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平成14年函審第14号
件名

漁船第十八天祐丸漁船第十一吉祥丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年7月3日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(古川隆一、安藤周二、工藤民雄)

理事官
堀川康基

受審人
A 職名:第十八天祐丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
C 職名:第十一吉祥丸一等航海士兼漁労長 海技免状:五級海技士(航海) 
指定海難関係人
B 職名:第十八天祐丸甲板長

損害
天祐丸・・・右舷中央部外板に破口
吉祥丸・・・船首部に擦過傷

原因
天祐丸・・・居眠り運航防止措置不十分

主文

 本件衝突は、第十一吉祥丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路で漂泊中の第十八天祐丸を避けなかったことによって発生したものである。
 受審人Cの五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年9月15日10時30分
 色丹島東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第十八天祐丸 漁船第十一吉祥丸
総トン数 160トン 153トン
全長 43.10メートル 35.70メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット 647キロワット

3 事実の経過
 第十八天祐丸(以下「天祐丸」という。)は、さんま棒受け網漁業に従事する鋼製漁船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか15人が乗り組み、操業の目的で、船首2.0メートル船尾4.8メートルの喫水をもって、平成12年9月13日11時45分宮城県女川港を発し、翌14日夕方色丹島南方の漁場に至って操業を行い、さんま9トンを漁獲したところで操業を打ち切り、漁場を移動することにし、翌15日05時00分色丹島南方38海里付近を発進し、同島東方の次の漁場に向かった。
 ところで、天祐丸は、同年8月下旬から開始した漁期には、日没前からの魚群探索に引き続いて夜間の投揚網を繰り返したのち日出後から夕方まで機関を停止して漂泊し、船橋当直者1人を除き乗組員全員が次の夜間操業に備え休息をとるようにしていた。
 A受審人は、平素船橋当直者に対し、見張りを十分に行い、霧で視界が制限されたり他船が往来して船舶が輻輳したりなど、運航に不安を覚えたときには報告することを指示しており、発進時から船橋当直に就いて色丹島南方沖を東行し、07時00分次直の甲板員に船橋当直を行わせる際、09時00分に他船を3海里以上離して漂泊を開始することをB指定海難関係人に申し送るよう指示して自室で休息をとった。
 B指定海難関係人は、09時00分少し前船橋当直に入直する際、前直の甲板員から船長の指示を引き継ぎ、同時00分色丹島灯台から107度(真方位、以下同じ。)21.0海里付近で、周囲に同業船が10隻ばかり適度の間隔を保って漂泊している状況のもと前方2隻の同業船を4海里ばかり離して機関を停止し、漂泊を開始した。
 漂泊開始後、B指定海難関係人は、12海里レンジとしたレーダーを見ながら右舷側の椅子に腰を掛けて見張りに当たり、09時50分船首が南東方を向いて漂泊中、右舷正横約8海里に第十一吉祥丸(以下「吉祥丸」という。)の映像を探知し、その後時折同船の動静を監視していたところ、10時23分船首が148度を向いているとき、右舷正横1.0海里に吉祥丸が接近し、同船は魚群探索中であろうから自船を避けるものと期待しているうち、吉祥丸が自船に向首して衝突のおそれのある態勢で接近することを知り、10時29分わずか前右舷正横300メートルとなり、エアーホーンによる警告信号を行い、更に吹鳴を続けたが効なく、10時30分色丹島灯台から107度21.0海里の地点において、天祐丸は、148度を向首し、その右舷中央部に吉祥丸の船首が90度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風力3の東北東風が吹き、潮候は上げ潮の初期で、視界は良好であった。
 A受審人は、衝撃で目覚め、急ぎ昇橋したところ、吉祥丸と衝突したことを知り、事後の措置に当たった。
 また、吉祥丸は、さんま棒受け網漁業に従事する鋼製漁船で、C受審人ほか14人が乗り組み、操業の目的で、船首1.8メートル船尾4.0メートルの喫水をもって、同月14日12時30分北海道花咲港を発し、17時00分色丹島南方50海里の漁場に至り、魚群探索を開始して西行しながら探索を続けたものの、魚影を発見できないことから漁場を移動することとし、翌15日03時00分納沙布岬南東方19海里付近を発進し、同島東方の次の漁場に向かった。
 ところで、吉祥丸は、8月20日出漁を開始して以来、荒天や生産調整で休漁する以外は主に色丹島や択捉島沖合の漁場において夜間投揚網を行い、08時ごろから10時ごろにかけ花咲港などに帰港して水揚げを行った後、直ちに出港する日帰りの操業を繰り返していた。
 C受審人は、平成12年5月吉祥丸に一等航海士兼漁労長として乗り組んだもので、以前に他船でます漁及びさんま漁で船長職及び漁労長職を執り豊富な運航経験を有しており、同年9月11日岩手県宮古港で水揚げを行って以来、水揚げ港と漁場間の航海当直、魚群探索及び操業指揮に当たって操業を繰り返し、当時、長時間就労して日中に約2時間休息をとるだけで疲労が蓄積していた。
 C受審人は、09時00分色丹島灯台から144度16.0海里の地点に達したとき、前直の船長から前方に3隻、後方に1隻の同航船がいることを引き継いで1人で船橋当直に就いて立って見張りに当たり、針路を058度に定め、機関を半速力前進にかけ、8.5ノットの対地速力で自動操舵により色丹島東方沖合の漁場に向け進行した。
 定針後、C受審人は、レーダーで前方3隻の同航船が10海里ばかり先行していることを確かめたり魚群探知機を見たりして続航したところ、10時00分ごろから蓄積した疲労により眠気を催したが、前路に支障となる他船がいないことから少しの間椅子に腰を掛けて見張りに当たっても大丈夫と思い、休息中の甲板員を起こして2人当直とするなど、居眠り運航の防止措置をとることなく、左舷側の椅子に腰を掛けて見張りに当たっているうち、いつしか居眠りに陥った。
 C受審人は、10時23分色丹島灯台から109度20.3海里の地点に達したとき、正船首1.0海里に漂泊中の天祐丸を認めることができる状況で、その後同船に向首して衝突のおそれのある態勢で接近したが、居眠りしていてこのことに気付かず、同船を避けないまま続航中、10時30分少し前ふと目覚めて船首方に迫った天祐丸を認め、驚いて機関を全速力後進にかけたが効なく、吉祥丸は、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、天祐丸は、右舷中央部外板に破口などを生じたものの自力で花咲港に帰港し、吉祥丸は、船首部に擦過傷などを生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は、多数の漂泊船が存在する色丹島東方沖合において、吉祥丸が、漁場を移動中、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路で漂泊中の天祐丸を避けなかったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 C受審人は、多数の漂泊船が存在する色丹島東方沖合において、単独で船橋当直に就いて漁場を移動中、眠気を催した場合、疲労が蓄積していたから、居眠り運航とならないよう、休息中の甲板員を起こして2人当直とするなど、居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかし、同受審人は、前路に支障となる他船がいないことから少しの間椅子に腰を掛けて見張りに当たっても大丈夫と思い、休息中の甲板員を起こして2人当直とするなど、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠り運航となり、漂泊中の天祐丸を避けずに進行して同船との衝突を招き、同船の右舷中央部外板に破口などを、吉祥丸の船首部に擦過傷などを生じさせるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
 B指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:20KB)





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