(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年4月22日11時00分
沖縄島東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船桂丸 |
総トン数 |
9.7トン |
登録長 |
12.70メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
110 |
3 事実の経過
桂丸は、昭和51年12月に進水し、1航海が10日ほどのそでいか漁等に従事するFRP製漁船で、主機としてヤンマーディーゼル株式会社が製造した6HAK−DT型と称するディーゼル機関を備え、同機をセルモータで始動するようになっていた。
電気系統は、発電機及び蓄電池から揚錨機、冷凍機、ラインホーラ、各種ポンプ、照明器具、無線機などに給電されるようになっていた。
蓄電池は、直流電圧12ボルトの蓄電池2個を直列に配線した主機用及び補機用の2組が備えられ、両機の始動用セルモータなどに給電するようになっていた。また、主機用の蓄電池は、船橋上部左舷側及びフライングブリッジ中央に設けられた500ワットの作業灯2個にも直接給電するようになっており、主機がベルト駆動する充電器で充電されるようになっていた。
作業灯は、航海灯などとともに操舵室内に設けられた分電盤のスイッチで点灯及び消灯するようになっていた。
こうして、桂丸は、A受審人が単独で乗り組み、平成13年4月15日14時00分沖縄県糸満漁港を発し、操業の目的で沖縄島東方沖合の漁場に向った。
A受審人は、翌16日04時00分操業を開始し、越えて同月20日4回目の操業を行い、15時00分操業が終わったのち後片付けを始め、周囲が暗くなったことから船橋上部左舷側の作業灯を点灯した。
A受審人は、後片付けが終わった後、20時00分主機を停止し、同日の操業を時化模様の中で行って疲労していたことからか、前示作業灯を消灯することを失念し、作業灯の点灯状況の確認を十分に行うことなく、就寝した。
桂丸は、A受審人の疲労が回復しなかったことから、翌21日も休業とし、主機を停止して蓄電池を充電しないまま作業灯を長時間点灯し続けていることに同受審人が気付かないまま漂泊を続け、蓄電池が過放電するおそれのある状況となった。
桂丸は、翌22日A受審人が操業を再開する目的で主機の始動を試みたが、主機を停止して蓄電池を充電しないまま作業灯を長時間点灯し続けたことから蓄電池が過放電し、同日11時00分北緯26度40分東経129度36分の地点において、主機が始動不能になり、航行不能となった。
当時、天候は晴で風力1の西北西風が吹き、海上は穏やかであった。
この結果、桂丸は、同県漁業無線局に救助を求め、翌23日03時30分来援した引船に曳航されて糸満漁港に引き付けられた。
(原因)
本件運航阻害は、沖縄島東方沖合で漂泊する際、作業灯の点灯状況の確認が不十分で、主機を停止して蓄電池を充電しないまま作業灯を長時間点灯し続け、蓄電池が過放電してセルモータ始動方式の主機が始動不能となったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、沖縄島東方沖合で漂泊する場合、主機を停止して蓄電池を充電しないまま作業灯を長時間点灯し続けると、蓄電池が過放電してセルモータ始動方式の主機が始動不能となるおそれがあったから、作業灯の点灯状況の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、作業灯の点灯状況の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、主機を停止して蓄電池を充電しないまま作業灯を長時間点灯し続け、蓄電池の過放電を生じさせ、主機が始動不能となる運航阻害を招き、救援を求めた引船に救助されるに至った。