(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年9月15日03時23分
伊豆半島南東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船ふじまりん |
遊漁船正宝丸 |
総トン数 |
11,433トン |
12トン |
全長 |
149.90メートル |
17.30メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
12,871キロワット |
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漁船法馬力数 |
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120 |
3 事実の経過
ふじまりんは、船体中央部に船橋を有する自動車運搬船で、A受審人、B受審人ほか10人が乗り組み、車両984台を載せ、船首6.46メートル船尾7.00メートルの喫水をもって、平成13年9月14日20時10分名古屋港を発し、宮城県仙台塩釜港に向かった。
A受審人は、出港操船に続いて伊勢湾及び伊良湖水道通航の指揮に当たり、22時30分伊勢湾第2号灯浮標の東方5海里の地点で甲板長に船橋当直を任せて降橋した。
A受審人は、船橋当直を4時間3直制として各直に甲板手1名を配し、00時から04時までと12時から16時までをB受審人に、04時から08時までと16時から20時までを一等航海士に、20時から24時までを広い海域においては甲板長にそれぞれ受け持たせ、自らは08時から12時までの船橋当直に就いて、甲板長の当直中でも状況によっては船橋当直に入ることもあり、また、出入港時、狭水道通航時、視界制限時、漁船が多いときなどにはいつも昇橋して操船の指揮を執っていた。
ところで、A受審人は、同年8月25日初めてふじまりんに乗船してから、入港後スケジュールの打合せを行うときなど事務室に甲板部職員、同部員を集め、視界が悪くなったとき、漁船が多いとき、その他不安や異常を感じたときなどにはいつでも報告するように、また、見張りを十分に行い、漁船に対しては汽笛を鳴らしたり、舵のみで避航できないようなときには機関を使用して避航することなど当直中の注意事項についての指示を行っていた。
23時45分B受審人は、舞阪灯台の南方8.8海里の地点で昇橋し、航行中の動力船の灯火が表示されていることを確認したのち、甲板長から当直を引き継いで相直の甲板手とともに船橋当直に就いた。
翌15日03時02分B受審人は、神子元島灯台から180度(真方位、以下同じ。)4.0海里の地点において、針路を074度に定め、機関を全速力前進にかけ、20.9ノットの対地速力(以下「速力」という。)で自動操舵によって進行した。
03時10分B受審人は、神子元島灯台から140度4.2海里の地点に達したとき、レーダーで右舷船首遠方に認めた反航船と余裕を持って無難に航過しようと、同じ速力のまま針路を070度に転じた。
B受審人は、針路を転じたとき左舷船首33度3.9海里のところに正宝丸のレーダー映像を初めて認め、その後同船の緑灯を双眼鏡で確認し、衝突予防援助装置で追跡を始めたレーダー画面と肉眼とにより同船の動静を監視しながら続航した。
03時17分B受審人は、神子元島灯台から116度5.6海里の地点に達したとき、正宝丸が方位変化のないまま1.8海里のところに前路を右方に横切り、衝突のおそれのある態勢で接近するのを認め、避航を促すつもりで持運び式信号灯を点滅したが、警告信号を行わなかった。
03時20分B受審人は、神子元島灯台から109度6.4海里の地点で、正宝丸が依然方位変化なく、0.9海里に接近したとき、同船が適切な避航動作をとっていないことが明らかとなったが、そのうちに自船に気付いて避航するものと思い、自船の速力や操縦性能を考慮して針路及び速力の保持義務から離れ、直ちに機関を使用するなり、速やかに右転するなど衝突を避けるための動作をとることなく、前示信号灯による照射を繰り返しながら進行中、03時23分神子元島灯台から103度7.2海里の地点において、ふじまりんは、原針路、原速力のまま、その船首が正宝丸の右舷中央部に後方から60度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力3の北北東風が吹き、視界は良好であった。
B受審人は、相手船を見失ったあと、レーダー画面で右舷船尾方約1海里に小さな映像を認めたことから、同船と無難に替わったものと判断し、A受審人に同船との異常接近模様を報告しないまま続航した。
A受審人は、衝突の事実を知らなかったところ、同日夕刻仙台塩釜港に入港し、ナブテックスの情報に接したB受審人から漁船と異常接近した旨の報告を受け、夜間に船体損傷の有無を調査したが、損傷を認めることができないまま同港を出港し、北海道苫小牧港に向けて航行中、名古屋海上保安部からの問合せに対して異常接近したことについて報告し、翌16日同港に入港後、海上保安官の検査に立会い、右舷船首部外板の擦過傷と白ペイントの付着を認め、初めて衝突の事実を知り、事後の措置に当たった。
