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平成13年第二審第22号
件名

旅客船白龍丸沈没事件〔原審那覇〕

事件区分
沈没事件
言渡年月日
平成14年7月30日

審判庁区分
高等海難審判庁(田邉行夫、山?重勝、佐和 明、吉澤和彦、山本哲也)

理事官
保田 稔

受審人
A 職名:白龍丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
船尾部が破損、機関室等に浸水し、のち沈没、全損

原因
操船(ちちゅうをするなど適切な操船)不適切

二審請求者
受審人A

主文

 本件沈没は、操船が不適切で、船尾部が破損して機関室等に浸水し、浮力を喪失したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年7月22日15時00分
 鹿児島県トカラ群島宝島南方沖

2 船舶の要目
船種船名 旅客船白龍丸
総トン数 19トン
全長 16.67メートル
4.41メートル
深さ 1.07メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 188キロワット

3 事実の経過
 (1) 白龍丸の来歴
 白龍丸は、平成元年三重県の有限会社中源造船所において、ウオミサキ丸の船名で建造された、限定沿海区域を航行区域とする屋形船型のFRP製旅客船で、静岡県熱海市周辺で運航されていたが、売船され熊本県に回航されていた。
 平成12年3月Mは、沖縄県の中城湾においてレストランシップ付属の遊覧船として使用する目的で、船名が白龍丸と改められた同船を購入した。
 (2) 船舶検査
 白龍丸は、平成12年3月長崎、熊本、鹿児島及び甑島列島沿海に限定する沿海区域を航行区域とする船舶検査証書を、また、同時に沖縄まで回航するために同証書の書換えに代える臨時変更証取得のために日本小型船舶検査機構三角支所による船舶検査を受け、同月22日付けの船舶検査証書と4月20日までを期限とする臨時変更証を取得した。
 その後、白龍丸は、海上模様を見ての運航であったため、回航作業に遅れが生じ、臨時変更証の期限が切れるたびに同検査機構鹿児島支部による臨時検査を受け、鹿児島県串木野市において2回目の臨時変更証を、鹿児島市において3回目の臨時変更証(有効期間:平成12年7月1日から同月30日まで)をそれぞれ取得した。
 (3) 白龍丸の船体構造
 白龍丸は、2基2軸のディーゼル機関を有し、上甲板上には左右両舷が全面ガラス窓の客室があり、客室上層の遊歩甲板前部に操舵室が設けられていた。また、トランソムより後方に、長さ1.8メートル幅4.4メートルの船尾張出し甲板が設けられ、同甲板の下方には、船側外板と船尾外板とがスカート状に取り付けられ、これら外板の下端には、補強のために内側に約100ミリメートルの折り返しが取り付けられており、この結果、同甲板下の部分が袋状になっていた。
 上甲板下には、最船尾部に機関室が設置され、その前方には空所、清水タンク区画、燃料タンク区画、バウスラスター区画などが設けられていたが、これら区画を仕切る横隔壁には水密措置がとられないまま清水パイプや油圧パイプ等が貫通していたので、各区画の水密は保たれていなかった。
 (4) 受審人
 受審人Aは、昭和26年からタグボートの甲板員とし、昭和32年からは、タグボートの船長として国内各地を航行していた。昭和52年からは、船舶売買仲介業を営み、今回、白龍丸の売買に携わったことから、船主であるMの依頼を受けて、同船を熊本県宇土郡三角町から沖縄県浦添市まで回航することを請け負った。
 A受審人は、以前7回ばかり小型のタグボートなどを沖縄県まで回航した経験があった。この度の回航に当たっては、白龍丸が屋形船型であるので、外洋での荒天に耐える強度はないと思っていたが、天候を選んで、なぎのときに航海をすれば大丈夫であろうとの認識をもっていた。また、三角町を発して甑海峡に差しかかったとき、1メートル弱の波を受けただけで、波にたたかれて船体が振動し、速力が極端に落ちたので、波に弱い船だという認識をもっていた。
 (5) 沈没に至るまでの経緯
