(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年11月10日11時20分
北海道松前港西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第八甚栄丸 |
遊漁船第18高栄丸 |
総トン数 |
9.7トン |
4.93トン |
全長 |
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12.50メートル |
登録長 |
14.71メートル |
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機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
120 |
30 |
3 事実の経過
第八甚栄丸(以下「甚栄丸」という。)は、刺し網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、たら刺し網漁の目的で、船首0.9メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、平成13年11月10日04時00分北海道松前郡静浦漁港を発し、同漁港南西方沖合の漁場に向かった。
A受審人は、05時10分ごろ静浦漁港南西方沖合に存在する小島の南西方2海里付近の漁場に至り、前日投網していた刺し網を揚網したのち積んできた刺し網2はえを投網し、まだら100キログラムを獲て操業を終え、10時40分松前小島灯台(以下「小島灯台」という。)から215度(真方位、以下同じ。)2.6海里の地点を発進し、同漁港に向け帰航の途に就いた。
発進時、A受審人は、針路を054度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進の回転数毎分1,700にかけ、折からの東方に流れる約1ノットの海潮流により右方に2度ばかり圧流されながら10.1ノットの対地速力で、操舵室中央の舵輪後方で両舷間に渡した高さ80センチメートルの板(以下「渡し板」という。)に腰を掛けて見張りに当たり進行した。
11時00分A受審人は、前路に認めていた漁船を避けるため、手動操舵に切り替えて4度左転し050度の針路とし、同時02分小島灯台から092度1.6海里の地点に差し掛かり同船が無難に替わる状況となったとき、針路を054度に戻し、右方に2度ばかり圧流されながら自動操舵により続航した。
A受審人は、11時18分半少し前、小島灯台から069度4.2海里の地点に達したとき、正船首500メートルのところに、船首を北方に向け漂泊を続けていた第18高栄丸(以下「高栄丸」という。)を視認することができ、その後同船に衝突のおそれがある態勢で接近したが、漁船をかわし終えたことに気を緩め一べつして前路に支障となる他船がいないものと思い、左舷方で操業中のいか釣り漁船群の動静に気をとられ、船首方の見張りを十分に行わなかったので、これに気付かず、高栄丸を避けないまま続航中、11時20分小島灯台から068度4.5海里の地点において、甚栄丸は、原針路、原速力のまま、その船首が高栄丸の左舷中央部に後方から79度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力1の北風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、衝突地点付近には東方に流れる1ノットばかりの海潮流があった。
また、高栄丸は、木製の小型遊漁兼用船で、汽笛を装備せず、B受審人が知人から譲り受け遊漁船として登録を受けないまま釣り客を乗せ遊漁業に使用されていたところ、一級小型船舶操縦士免状失効中の同受審人が1人で乗り組み、釣り客7人を乗せ、遊漁の目的で、船首0.4メートル船尾1.7メートルの喫水をもって、同日06時30分松前港を発し、同港西方沖合の漁場に向かった。
B受審人は、発港にあたり、釣り客に救命胴衣を着用するよう指示し、釣り客全員が防寒衣のうえなどにそれぞれ救命胴衣を着け、07時30分ごろ小島東北東方5海里付近の目的の漁場に到着し、その後時々潮昇りを繰り返しながら遊漁を行った。
11時17分少し前、B受審人は、前示衝突地点付近において、機関を停止回転にかけクラッチを中立とし、船尾に三角帆を掲げ船首が北北西方に向いた状態で、東方に少しずつ圧流されながら漂泊を続けて釣り客に釣りをさせ操舵室で見張りに当たっていたとき、左舷正横少し後方1,000メートルに北上中の甚栄丸を初めて視認し、さほど気にとめずに目を離し釣り客の様子を見ていた。
11時18分半少し前、B受審人は、船首が335度に向いていたとき、左舷船尾81度500メートルに接近した甚栄丸を再び認めたが、同船の船首から右舷側が見えているような印象を受け一べつして自船の船首方を替わっていくものと思い、そのとき釣り客が釣り糸を上げ始めて糸が絡んだことから、右舷側の窓から顔を出して糸の解き方の指示を与え、引き続き甚栄丸に対する動静監視を行っていなかったので、同船が避航の気配のないまま自船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近することに気付かず、機関のクラッチを入れて移動するなど衝突を避けるための措置をとらないまま漂泊中、11時20分わずか前、釣り客の発した大声で振り向いたとき、左舷正横至近に迫った甚栄丸を認めたがどうすることもできず、船首を335度に向けたまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、甚栄丸は、船首部に擦過傷及びペイント剥離を生じ、高栄丸は、左舷中央部に破口を生じ浸水して水船となり、松前港に引き付けられたのち解撤され廃船となった。また、B受審人及び釣り客6人は、間もなく甚栄丸に救助されたが、釣り客M(昭和8年8月30日生)は、救命胴衣を着用して左舷船首部にいたところ、衝撃で海中に転落した際に救命胴衣がたまたま外れ、行方不明となったのち発見され、甚栄丸に救助されて病院に搬送されたものの、溺水による死亡と検案された。
(原因)
本件衝突は、北海道松前港西方沖合において、漁場から帰航中の甚栄丸が、見張り不十分で、前路で漂泊中の高栄丸を避けなかったことによって発生したが、高栄丸が、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
なお、高栄丸の釣り客が死亡したのは、海中に転落した際に救命胴衣が外れたことによるものである。
(受審人の所為)
A受審人は、松前港西方沖合において、漁場から静浦漁港に向け帰航する場合、前路で漂泊中の高栄丸を見落とすことのないよう、船首方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、漁船をかわし終えたことに気を緩め一べつして前路に支障となる他船がいないものと思い、左舷方で操業中のいか釣り漁船群の動静に気をとられ、船首方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、漂泊中の高栄丸に気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、甚栄丸の船首部に擦過傷及びペイント剥離を、高栄丸の左舷中央部に破口をそれぞれ生じさせ、海中に転落した釣り客1人が溺水により死亡するに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
B受審人は、松前港西方沖合の漁場で漂泊して遊漁中、北東進する甚栄丸を視認した場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、引き続き同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、一べつして自船の船首方を替わっていくものと思い、そのとき釣り客が釣り糸を上げ始めて糸が絡んだことから、右舷側の窓から顔を出して糸の解き方の指示を与え、引き続き甚栄丸に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船が自船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、機関のクラッチを入れて移動するなど衝突を避けるための措置をとることなく漂泊を続け、甚栄丸との衝突を招き、前示の損傷などを生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって、主文のとおり裁決する。