また、正宝丸は、FRP製の小型遊漁兼用船で、C受審人が1人で乗り組み、釣り客9人を乗せ、遊漁の目的で、船首0.65メートル船尾1.65メートルの喫水をもって、同月15日02時30分静岡県下田港を発し、航行中の動力船の灯火を表示し、東京都新島村若郷漁港に向かった。
02時45分C受審人は、神子元島灯台から007度3.8海里の地点において、針路を130度に定め、機関を全速力前進にかけ、14.0ノットの速力で自動操舵によって進行した。
ところで、C受審人は、レーダー監視を行う際、船首方向の小型船の映像をより鮮明に映し出すために3マイルレンジとし、物標拡大方式として画像中心を画面下部に設定していたので、横及び後ろ方向の物標が画面上に表示されない状況となっていた。
03時15分C受審人は、神子元島灯台から098度6.0海里の地点に差し掛かったとき、右舷正横方2.4海里にふじまりんの白、紅2灯を初めて視認したが、一見して自船の後方を替わるものと思い、その後同船に対する動静監視を行わず、そのころ右舷前方を北上する第三船を避航するため速力を半速力前進の11.0ノットに減じ、手動操舵に切り替えて針路を南に転じたのち、同時16分同船が替わったので原針路線上に戻すべく針路を東に転じた。
03時17分C受審人は、神子元島灯台から099度6.2海里の地点に達し、11.0ノットの速力のまま原針路の130度に戻したとき、右舷正横前3度1.8海里のところに前路を左方に横切り、衝突のおそれのある態勢で接近するふじまりんを認め得る状況であったが、依然同船に対する動静監視を行っていなかったので、このことに気付かず、速やかに右転するなど同船の進路を避けることなく続航した。
03時20分C受審人は、神子元島灯台から102度6.7海里の地点で、ふじまりんが方位変化のないまま0.9海里に接近したが、同船を認めないまま進行中、突然衝撃を受け、正宝丸は、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、ふじまりんは、右舷船首部外板に擦過傷を生じ、正宝丸は、船体中央部やや船首寄りのところで船横方向に切断され、船体後部が沈没し、船体前部は僚船により下田港に引き付けられたが、のち廃船処分とされた。また、C受審人及び釣り客8人は浮遊していた船体前部につかまって漂流しているところを通りかかったプレジャーボートに救助されたが、漂流者全員が打撲傷などを負い、釣り客K(昭和31年8月26日生)が行方不明となり、のち死亡と認定された。
(原因)
本件衝突は、夜間、伊豆半島南東方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近中、正宝丸が、動静監視不十分で、前路を左方に横切るふじまりんの進路を避けなかったことによって発生したが、ふじまりんが、警告信号を行わず、衝突を避けるための動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
C受審人は、夜間、伊豆半島南東方沖合を南下中、前路を左方に横切るふじまりんの灯火を認めた場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、一見して自船の後方を替わるものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、ふじまりんと衝突のおそれのある態勢で接近する状況であることに気付かず、速やかに右転するなど同船の進路を避けないまま進行して衝突を招き、正宝丸の中央部やや船首寄りのところで船横方向に切断させ、ふじまりんの右舷船首部外板に擦過傷を生じさせるとともに、自ら及び釣り客8人に打撲傷などを負わせ、釣り客1人を死亡させるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月15日停止する。
B受審人は、夜間、伊豆半島南東方沖合を東行中、前路を右方に横切り、衝突のおそれのある態勢で接近する正宝丸を認め、同船が適切な避航動作をとっていないことが明らかになった場合、自船の速力や操縦性能を考慮して針路及び速力の保持義務から離れ、直ちに機関を使用するなり、速やかに右転するなど衝突を避けるための動作をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、正宝丸がそのうちに避航するものと思い、衝突を避けるための動作をとらなかった職務上の過失により、警告信号を行わないまま進行して同船との衝突を招き、前示のとおり両船に損傷を生じさせ、C受審人ほか釣り客9人を死傷させるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
A受審人の所為は本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。