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平成14年横審第23号
件名

漁船第五正福丸浸水事件

事件区分
浸水事件
言渡年月日
平成14年6月25日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(原 清澄、黒岩 貢、花原敏朗)

理事官
相田尚武

受審人
A 職名:第五正福丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
主機、逆転減速機、主機駆動発電機及びセルモータなどに濡損

原因
冷却海水系統の漏水の有無等の状況確認不履行、海水吸入弁の閉鎖不履行

主文

 本件浸水は、冷却海水系統からの漏水の有無などの状況確認を行っていなかったばかりか、長時間岸壁に係留する際、海水吸入弁を閉鎖しなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年5月31日04時00分
 千葉県飯岡漁港

2 船舶の要目
船種船名 漁船第五正福丸
総トン数 19トン
全長 24.59メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 603キロワット

3 事実の経過
 第五正福丸(以下「正福丸」という。)は、主機として三菱重工業株式会社製造のS6R2F−MTK3型と呼称するディーゼル機関を装備し、僚船6隻と船団を組んで大中型まき網漁業に従事する、FRP製漁獲物運搬船で、千葉県飯岡漁港沖合の海域を主な漁場とし、周年操業に従事していた。
 ところで、主機の冷却海水系統は、船底部右舷側に設けられた1個の海水吸入弁(以下「船底弁」という。)から吸引された海水が、主機直結冷却海水ポンプによって加圧され、逆転減速機潤滑油冷却器、空気冷却器及び清水冷却器を冷却したのち、左舷側満載喫水線上約70センチメートルのところに設けられた排出口から船外に排出されるようになっており、また、空気冷却器海水入口管下部にねじ込み式の黄銅製ドレンコックが取り付けられ、そのソケット部には約60センチメートルのゴムホースが差し込まれて主機直下の船底にドレンを導くようになっていた。
 また、正福丸は、航行中の船体振動が大きく、操舵室では字が書けないくらいの振動であったが、ドレン抜き用ゴムホースなどに支柱を設けるなどの防振対策がなされていなかった。
 A受審人は、平成元年7月に正福丸が進水して以来、船長として乗り組み、主機の保守管理にもあたっていたが、冷却海水系統からの漏水の有無などの状況確認を行っていなかったばかりか、同人が所属する船団では長時間岸壁に係留する場合でも船底弁を閉鎖する習慣がなかったうえ、船底弁を閉鎖しなくてもビルジの量が増加することもなかったことから、同弁を開放したまま放置しても大丈夫と思い、岸壁に係留して同船を無人とする際、船底弁を閉鎖することなく運航にあたっていた。
 こうして、正福丸は、A受審人ほか2人が乗り組み、船首0.6メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、漁場での操業を終えて飯岡漁港に帰港し、平成13年5月30日14時30分飯岡灯台から真方位253度550メートルの地点に係留を終え、同人が主機停止後、冷却海水系統からの漏水の有無などの状況確認を行うことも、船底弁を閉鎖することもしないまま同船を離れ、船内を無人として岸壁に係留中、振動によるものか、前示ドレンコックの取付ねじ部にいつしか生じていた亀裂箇所から海水が機関室内へ流入し始め、翌31日04時00分出航準備のため、機関室に入った同人により床上約20センチメートルまで浸水しているのが発見された。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、海面は穏やかであった。
 浸水の結果、正福丸は、主機、逆転減速機、主機駆動発電機及びセルモータなどに濡損をそれぞれ生じたが、主機は潤滑油によるフラッシングを行い、逆転減速機は陸揚げのうえ、開放整備され、同発電機とセルモータなどは新替された。

(原因)
 本件浸水は、冷却海水系統からの漏水の有無などの状況確認を行っていなかったばかりか、船内を無人として長時間岸壁に係留する際、船底弁を閉鎖せず、冷却海水系統のドレンコック取付けねじ部の亀裂箇所から海水が機関室へ流入したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、船内を無人として長時間岸壁に係留する場合、第五正福丸は航行中の船体振動が大きく、冷却海水系統のドレンコックなどに亀裂を生じて機関室へ海水が流入するおそれがあったから、海水が流入するような事態を招かないよう、船底弁を閉鎖すべき注意義務があった。しかるに、同人は、船底弁を閉鎖しないまま岸壁に係留していても、これまでビルジの量が増加することもなかったので、同弁を開放したまま放置しても大丈夫と思い、船底弁を閉鎖しなかった職務上の過失により、冷却海水系統のドレンコック取付ねじ部に生じていた亀裂箇所から海水を機関室へ流入させ、同室が浸水する事態を招き、主機、逆転減速機、主機駆動発電機及びセルモータなどに濡損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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