 白龍丸は、A受審人1人が乗り組み、平成12年5月1日三角町を発し、鹿児島県串木野港を経て6月初旬鹿児島港に入港した。その後、好天を待ち、平成12年7月19日船首0.6メートル船尾1.2メートルの喫水をもって鹿児島港を発し、途中、鹿児島県屋久島宮之浦港を経て同月21日同県宝島前篭漁港に至った。
 A受審人は、前篭漁港において、ラジオやテレビジョンで気象情報を入手し、翌22日空模様にも特に問題はなく、携帯電話で連絡をとり、回航の相談相手で、海事代理士の資格を有するNからの情報でも、関東東方沖合いに台風5号から変わった弱い熱帯低気圧があって、うねりは残るが、波高は低く、気をつけて航走すれば大丈夫との連絡を受け、鹿児島県名瀬港に向けて航行を続けることとした。
 天気は晴で風力1の南寄りの風が吹き、東方からのうねりが約2メートルの状況下、07時00分A受審人は、前篭漁港を発し、同時54分宝島荒木埼灯台から090度(真方位、以下同じ。)2.8海里の地点に達したとき、針路を165度に定め、6.3ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
 ところが、11時ごろから天気が急変して南西寄りの風波が強まり、速力も3.2ノットに落ち、11時30分宝島荒木埼灯台から158度22.2海里の地点に至り、南西風が風力4、波浪が約2メートルに達したとき、船尾方からの波浪を受けると船尾部が損傷を受けるおそれがあったが、A受審人は、そのまま続航することに不安を感じ、正船首より2ないし3点程度から波浪を受け、操舵力を保持する最小の速力をもって航行する、所謂、ちちゅうをするなど適切な操船を行うことなく、前篭漁港に引き返すこととし、左舵一杯として回頭中に右船尾が波浪に向いたとき、船尾方にドーンという大きな音を聞いた。
 白龍丸は、そのとき、船尾張出し甲板下の袋状となった部分に南西からの大波を受け、トランソム付近が破損して機関室への浸水が始まった。
 A受審人は、先ほどの音が気になり、確認するために船内を点検したところ、機関室内に大量の海水が浸水しているのを認め、その後、次第に前方の区画や客室にも浸水し、船尾が沈下するので、沈没の危険を感じ、膨張式救命いかだに移乗し、海面上に浮いていた船首部分にもやいをとって漂流を始め、その後、救助の貨物船の接近を見てもやいを切断し、救命いかだを漕いで救助の船に向かった。
 その直後の15時00分、白龍丸は、宝島荒木埼灯台から159度15.4海里の地点において、浮力を喪失して沈没した。
 浸水当時、天気は雨で風力4の南西風が吹き、同方向からの波浪が約2メートルに達し、東方から約2メートルのうねりがあったが、約30分後には風も弱まり、沈没時の天気は曇で、風力2の北北東風であった。
 沈没の結果、白龍丸は全損となり、A受審人は貨物船に救助された。

(原因)
 本件沈没は、鹿児島港から沖縄県浦添市へ屋形船型の白龍丸を回航するにあたり、天気の急激な変化に遭遇した際、操船が不適切で、船尾部が破損して機関室等に浸水し、浮力を喪失したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、鹿児島港から沖縄県浦添市へ屋形船型の白龍丸を回航するにあたり、鹿児島県宝島から名瀬港に向け航行中、天気の急激な変化に遭遇した場合、船尾方からの波浪を受けると船尾部が損傷を受けるおそれがあったから、ちちゅうをするなど適切な操船法をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、適切な操船法をとらなかった職務上の過失により、船尾部が波浪に叩かれて破損し、機関室及び客室等に浸水して浮力を喪失し、白龍丸の沈没を招き、全損となるに至らしめた。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。

(参考)  本件沈没は、堪航性に対する配慮が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。


参考図1
(拡大画面:17KB)

参考図2
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