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平成14年横審第19号
件名

漁船漁成丸貨物船ジンロン衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年7月30日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(原 清澄、黒岩 貢、甲斐賢一郎)

理事官
供田仁男

受審人
A 職名:漁成丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
漁成丸・・・船首部を圧壊、船首倉庫に浸水
ジ号・・・左舷船首部外板に凹損を伴う擦過傷

原因
漁成丸・・・法定灯火不表示、見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
ジ号・・・動静監視不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、漁成丸が、法定灯火を適切に点灯しなかったばかりか、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、ジンロンが、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年11月21日18時40分
 愛知県野間埼南南西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船漁成丸 貨物船ジンロン
総トン数 9.98トン 4,822トン
全長   113.00メートル
登録長 13.90メートル  
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力   3,353キロワット
漁船法馬力数 35  

3 事実の経過
 漁成丸は、小型底びき網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.30メートル船尾1.90メートルの喫水をもって、平成13年11月21日05時40分愛知県知柄漁港を発し、同県野間埼西方沖合の漁場に向かった。
 ところで、A受審人は、漁場では、日没後、操舵室上部のマスト頂部に緑色全周灯を、同灯直下にマスト灯を、操舵室頂部の左右前端に舷灯を、操舵室前部甲板上に笠付き白色作業灯を、及び同室後部甲板上に笠なし白色作業灯をそれぞれ点灯し、同甲板上に白色作業灯を点灯していたので、船尾灯を点灯しないまま操業にあたっていた。
 07時10分A受審人は、野間埼灯台から185度(真方位、以下同じ。)3海里ばかりの地点に至って操業を始め、シャコなどの漁獲物約60キログラムを獲たのち、日没後点灯していた灯火を点灯したまま、航行中の動力船が掲げる法定灯火を適切に点灯することなく、18時21分野間埼灯台から299度2.6海里の地点で操業を止め、針路を147度に定め、機関を微速力前進にかけて10.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)とし、自動操舵により帰途についた。
 18時26分A受審人は、漁網を洗網することにし、船尾から網を繰り出して海中に入れたことで、速力が9.0ノットまで低下したが、その速力を保って進行し、同時30分野間埼灯台から270.5度1.5海里の地点に達したとき、針路を陸岸に沿う142度に転じて続航した。
 18時35分少し前A受審人は、野間埼灯台から243度1.2海里の地点に達したとき、右舷船首10度2.0海里のところに、ジンロン(以下「ジ号」という。)が掲げる白、白、紅3灯を視認でき、その後、その方位に変化がなく、衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、左舷側を向いた姿勢をとり、甲板上に溜まったごみを散水して排水口から流し出すことに気を取られ、前路の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かなかった。
 18時38分A受審人は、野間埼灯台から219度1.2海里の地点に達したとき、右舷船首10度1,400メートルのところまで接近したジ号の灯火を視認できる状況となっていたが、依然として甲板上のごみを排水口から流し出すことに気を取られていて、このことに気付かず、衝突を避けるための措置をとることなく進行した。
 こうして、漁成丸は、A受審人が接近するジ号に気付かないまま続航中、18時40分野間埼灯台から206度1.3海里の地点において、原針路、原速力のまま、漁成丸の船首部がジ号の左舷船首部に前方から70度の角度をもって衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の北東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
 また、ジ号は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、船長G及び一等航海士Jほか15人が乗り組み、コンテナ250個を積載し、船首5.28メートル船尾6.23メートルの喫水をもって、同月18日17時19分(現地時刻)中華人民共和国大連港を発し、名古屋港に向かった。
 J一等航海士は、同月21日15時45分大王埼灯台から191度5.2海里の地点で、相当直の甲板手とともに船橋当直に就き、日没時に航行中の動力船が掲げる法定灯火を点灯し、18時25分野間埼灯台から170.5度4.4海里の地点に達したとき、針路を338度に定め、機関を全速力前進にかけて13.8ノットの速力とし、自動操舵により進行した。
 18時30分J一等航海士は、野間埼灯台から175度3.3海里の地点に達したとき、左舷船首6度3.8海里のところに、漁成丸が掲げる灯火のうち、緑灯1個を初認し、作動中のレーダーで同船の動向を確認したところ、一瞥しただけで同船がそのまま自船の左舷側を無難に航過して行くものと思い、その後、同船に対する動静監視を行うことなく続航した。
 18時35分少し前J一等航海士は、野間埼灯台から183度2.3海里の地点に達したとき、左舷船首6度2.0海里のところに、漁成丸の緑、白、緑3灯を視認でき、その後、その方位に変化がなく、衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、同船に対する動静監視を行っていなかったので、このことに気付かないまま進行した。
 18時38分J一等航海士は、野間埼灯台から194度1.6海里の地点に達したとき、左舷船首6度1,400メートルのところまで接近した漁成丸の灯火を視認できる状況となっていたが、依然として同船に対する動静監視を十分に行っていなかったので、このことに気付かないまま続航した。
 18時39分少し過ぎジ号は、J一等航海士が、前路間近に迫った漁成丸の灯火を視認し、驚いて右舵20度を取ったが、及ばず、ジ号の船首が032度を向いたとき、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、漁成丸は、船首部を圧壊して船首倉庫に浸水し、のち修理され、ジ号は、左舷船首部外板に凹損を伴う擦過傷を生じた。

(原因)
 本件衝突は、夜間、愛知県野間埼南南西方沖合において、操業を終え、同県知柄漁港に向けて南下する漁成丸が、法定灯火を適切に点灯しなかったばかりか、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、名古屋港に向けて北上するジンロンが、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人が、夜間、愛知県野間埼南南西方沖合において、操業を終え、同県知柄漁港に向けて南下する場合、名古屋港に向けて北上するジンロンを見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、操業後の甲板の清掃作業に気を取られ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、ジンロンと衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、衝突を避けるための措置をとらないまま進行して同船との衝突を招き、自船の船首部を圧壊して船首倉庫に浸水させ、ジンロンの左舷船首部外板に凹損を伴う擦過傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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