(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年7月1日14時10分
千葉県八幡岬東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第二摂津丸 |
漁船長盛丸 |
総トン数 |
498トン |
4.9トン |
全長 |
75.28メートル |
15.80メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,323キロワット |
264キロワット |
3 事実の経過
第二摂津丸(以下「摂津丸」という。)は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、船長Y及びA受審人ほか3人が乗り組み、珪石1,512トンを積載し、船首3.38メートル船尾4.40メートルの喫水をもって、平成13年6月30日09時50分徳島県中島港を発し、青森県尻屋岬港に向かった。
ところで、Y船長は、船橋当直体制を00時から04時及び12時から16時をA受審人、04時から08時及び16時から20時を次席一等航海士、そして08時から12時及び20時から24時を自身の単独4時間3直制とし、日頃から航海当直者に漁船を見たときには余裕をもって避けることなどを指示していた。
翌7月1日11時45分A受審人は、房総半島野島埼の東方5海里の地点で、前直のY船長と交替して船橋当直に就き、13時40分勝浦灯台から140度(真方位、以下同じ。)4.5海里の地点において、針路を036度に定め、機関を全速力前進にかけ、11.3ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、自動操舵によって進行した。
14時02分A受審人は、勝浦灯台から091度5.3海里の地点において、右舷船首14度3.5海里に長盛丸を初めて視認し、同時06分同灯台から085度5.8海里の地点に達したとき、同船を同方位1.8海里に見るようになり、その方位が変わらず、前路を左方に横切り、衝突のおそれがある態勢で接近するのを認めたが、小型漁船なのでそのうちに長盛丸が左転して右舷を対して替わるものと思い、速やかに右転するなどして同船の進路を避けることなく続航した。
14時09分A受審人は、勝浦灯台から081度6.2海里の地点に達したとき、長盛丸が左転する気配を示さないまま右舷船首14度0.5海里に接近したので、操舵を手動に切り替え、注意喚起信号のつもりで汽笛を連続して吹鳴しながら、依然同船の進路を避けないまま進行し、14時10分わずか前機関を微速力前進とし、右舵一杯にとったが、及ばず、14時10分勝浦灯台から080度6.3海里の地点において、摂津丸は、船首が046度を向いたとき、ほぼ原速力のまま、その右舷船首と長盛丸の船首とが前方から13度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の南西風が吹き、波高1メートルの波浪があった。
Y船長は、自船の汽笛音を聞いて急ぎ昇橋し、長盛丸と衝突したことを知り、事後の措置に当たった。
また、長盛丸は、船体後部に操舵室を設けたFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、いか一本釣り漁の目的で、船首0.25メートル船尾1.83メートルの喫水をもって、平成13年7月1日03時00分千葉県鴨川漁港を発し、勝浦灯台の南東方約13海里の漁場に向かった。
05時ごろB受審人は、漁場に到着して操業を開始したが、釣果がなかったので、09時30分勝浦灯台の北東方約27海里の漁場に移動し、いか約70キログラムを獲たところで操業を終え、12時49分勝浦灯台から064度26.1海里の地点を発進し、甲板上で操業の後片付けを行いながら、鴨川漁港の南方に近接する浜波太漁港に向かった。
B受審人は、甲板上で後片付けを終えたのち、操舵室の後方に立って同室の屋根越しに見張りに当たり、13時14分勝浦灯台から063度21.4海里の地点において、針路を239度に定め、機関を半速力前進にかけて16.5ノットの速力とし、自動操舵により進行していたところ、打ちあがるしぶきが激しくなってきたので、間もなく操舵室内に入り、同室左舷側のいすに腰掛け、背後の魚群探知機に寄りかかって見張りに当たった。
ところで、B受審人は、日頃から夜間十分な睡眠がとれず、いつも眠気が抜けない状態が続いており、眠気を催したときには立ち上がったりタバコを吸ったりして眠気を覚ましていた。
13時55分B受審人は、勝浦灯台から072度10.3海里の地点で千葉県漁業無線局に浜波太漁港到着予定の時刻を無線で連絡し、その後も依然同じ姿勢で見張りをしながら続航していたところ、早朝からの疲れも重なって眠気を催すようになったが、多数の船舶が航行している海域であり、時には避航しなければならないこともあるので、まさか居眠りに陥ることはないものと思い、立ち上がって眠気を払うなど居眠り運航の防止措置をとることなく進行中、いつしか居眠りに陥った。
14時06分B受審人は、勝浦灯台から077度7.3海里の地点に達したとき、左舷船首9度1.8海里に前路を右方に横切る態勢の摂津丸を視認でき、衝突のおそれがある態勢で互いに接近するのを認め得る状況であったが、居眠りをしていてこのことに気づかず、同時09分同船が同方位0.5海里に接近したが、警告信号を行わず、同船の発した汽笛にも目覚めず、更に間近に接近しても速やかに行きあしを止めるなど衝突を避けるための協力動作をとることなく進行中、長盛丸は、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、摂津丸は、右舷船首外板に擦過傷を生じ、長盛丸は、船首部を圧壊したが、のちいずれも修理され、B受審人が、肋軟骨骨折及び胸部打撲を負った。
(原因)
本件衝突は、千葉県八幡岬東方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、摂津丸が、前路を左方に横切る長盛丸の進路を避けなかったことによって発生したが、長盛丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、千葉県八幡岬東方沖合を北上中、前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する長盛丸を認めた場合、速やかに右転するなどして同船の進路を避けるべき注意義務があった。しかるに、同人は、小型漁船なのでそのうちに長盛丸が左転して右舷を対して替わるものと思い、同船の進路を避けなかった職務上の過失により、同じ針路、速力のまま進行して同船との衝突を招き、摂津丸の右舷船首外板に擦過傷を生じさせ、長盛丸の船首を圧壊させるとともに、B受審人に肋軟骨骨折及び胸部打撲を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、千葉県八幡岬東方沖合を西行中、眠気を催した場合、立ち上がって眠気を払うなど、居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、多数の船舶が航行する海域であり、時には避航しなければならないこともあるので、まさか居眠りに陥ることはあるまいと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、いつしか居眠りに陥り、左舷前方から前路を右方に横切る態勢で接近する摂津丸に気付かず、警告信号を行うことも、更に間近に接近しても速やかに行きあしを止めるなど衝突を避けるための協力動作をとることもしないまま進行して同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせたほか、自らも負傷するに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。