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平成14年神審第9号
件名

漁船第二十八大吉丸プレジャーボート博紀号衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年7月11日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(小金沢重充、阿部能正、村松雅史)

理事官
小寺俊秋

受審人
A 職名:第二十八大吉丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:博紀号船舶所有者

損害
大吉丸・・・船首部外板に擦過傷
博紀号・・・左舷船尾外板に亀裂を伴う損傷、操縦者が行方不明、のち溺死

原因
大吉丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
博紀号・・・無資格者運航、見張り不十分、注意喚起信号不履行(一因)

主文

 本件衝突は、第二十八大吉丸が、見張り不十分で、漂泊中の博紀号を避けなかったことによって発生したが、博紀号が、見張りを十分に行わず、かつ、有効な音響による注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 博紀号の船舶所有者が、有資格者を乗り組ませる措置をとらなかったことは本件発生の原因となる。
 受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年7月7日09時35分
 和歌山県雑賀埼西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第二十八大吉丸 プレジャーボート博紀号
総トン数 19トン  
全長 23.00メートル  
登録長   5.30メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力   66キロワット
漁船法馬力数 160  

3 事実の経過
 第二十八大吉丸(以下「大吉丸」という。)は、鮮魚運送に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、回航の目的で、船首0.6メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、平成13年7月7日09時15分和歌山県和歌山下津港南区を発し、同県雑賀埼西方の水路を経由して同県田ノ浦漁港へ向かった。
 ところで、雑賀埼西方の水路は、北から南へ連なる大島、中ノ島及び双子島等とその東方の番所ノ鼻から雑賀埼にかけての陸岸との間に形成され、最狭幅約80メートル長さ約400メートルであった。
 A受審人は、操舵輪後方のいすに座って自ら操舵にあたり、09時33分半雑賀埼灯台から325度(真方位、以下同じ。)460メートルの地点で、針路を雑賀埼西方の水路の最狭部ほぼ中央に向かう183度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
 定針したときA受審人は、正船首方460メートルのところに船首を東に向けて漂泊している博紀号を視認することができる状況であったが、陸岸との距離を安全に保つことや右舷方の釣り船の動向に気を取られ、前方の見張りを十分に行わなかったので、博紀号の存在に気付かなかった。
 A受審人は、その後、漂泊中の博紀号に衝突のおそれのある態勢で接近したが、同船を避けることなく進行し、09時35分わずか前前方に目を向けたとき、船首至近に迫った博紀号を認め、右舵を取ったが及ばず、09時35分雑賀埼灯台から255度300メートルの地点において、大吉丸は、原針路原速力のまま、その船首部が、博紀号の左舷船尾部に後方から78度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の北西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
 また、博紀号は、船体中央よりやや船首寄りに操舵室を有し、船外機1基を装備したFRP製プレジャーボートで、B指定海難関係人の実弟であるIが操縦者として1人で乗り組み、魚釣りの目的で、船首尾0.15メートルの等喫水をもって、同日06時00分同県雑賀崎漁港を発し、中ノ島と双子島との間の釣り場に向かった。
 ところで、B指定海難関係人は、I操縦者が無資格者であることを承知していたが、操縦の経験があることから、同人を単独で乗船させ、有資格者を乗り組ませる措置をとらずに博紀号を出航させた。
 I操縦者は、釣り場に至って3時間ばかり漂泊しながらあじ釣りを行ったのち帰途につき、09時33分前示衝突地点付近に達したとき、プロペラに水中浮遊物が絡まったので、機関を停止して取り除くこととし、船外機を甲板上に引き上げ、漂泊してその除去作業を開始した。
 09時33分半I操縦者は、船首を105度に向けて漂泊していたとき、自船に向首する大吉丸を左舷正横後12度460メートルのところに視認できる状況であったが、浮遊物の除去作業に専念して、周囲の見張りを十分に行わなかったので、大吉丸の存在に気付かなかった。
 博紀号は、その後、大吉丸が衝突のおそれのある態勢で接近したが、有資格者が乗り組んでいなかったので、有効な音響による注意喚起信号を行うことができずに漂泊中、105度を向いたまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、大吉丸は、船首部外板に擦過傷を生じ、博紀号は、左舷船尾外板に亀裂を伴う損傷を生じ、のちいずれも修理され、I操縦者(昭和25年3月21日生)が行方不明となり、4日後遺体で発見され、溺死と検案された。

(原因)
 本件衝突は、和歌山県雑賀埼西方の水路南口付近において、南下中の大吉丸が、見張り不十分で、漂泊中の博紀号を避けなかったことによって発生したが、博紀号が、見張りを十分に行わず、かつ、有効な音響による注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 博紀号の船舶所有者が、有資格者を乗り組ませる措置をとらなかったことは本件発生の原因となる。

(受審人の所為)
 A受審人は、和歌山県雑賀埼西方の水路を南下する場合、漂泊中の博紀号を見落とさないよう、前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、陸岸との距離を安全に保つことや右舷方の釣り船の動向に気を取られ、前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、博紀号に気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、自船の船首部外板に擦過傷を、博紀号の左舷船尾外板に亀裂を伴う損傷をそれぞれ生じさせ、I操縦者を溺死させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 B指定海難関係人が、博紀号において、魚釣りのために雑賀崎漁港を出航させる際、有資格者を乗り組ませる措置をとらず、有効な音響による注意喚起信号を行うことができなかったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、今後博紀号を運航する際には、有資格者を乗り組ませる旨明らかにしている点に徴し、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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