(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年9月6日08時55分
愛媛県 宇和島湾
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第十八正福丸 |
プレジャーボート誉丸 |
総トン数 |
4.5トン |
1.12トン |
登録長 |
11.83メートル |
6.80メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
70 |
18 |
3 事実の経過
第十八正福丸(以下「正福丸」という。)は、養殖業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、養殖魚に給餌する目的で、平成13年9月6日早朝愛媛県宇和島市遊子の係留地を発し、深浦の遊子漁業協同組合に立ち寄って投餌器に入れる餌600キログラムを受け取り、船首0.4メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、同日07時30分深浦を出航し、津の浦北東方1,200メートルの養殖筏に向かった。
A受審人は、途中深浦沖合500メートルの養殖筏設置区域内の7台の同筏に立ち寄り、投餌器に餌を入れ、その後水荷浦鼻約100メートル沖合から陸岸沿いに北上し、台風で一時的に魚泊漁港内に移動した養殖筏を沖合の円瀬と野島の間に再設置していたので、それを眺めながら航行した。
A受審人は、操舵室内に立って左手で舵輪を握り、右手でクラッチを操作し、同室右舷側の戸を開け、08時54分少し前美地島第1号防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から101度(真方位、以下同じ。)1,950メートルの地点で、前路をよく見ないまま、針路を陸岸に沿う256度に定め、機関を回転数毎分1,500の半速力前進にかけ、15.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)として手動操舵で進行した。
A受審人は、右舷方沖合の再設置された養殖筏を数えながら続航し、08時54分半防波堤灯台から106度1,650メートルの地点に達したとき、ほぼ正船首方230メートルに誉丸が存在し、その船尾から延びた錨索と座って釣竿を出している人の様子から錨泊して魚釣り中であると認められたが、依然右舷方の養殖筏を数えていて前路の見張りを十分に行わず、同船に気付かないまま、同船を避けずに進行し、同時55分わずか前ふと船首方を見たところ、船首至近に誉丸を認め、とっさにクラッチを中立としたが効なく、08時55分防波堤灯台から110度1,450メートルの地点において、正福丸は、原針路、原速力のまま、その船首が誉丸の右舷船尾に、後方から65度の角度で衝突し、これを乗り切った。
当時、天候は曇で風はほとんどなく、潮候は高潮時であった。
また、誉丸は、FRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、釣りの目的で、船首0.3メートル船尾0.8メートルの喫水をもって、同日08時15分宇和島市水が浦を発し、荒代の鼻沖合の釣り場に向かった。
08時25分B受審人は、釣りや養殖筏に向かう漁船が多数航行する前示衝突地点付近に至り、左舷船尾から、直径16ミリメートル長さ約100メートルの化学繊維製ロープの先端に重量4キログラムの両爪錨を取り付けて投入し、水深が約20メートルだったので錨索を半分ほどの長さに調整して船尾に係止し、錨泊中の形象物を掲げずに錨泊して釣りを始めた。
ところで、B受審人は、船体中央部よりやや後方に設置された機関室囲壁の左上に携帯用魚群探知器を置き、右舷方からデジタルリールのついた釣竿を出し、同探知器と同リールを交互に見て、水深に合わせながら釣り糸を調整し、体を前方に向けて釣りを行った。
08時54分半B受審人は、船首が321度を向首していたとき右舷正横後25度230メートルのところに、正福丸を認めることができ、その後同船が自船に向首して接近したが、釣りに気をとられ、右舷後方の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、避航を促すための有効な音響による信号を行わないまま、機関を使用するなどして衝突を避けるための措置をとることなく釣りを続け、誉丸は、船首が同方向を向いたまま錨泊中、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、正福丸は左舷中央部に擦過傷と推進器翼に曲損を生じ、誉丸は、右舷船尾を圧壊して水船となったが、のちいずれも修理され、B受審人が2箇月の入院加療を要する右骨盤、同鎖骨及び多発肋骨骨折を負った。
(原因)
本件衝突は、愛媛県宇和島湾において、正福丸が、見張り不十分で、錨泊して魚釣り中の誉丸を避けなかったことによって発生したが、誉丸が、見張り不十分で、避航を促すための有効な音響による信号を行わず衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、愛媛県宇和島湾において、養殖魚に給餌のため養殖筏に向かう場合、前路で錨泊して魚釣り中の誉丸を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、右舷方の養殖筏を数えることに気を奪われ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、錨泊して魚釣り中の誉丸に気付かずに進行して衝突を招き、正福丸の左舷中央部に擦過傷と推進器翼に曲損を生じさせ、また誉丸の右舷船尾を圧壊して水船とし、B受審人に2箇月の入院加療を要する右骨盤、同鎖骨及び多発肋骨の骨折を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、宇和島湾荒代の鼻沖合において、錨泊して釣りを行う場合、付近海域は釣り船や養殖筏に向かう漁船が多数航行するところであるから、接近する正福丸を見落とさないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、釣りに気をとられ、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、機関を使用するなどして衝突を避けるための措置をとることなく釣りを続けて衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。