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平成14年仙審第5号
件名

漁船第三幸成丸漁船第五神成丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年7月18日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(上中拓治、亀井龍雄、大山繁樹)

理事官
熊谷孝徳

受審人
A 職名:第三幸成丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:第五神成丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
幸成丸・・・船首部船底外板に破口を伴う擦過傷
神成丸・・・右舷中央部外板及び船底中央部に大破口、転覆し、のち廃船

原因
幸成丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
神成丸・・・見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第三幸成丸が、見張り不十分で、漂泊中の第五神成丸を避けなかったことによって発生したが、第五神成丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年11月24日14時45分
 岩手県越喜来湾

2 船舶の要目
船種船名 漁船第三幸成丸 漁船第五神成丸
総トン数 9.13トン 1.1トン
全長 17.80メート 8.20メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 120 25

3 事実の経過
 第三幸成丸(以下「幸成丸」という。)は、いか釣り漁業に従事するFRP製漁船で、受審人Aほか1人が乗り組み、砕氷積み込みの目的で、船首0.6メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成12年11月24日14時40分岩手県鬼沢漁港を発し、同県越喜来漁港に向かった。
 ところで、幸成丸の操舵室からは、前部甲板に張られたオーニングによって前方に死角ができるので、A受審人は、操舵室の屋上に見張り用の小室を増設し、操舵室天井に開口を設け、台に上がって同開口から上半身を出し、同室の窓から死角のない状態で見張りを行えるように改造していた。
 A受審人は、越喜来湾に多数設置されている養殖施設を迂回するために湾奥の鷲の巣埼寄りを航行することとし、14時43分鬼沢港東防波堤灯台から008度(真方位、以下同じ。)80メートルの地点で、同埼先端を船首やや左に見るよう針路を035度に定め、機関を8.0ノットの半速力前進にかけ、遠隔操舵により進行した。
 定針したときA受審人は、正船首500メートルのところに第五神成丸(以下「神成丸」という。)がおり、動きがないことから漂泊中であると認めることができる状況であったが、そのころ持病の痛風が痛み出したことから、鷲の巣埼を通過してから台に上がろうと思い、操舵室の窓から死角のあるまま見張りを行っていたので、同船の存在に気付かなかった。
 A受審人は、自船が神成丸に向首したまま接近していることに気付かず、同船を避けることなく続航し、14時45分鬼沢港東防波堤灯台から032度580メートルの地点において、幸成丸は、原針路、原速力のまま、その船首が神成丸の右舷中央部に後方から75度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、視界は良好であった。
 また、神成丸は、採介藻漁業などに従事するFRP製漁船で、受審人Bが1人で乗り組み、かご漁の目的で、船首0.25メートル船尾0.60メートルの喫水をもって、同日13時15分鬼沢漁港を発し、前日にかごを取り付けたはえ縄を設置しておいた鷲の巣埼南方沖合に向かった。
 B受審人は、13時20分ごろはえ縄設置場所に到着し、先ず全かごを揚収して漁獲物を取り込み、えさを取り換えたうえ、14時20分ごろから再度かごの設置作業を行い、機関を極微速力後進に使用して後退しながらかごを順次投下してゆき、同時40分ごろ衝突地点において同作業を終了し、機関を中立運転にして漂泊し、甲板に残った海藻などのゴミを捨て始めた。
 B受審人は、漂泊を開始したとき一度周囲を見回し、動いている船舶のないことを確認したが、その後は、接近する船があっても停まっている自船を見て避けてくれるものと思い、周囲の見張りを行わなかったので、まもなく幸成丸が鬼沢漁港を出港し、14時43分には110度を向いた自船の右舷正横後15度500メートルのところで、自船に向首する態勢となったことに気付かなかった。
 B受審人は、その後も幸成丸の接近に気付かないままゴミ捨てを続け、クラッチを入れて移動するなどの衝突を避けるための措置をとることができないまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、幸成丸は船首部船底外板に破口を伴う擦過傷を生じ、神成丸は右舷中央部外板及び船底中央部に大破口を生じるとともに転覆し、のち廃船とされた。

(原因)
 本件衝突は、岩手県越喜来湾において、航行中の幸成丸が、見張り不十分で、前路で漂泊している神成丸を避けなかったことによって発生したが、神成丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、越喜来湾を航行中、操舵室の窓からは前部甲板のオーニングにより船首方向に死角を生じる場合、死角のない状態で見張りを行えるよう、台に上がって操舵室の屋上に設けられた小室の窓から見張りを行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、痛風の痛みがあったことから台に上がることをせず、操舵室の屋上に設けられた小室の窓から見張りを行わなかった職務上の過失により、前路で漂泊中の神成丸に気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招いた。その結果、幸成丸は船首部船底外板に破口を伴う擦過傷を生じ、神成丸は右舷中央部外板及び船底中央部に大破口を生じて転覆し、のち廃船となるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 B受審人は、越喜来湾湾奥部で漂泊する場合、衝突のおそれのある態勢で接近する船舶があれば、クラッチを入れて移動するなどの衝突を避けるための措置をとる必要があったから、そのような船舶を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、自船が停まっているので他の船舶が避けてくれるものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、幸成丸の接近に気付かず、クラッチを入れて移動するなどの衝突を避けるための措置をとれないまま衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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