(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年4月22日15時35分
沖縄県渡嘉敷島北東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボートサンダンスエミリ2 |
総トン数 |
13トン |
全長 |
15.37メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
786キロワット |
3 事実の経過
サンダンスエミリ2(以下「エミリ2」という。)は、昭和61年3月に進水した2基2軸のFRP製プレジャーボートで、船体ほぼ中央部に設けた甲板上キャビンには、前部右舷側に操縦席、同左舷側に海図台、同中央に前部キャビンに降りる階段、両舷側に沿ってソファーなどが配置され、甲板下は船首方から順に前部キャビン、甲板下キャビン、機関室、生け簀、舵機庫などに区画され、また、甲板下キャビンの右舷前部に、配電盤などを格納してベニヤ板などで囲った一画(以下「配電室」という。)が設けられていた。
操縦席前に設けられた操縦台は、内部が下方の配電室と通じていて、座席正面に舵輪が取り付けられ、上面の前半分が、両舷主機の回転計、冷却水温度計、停止ボタン、スタータースイッチ、警報装置等のほか、機関室送風機、各部照明のスイッチなどが組み込まれた計器盤となっており、後半分は右側端に両主機の操縦レバーが取り付けられ、残りが透明なガラス蓋になっていて、操縦席に座ったまま内部の棚に設置したレーダーや魚群探知機の画面を見ることができるようになっていた。
機関室は、その主要寸法が前後約3.0メートル幅約3.6メートル高さ約1.6メートルで、天井の前部中央及び後部中央に設けたハッチ式出入り口から、後部デッキ上に出ることができるようになっており、中央に主機として2基のV型機関が据え付けられ、両舷外板に沿って燃料タンク、船尾側に5個の蓄電池などが配置され、同室の天井には、船首側に1個、船尾側に2個の天井灯が、前部両舷に機関室送風機各1台がそれぞれ取り付けられていた。
電気系統は、蓄電池から給電される主機始動用、補機始動用、各所照明用などの直流24ボルト系統と、発電機から給電される空気調和装置用、充電器用などの交流100ボルト系統があり、機関室内には、配電室の配電盤からヒューズやスイッチを介して各部に至る電線が、数本毎に束ねられ、適当な間隔でプラスチック製のバンドを用いて天井の縦材や壁面に直接取り付けられており、ビニール絶縁体で覆った心線2本にビニール被覆を施した外径約8ミリメートルの機関室天井灯用配線(以下「機関室照明配線」という。)が、主機始動系統のうちの使用されていない配線と束ねられ、左舷側主機の左舷シリンダ列上の天井に取り付けられていた。
A受審人は、就職情報誌の発行を主業務とする株式会社情報サービス(以下「情報サービス社」という。)の代表取締役を務め、事業の一環として同社にマリン事業部を設け、ダイビング客や釣り客を対象に、沖縄県渡嘉敷島の同社保養地に保管する、総トン数18トンのサンダンスエミリを運航させており、自らも休日等を利用して趣味のトロールフィッシングを楽しんでいた。
また、B指定海難関係人は、平成3年に一級小型船舶操縦士免状を取得したのち、沖縄県の船用品販売会社に勤務していたときA受審人と知り合い、同9年9月情報サービス社に入社し、サンダンスエミリの船長兼管理人として勤務していた。
A受審人は、専ら自身が使用する目的で、平成11年6月にエミリ2を会社名義で購入して広島県内の造船所に改造工事を依頼し、甲板上キャビン後方に隣接して設けられていた調理室の両側壁、調度品、床のチーク材等を取り除いてオープンデッキとしたうえ、同デッキ床に機関室前部入口ハッチや同室両舷送風機を新設したほか、甲板上キャビンの天井に最上船橋甲板を設けるなどの工事を行った。
ところがこのとき、機関室天井に開口部を設ける工事に伴って機関室照明配線が取り外された際、運航中高温となる機関室天井で長年使用されて経年劣化していた心線の一部が、折り曲げられて半断線状態となったまま復旧された。
B指定海難関係人は、同年6月下旬前示の造船所に赴き、改装工事を終えたエミリ2を受け取り、沖縄県那覇港に回航したうえ、以後、A受審人から同船の管理を一任され、同人が何時でも乗船できるよう、定期的に主機及び発電機を運転して機器の状態を確認するとともに蓄電池を充電するなどして同船の管理を行っていた。
