(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年8月13日00時50分
熊野灘
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第二十一蛭子丸 |
漁船第27長久丸 |
総トン数 |
299トン |
19トン |
全長 |
50.63メートル |
22.20メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
588キロワット |
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漁船法馬力数 |
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190 |
3 事実の経過
第二十一蛭子丸(以下「蛭子丸」という。)は、専ら徳島小松島港あるいは徳島県今切港から名古屋港あるいは四日市港への液体化学薬品のばら積み輸送に従事する船尾船橋型の鋼製貨物船で、船長D及び雇入の職務を三席一等航海士としたA受審人ほか1人が乗り組み、苛性ソーダ405立方メートルを積載し、船首3.4メートル船尾4.3メートルの喫水をもって、平成13年8月12日10時00分今切港を発し、四日市港に向かった。
ところで、D船長は、船橋当直を単独の4時間輪番制とし、平素、熊野灘を北上するときには、昼夜にかかわらず、三重県三木埼沖合から同県御座岬に向かい、その後布施田水道、加布良古水道及び桃取水道を通航し、そのことを各当直者が知っており、針路の設定については各当直者に任せていた。
A受審人は、23時00分三木埼灯台から156度(真方位、以下同じ。)7.4海里の地点で船橋当直に就き、翌13日00時00分同灯台から089度9.6海里の地点に差し掛かったとき、ジャイロコンパスを装備していないため、いつものように磁気コンパスによる自動操舵のまま、針路を038.5度に定め、機関を全速力前進にかけ、航行中の動力船の灯火を表示し、9.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。
定針時にA受審人は、12海里レンジとしたレーダーにより船首方約8海里から前方に漁船群の映像を探知し、このまま進行しても右舷側の漁船群とは0.5海里、左舷側の漁船群とは2海里それぞれ離れて航過できるものと判断して続航した。
00時45分A受審人は、御座埼灯台から220度12.8海里の地点に達したとき、左舷船首42.5度1,590メートルのところに、第27長久丸(以下「長久丸」という。)がおり、同船の白、緑2灯を認めることができ、その後同船が前路を右方に横切り、衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、操舵室中央の舵輪の後方に立って右方を向き、右舷側の漁船群との航過距離を確認することに気をとられ、周囲の見張りを十分に行わなかったので、長久丸が接近していることに気づかないまま、同じ針路、速力で進行した。
00時47分A受審人は、御座埼灯台から220度12.5海里の地点に至り、長久丸が方位変化のないまま960メートルに接近したが、依然、同船に気づかず、警告信号を行うことも、更に接近しても長久丸との衝突を避けるための協力動作をとることもせずに続航した。
00時50分少し前A受審人は、右舷側の漁船群と無難に航過できることを確認したのち、ふと前方を見たとき、左舷船首間近に長久丸が表示する白、緑2灯及び同船の船体を初めて認め、衝突の危険を感じ、慌てて手動操舵として右舵一杯にとり、機関を中立としたが間に合わず、00時50分御座埼灯台から220度12.0海里の地点において、蛭子丸は、船首が048.5度を向いたとき、原速力のまま、その船首が、長久丸の右舷前部に後方から64.5度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力4の東風が吹き、潮候は下げ潮の初期にあたり、視界は良好であった。
また、長久丸は、漁獲物運搬船としてまき網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人ほか1人が乗り組み、空倉のまま、船首0.75メートル船尾2.25メートルの喫水をもって、同月12日15時30分三重県奈屋浦漁港を発し、御座岬南西方約3海里の漁場に向かい、17時ごろ同漁場に到着した。
B受審人は、日没後に集魚灯を利用してアジ、サバ及びイワシ等を対象に行う操業に従事したのち、前示漁場から南西方に広がって多数の漁船が操業している海域の魚群探索を行う目的で、22時00分御座埼灯台から232度3.5海里の地点を発進し、航行中の動力船の灯火を表示し、操舵室右舷側に固定したいすに腰掛け、漁船群の中をジグザクに航行しながら行う同探索を開始した。
翌13日00時40分B受審人は、御座埼灯台から226度12.2海里の地点で、前示海域の南端部に至って漁船群が途切れたとき、針路を135度に定め、機関を半速力前進にかけ、7.2ノットの速力で、引き続き魚群探索を行いながら、自動操舵によって進行した。
00時45分B受審人は、御座埼灯台から223度12.2海里の地点に達したとき、前示漁船群の東南東方の海域に向かって魚群探索することとし、針路を113度に転じ、同じ速力のまま続航した。
転針時にB受審人は、右舷船首63度1,590メートルのところに、蛭子丸がおり、同船の白、白、紅3灯を認めることができ、その後同船が前路を左方に横切り、衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、御座岬南西方に広がる漁場の北東方に布施田水道があるものの、夜間は漁船が多いので狭い水道を通航する船舶はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかったので、蛭子丸が接近していることに気づかないまま、同じ針路、速力で進行した。
00時47分B受審人は、御座埼灯台から221.5度12.1海里の地点に達したとき、蛭子丸が方位変化のないまま960メートルに接近したが、依然、同船に気づかず、蛭子丸の進路を避けずに続航中、長久丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、蛭子丸は左舷船首部に擦過傷を、長久丸は右舷前部外板に亀裂を伴う損傷をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理された。
(原因)
本件衝突は、夜間、熊野灘において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、長久丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る蛭子丸の進路を避けなかったことによって発生したが、蛭子丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は、夜間、熊野灘において、魚群探索を行いながら東行する場合、夜間でも布施田水道を通航するため北上する船舶がいるから、前路を左方に横切り、衝突のおそれがある態勢で接近する船舶を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、御座岬南西方に広がる漁場の北東方に布施田水道があるが、夜間は漁船が多いので狭い水道を通航する船舶はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、北上する蛭子丸に気づかず、同船の進路を避けないまま進行して衝突を招き、蛭子丸の左舷船首部に擦過傷を、長久丸の右舷前部外板に亀裂を伴う損傷をそれぞれ生じさせるに至った。
A受審人は、夜間、熊野灘において、前路に操業中の漁船群を認めて北上する場合、魚群探索を行いながら東行する漁船がいるから、前路を右方に横切り、衝突のおそれがある態勢で接近する漁船を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、右舷側の漁船群との航過距離を確認することに気をとられ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、東行する長久丸に気づかず、警告信号を行うことも、衝突を避けるための協力動作をとることもせずに進行して同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。