名なし)
総トン数 3.2トン  
全長   2.50メートル
登録長 11.33メートル  
機関の種類 ディーゼル機関  
漁船法馬力数 60  

3 事実の経過
 光栄丸は、FRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、まながつお流し網漁を行う目的で、船首0.5メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、平成13年9月2日17時30分岡山県正頭漁港を発し、同時50分同港南東方2海里沖合の漁場に至り漁を行った。
 ところで、正頭漁港は、水島灘に面して設けられた漁港で、沖合200メートルに長さ260メートルの一文字防波堤が建設されていて、同防波堤の南端に正頭港一文字防波堤南灯台(以下「南灯台」という。)があって、同南端と陸岸から東方に延びた新西防波堤との間の幅50メートルの水路が漁港南側の防波堤入口(以下「防波堤入口」という。)となっており、同入口周辺には照明設備が設けられておらず、その250メートル北方の陸岸に街灯などがあるのみであった。
 21時50分A受審人は、降り始めた雨のなか漁を終えて漁場を離れて帰航中、一旦停止して発泡スチロールの箱に漁獲物の氷詰め作業を行ったのち、右舷灯、左舷灯と操業中表示していたマスト上の紅色全周灯を点灯したまま、22時07分南灯台から205度(真方位、以下同じ。)600メートルの地点で、針路を防波堤入口に向く023度に定め、機関を半速力前進にかけて10.0ノットの速力で発進し、同時08分防波堤入口まで300メートルとなったころ、雨滴がついて前方が少し見難くなった風防を透し南灯台や港内の余光でかろうじて判別できる新西防波堤の先端を見て、時折風防の右方から顔を出して前方を確認しながら進行し、同時08分半微速力前進として6.0ノットの速力で続航した。
 22時09分少し過ぎA受審人は、機関を極微速力前進として3.0ノットの速力となったとき、右舷船首13度80メートルのところにプレジャーボート(船名なし)(以下「手漕ぎプレジャーボート」という。)が存在し、その後衝突のおそれのある態勢で接近したものの、同船が灯火を表示しておらず、その上乾舷が20センチメートルほどで港内の余光で視認することもできず、このことに気付かずに進行し、22時10分南灯台から324度30メートルの地点において、原針路、原速力のまま、光栄丸の船首が、手漕ぎプレジャーボートの左舷中央部に後方から85度の角度で衝突した。
 当時、天候は雨で、風はほとんどなく、潮候は上げ潮の末期であった。
 また、手漕ぎプレジャーボートは、オール2本を備えた灯火の表示設備のないプラスチック製プレジャーボートで、ちぬ釣りを行う目的で、B指定海難関係人ほか2人が乗り込み、船首尾とも0.2メートルの喫水をもって、同日19時ごろ正頭漁港北岸を発し、一文字防波堤南端に向かった。 
 B指定海難関係人は、友人など3人と共に南灯台の北側7メートルの一文字防波堤内壁に取り付けられたステンレス製梯子から防波堤に上がって釣りを行うことにしたもので、夕刻正頭漁港北岸で会合し、ボートが小さく4人同時に乗ることができないので、2人でオールを漕ぎ往復して1人ずつ防波堤に渡したのち、ボートを同梯子に係留して19時半から全員で釣りを始め、餌をつけたり釣り上げた魚をはずしたりするときは、単三乾電池4本を電源とするヘッドランプを点灯して釣りを続けていたところ、22時ごろ雨が降り始めたので釣りを中止し、最短距離で渡ることのできる120メートル隔てた漁港の西岸との間を往復することにした。
 22時09分B指定海難関係人は、灯火を表示しないまま、1人を船首部に座らせ、2人で中央部座席に後方を向き腰掛けてオールを漕いで離岸し、同時09分少し過ぎ南灯台から356度16メートルの地点で、針路を298度に定め、0.8ノットの速力で防波堤入口を横断する態勢となったとき、左舷船首82度80メートルのところに、光栄丸の紅、緑の2灯を視認することができ、その後同船と衝突のおそれのある態勢で接近したが、夜間入航してくる船はいないと思い、見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、同船に対しヘッドランプを向けて十分な時間表示することも、速やかに停止するなど衝突を避けるための措置もとることなく進行し、同時10分わずか前左舷正横方至近に迫った光栄丸の船首部を余光で認め、オールから手を離して大声をあげてヘッドランプを同船に向けて振ったが効なく、手漕ぎプレジャーボートは原針路のままほとんど停止して、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、光栄丸は船首に擦過傷を、手漕ぎプレジャーボートは左舷側フェンダーが剥離して転覆し、B指定海難関係人が左足開放骨折を負った。

(原因)
 本件衝突は、夜間、岡山県正頭漁港において、航行中の手漕ぎプレジャーボート(船名なし)が、見張り不十分で、衝突のおそれのある態勢で接近する光栄丸に対し白灯を十分な時間表示しなかったばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 B指定海難関係人が、夜間、正頭漁港において、オールを漕いで航行する際、衝突のおそれのある態勢で接近する光栄丸に対し白灯を十分な時間表示できるよう、見張りを十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、勧告するまでもない。
 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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