同年7月ごろ、B指定海難関係人は、電気配線が乱雑に放置されていることに気付いたA受審人の指示を受け、配電室等の電線を整理した際、配線先を確認して電気系統の略図を作成したが、一部用途不明の配線が混在していることを認めた。
A受審人は、エミリ2が那覇港に回航されて以来、毎週のように渡嘉敷島の周辺海域でトロールフィッシングを行うようになり、同年12月単独で乗り組んで巡航中、操縦席で操船しているとき電気配線の被覆が焦げるような異臭を認め、帰港後、B指定海難関係人に対し、電気関係の知識を持っているので必要があれば電気専門業者に調査させるだろうと考え、異臭のことを伝えて電気配線全般を十分に点検するよう指示した。
B指定海難関係人は、A受審人の指示を受け、改めて船内の電気配線について、目視点検、導通試験、各端子の増締め等を行い、機関室照明配線の折れ目に気付いたものの問題あるまいと考え、異臭の原因がはっきりしなかったが、航行中各機器が発する熱気が配電室内にこもって異臭がするものと判断し、翌12年1月同室に換気扇を取り付けただけで、専門業者に依頼するなど電気配線全般を十分に点検しなかったことから、前示配線の折れ目箇所内部で、半断線状態となった心線の電気抵抗が増加して通電中同部が過熱し、そのまま使用を続けると、絶縁体が徐々に炭化して線間短絡するおそれがある状態となっていることに気付かなかった。
こうして、エミリ2は、A受審人が単独で乗り組み、同年4月22日14時55分那覇港内の船だまりを発し、トロールフィッシングの目的で渡嘉敷島北方沖合に向かい、主機を回転数毎分1,900にかけて航行中、通電されていた機関室照明配線が線間短絡して発火し、過熱していた同部ビニール被覆及び束ねた主機用配線に着火し、プラスチック製のバンドが溶断して両配線が垂れ下がり、左舷側主機のスポンジ覆いを施した紙製空気吸入フィルタに接触したことから、同フィルタが炎上するとともに天井のFRP、送風機のプラスチック製回転翼などの可燃物に延焼して燻り出し、室内が酸素不足となって主機の回転が低下し始めた。
A受審人は、操縦席で主機の回転数が低下したことに気付き、状況を確認するため主機を停止回転として操縦台の主機計器盤に目を落としたとき、船首キャビン内に漂っている黒煙を認めて機関室に異状が発生したものと思い、後部デッキに赴いて同室後部入口ハッチを開口したところ、同日15時35分端島灯台から真方位000度7.0海里の地点において、同ハッチから黒煙が吹き出し、機関室火災の発生を認めた。
当時、天候は晴で風力3の南東風が吹き、海上は穏やかであった。
A受審人は、操縦席に戻って主機及び送風機を停止し、付近の海域でダイビング客の運搬にあたっていたB指定海難関係人に救援を求めるとともに海上保安部に通報し、火炎は通報中に一瞬上がっただけであったが、消火器を用意して後部ハッチから内部の様子をうかがううち吹き出していた黒煙も徐々に収まり、念のため機関室内に海水を放水して間もなく鎮火させた。
火災の結果、エミリ2は、僚船に曳航されて那覇港船だまりに引きつけられ、点検の結果、激しく焼損した電気配線が左舷主機のシリンダ列上に垂れ下がり、両配線のヒューズがともに溶断していることが判明し、のち、焼損した機関室天井、電気配線、送風機、主機空気吸入フィルタなどが修理され、同天井には断熱工事が施された。
(原因)
本件火災は、船舶管理人の電気配線の点検が不十分で、船体の改装工事に伴って半断線状態となった機関室天井灯用の電線が、沖縄県渡嘉敷島北東方沖合を航行中、炭化した絶縁体を介して線間短絡し、生じた火花が電線被覆や主機空気吸入フィルタなど、周囲の可燃物に着火したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
B指定海難関係人が、A受審人から、電線が焦げるような異臭がするので船内の電気配線全般を十分に点検するように指示を受け、各所を点検したが異臭の原因がはっきりしなかった際、電気専門業者に依頼するなどして電気配線全般を十分に点検しなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、自己判断を下したことを反省している点に徴し、勧告しない。
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。
(参考)原審裁決主文平成13年10月16日那審言渡
本件火災は、機関室照明用の電気配線が発火したことによって発生したものであるが、発火原因を明らかにすることができない。