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平成13年神審第73号
件名

貨物船第二いよ丸漁船第十専西丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年7月2日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(前久保勝己、阿部能正、小金沢重充)

理事官
加藤昌平

受審人
A 職名:第二いよ丸次席一等航海士 海技免状:五級海技士(航海)
B 職名:第十専西丸船長 海技免状:六級海技士(航海)(旧就業範囲)
C 職名:第十専西丸甲板員 海技免状:五級海技士(航海)(履歴限定)

損害
いよ丸・・・右舷側前部外板に凹損
専西丸・・・左舷船首部外板に破口

原因
いよ丸・・・見張り不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
専西丸・・・居眠り運航防止措置不十分、警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第二いよ丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る第十専西丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第十専西丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Cを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年9月5日00時50分
 石川県金沢港北西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第二いよ丸 漁船第十専西丸
総トン数 499ト 41.68トン
全長 72.81メートル  
登録長   22.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット  
漁船法馬力数   310

3 事実の経過
 第二いよ丸(以下「いよ丸」という。)は、船尾船橋型鋼製貨物船で、A受審人ほか4人が乗り組み、水砕1,600トンを載せ、船首4.1メートル船尾4.6メートルの喫水をもって、平成12年9月2日22時50分広島県福山港を発し、新潟県姫川港に向かった。
 翌々4日23時40分A受審人は、大野灯台から271度(真方位、以下同じ。)18.8海里の地点で、単独で船橋当直に就き、針路を025度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、航行中の動力船の灯火を表示して進行した。
 翌5日00時43分A受審人は、大野灯台から305度17.4海里の地点に達したとき、右舷船首52度1.6海里のところに、第十専西丸(以下「専西丸」という。)の白、紅2灯を視認できる状況であったが、船首方の集魚灯を明るく点灯した漁船群に気を奪われ、接近する専西丸を見落とさないよう、右舷方の見張りを十分に行わなかったので、同船の存在に気付かなかった。
 こうして、A受審人は、専西丸が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、その進路を避けることなく続航中、00時49分半ふと右舷方を振り向いたとき、至近に専西丸の白、紅2灯を初めて視認し、手動操舵に切り換えて左舵一杯をとったが及ばず、00時50分大野灯台から308度17.5海里の地点において、いよ丸は、355度に向首したとき、原速力のまま、その右舷前部に専西丸の左舷船首部が後方から51度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風力2の北東風が吹き、視界は良好であった。
 また、専西丸は、沖合底引き網漁業に従事するFRP製漁船で、B、C両受審人ほか3人が乗り組み、えび漁の目的で、船首尾共1.0メートルの喫水をもって、9月4日22時50分石川県金沢港を発し、同港北西方沖合30海里付近の漁場に向かった。
 ところで、専西丸の稼動は、同月2日から毎日23時ごろ金沢港を出港し、前示漁場において、投網から揚網まで約3時間の操業を一昼夜に4回行い、翌日20時ごろ帰港して水揚げしたのち再び出港し、これを繰り返すものであった。
 また、漁場との往復航の船橋当直は、3時間ほどの航程であることから、往航時をB受審人とC受審人とが一日おきに、復航時を漁ろう長が、それぞれ単独で当たっていた。
 B受審人は、23時20分金沢港西防波堤沖合において、C受審人に単独で船橋当直を行わせることとしたが、慣れているので大丈夫と思い、居眠り運航の防止措置がとれるよう、眠気を催した際は速やかに報告するよう十分に指示することなく、同人に当直を任せ、降橋して自室で休息した。
 船橋当直に就いたC受審人は、23時28分大野灯台から332度2.9海里の地点で、針路を304度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、11.0ノットの速力で、航行中の動力船の灯火を表示して進行した。
 その後C受審人は、付近に他船が見当たらないことから、操舵室左舷側の床に腰を降ろし、壁にもたれかかった姿勢で見張りに当たっていたところ、眠気を催すようになったが、我慢できるものと思い、居眠り運航の防止措置がとれるよう、B受審人に報告することなく、眠気を覚ますつもりでジュースを飲み、同じ姿勢で当直を続けるうち、いつしか居眠りに陥った。
 こうして、C受審人は、翌5日00時43分大野灯台から308.5度16.2海里の地点に達したとき、左舷船首47度1.6海里のところに、いよ丸の白、緑2灯を視認でき、その後同船が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近したが、これに気付かず、警告信号を行うことも、更に間近に接近したとき、速やかに転舵するなど、衝突を避けるための協力動作をとることもなく続航中、専西丸は、原針路原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 B受審人は、衝撃で衝突を知り、直ちに昇橋して事後の措置に当たった。
 衝突の結果、いよ丸は、右舷側前部外板に凹損を、専西丸は、左舷船首部外板に破口を、それぞれ生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は、夜間、石川県金沢港北西方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、いよ丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る専西丸の進路を避けなかったことによって発生したが、専西丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 専西丸の運航が適切でなかったのは、船長が、船橋当直者に対し、眠気を催した際の報告について、十分に指示しなかったことと、船橋当直者が、眠気を催した際、このことを船長に報告しなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、石川県金沢港北西方沖合を北上する場合、接近する専西丸を見落とさないよう、右舷方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、船首方の集魚灯を明るく点灯した漁船群に気を奪われ、右舷方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する専西丸に気付かず、その進路を避けないまま進行して同船との衝突を招き、いよ丸の右舷側前部外板に凹損を、専西丸の左舷船首部外板に破口を、それぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 B受審人は、夜間、石川県金沢港外において、C受審人に単独で船橋当直を行わせる場合、居眠り運航の防止措置がとれるよう、眠気を催した際は速やかに報告するよう十分に指示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、慣れているので大丈夫と思い、十分に指示しなかった職務上の過失により、単独で船橋当直中のC受審人が居眠りに陥り、前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近するいよ丸に気付かず、警告信号を行うことも、更に間近に接近したとき、衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行して、同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C受審人は、夜間、石川県金沢港北西方沖合を単独の船橋当直に就いて漁場に向けて航行中、眠気を催した場合、居眠り運航の防止措置がとれるよう、B受審人に報告すべき注意義務があった。しかるに、同人は、我慢できるものと思い、B受審人に報告しなかった職務上の過失により、いつしか居眠りに陥り、前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近するいよ丸に気付かず、警告信号を行うことも、更に間近に接近したとき、衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行して、同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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