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 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 死傷事件一覧 >  事件





平成14年広審第20号
件名

油送船三共丸乗組員死亡事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成14年6月27日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(勝又三郎、竹内伸二、伊東由人)

理事官
横須賀勇一

受審人
A 職名:三共丸船長 海技免状:四級海技士(航海)

損害
甲板員が胸腹部内臓破裂で死亡

原因
係船用ホーサー巻取りの作業方法不適切

主文

 本件乗組員死亡は、係船用ホーサー巻取りの作業方法が適切でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年10月31日16時38分
 瀬戸内海 呉港

2 船舶の要目
船種船名 油送船三共丸
総トン数 472トン
全長 65.22メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット

3 事実の経過
 三共丸は、船尾船橋型の鋼製油送船で、A受審人ほか4人が乗り組み、空倉のまま、船首1.2メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、平成13年10月29日16時10分大分港を発し、船尾管及び発電機の修理のため呉港内の株式会社神田造船所若葉工場に向かい、翌々31日09時00分同造船所の浮ドックに入渠し、16時00分ごろ修理を終え、同工場の従業員5人が出渠作業を行うこととなった。
 ところで、平素の入出航配置は、船橋に船長、船首部に一等航海士及び一等機関士、船尾部に機関長及び甲板員兼司厨長Cを配していた。
 また、船尾部の係船機は舵機室入口にスイッチがあって、左舷側のウインチによって左舷ホーサーリールと中央部のウインドラスがクラッチを介して独立して駆動され、右舷側のウインチによって右舷側ホーサーリールが駆動されるようになっており、各ウインチの回転方向と速度を制御するため、係船機の船首側に操作レバーがそれぞれ設けられていたが、同レバーを長柄のハンドルで連結して係船機の船尾側でも制御できるようになっていて、ホーサーは各リールに上巻きに巻き込まれていたので、同ハンドルを船首方向に押すとホーサーを巻き込む方向にリールが回転するようになっていた。甲板上にコイルダウンされたホーサーのリールへの巻取りは、片巻きとなることを防ぐため、リールの船尾側少し離れたところに立って巻き込まれていくホーサーの位置を手で左右方向に移動させて調整する必要があり、前示操作ハンドルから離れたところでの作業となるため、緊急の場合リールの回転を停止することができず、単独での作業は危険であった。
 同日16時ごろ、機関長が工事完工書に署名捺印したことで修理工事を終え、出渠に続いて出航することとなり、A受審人は、食堂で乗組員に出航配置に就くように告げたとき、C甲板員とともに船尾配置に就くことになっていた機関長が、修理箇所の確認のため同配置に就くことができないことから、同配置は同甲板員1人になることを知っていたが、ホーサー巻取り作業が危険を伴うものであるから、当然いつものとおり機関長が配置に就いてから2人で同作業が行われるものと思い、同甲板員に同作業方法について十分に指示を与えなかった。
 その後三共丸は、乗組員が出航配置に就いたほか工場作業員が船橋に2人、船首及び船尾甲板にそれぞれ1人就き、注水などの出渠準備作業を終えたのち、16時30分引船の船尾から約20メートル延出した曳索を右舷船尾ボラードに取って引出作業が始まった。
 A受審人は、船橋右舷ウイングに立ち、浮ドックとの距離など同作業を監視していた。
 一方、C甲板員は、食堂から一旦自室に戻り、安全靴に履き替えて船尾配置に就いたところ、入渠中の係船索として使用されていた直径50ミリメートルのホーサーが、左右甲板上にそれぞれ約20メートルコイルダウンされており、船内電源に切り替わり、係船機が使用できる状態になっていたのでホーサー巻取り作業を1人で行うこととした。
 C甲板員は、ホーサーリール用ウインチを始動したあと、1人でホーサー巻取り作業を開始して右舷側ホーサーの巻取りを終え、その後ウインドラスを運転したまま左舷ホーサーリールの船尾方に立って左舷側のホーサー巻取り作業中、16時38分浮ドックから約100メートル沖出した小麗女島灯台から035度(真方位)1,260メートルの地点において、三共丸は、引船に引かれてゆっくりと移動中、C甲板員の左足にホーサーが絡まったが、直ちにウインドラスの運転を止めることができないまま、同甲板員は全身をホーサーとともに同リールに巻き込まれた。
 当時、天候は晴で風はなく、海上は平穏で、潮候は上げ潮の初期であった。
A受審人は、船尾甲板で出渠作業にあたり右舷側で外を向いてヒービングラインを巻き取っていた工場の作業員から、C甲板員が左舷ホーサーリールにホーサーとともに巻かれていることを知らされ、急いで船尾甲板に赴き、事後の措置に当たった。
 その結果、C甲板員(昭和25年11月14日生)は、救急車で病院に搬入されたが、胸腹部内臓破裂で死亡した。

(原因)
 本件乗組員死亡は、呉港内の株式会社神田造船所若葉工場において、同工場作業員による浮ドックから出渠中、乗組員が船尾甲板上でホーサー巻取り作業を行う際、同作業方法が不適切で、2人で行うはずの作業を1人で行い、ホーサーが身体に絡んでホーサーリールに巻き込まれたことによって発生したものである。
 作業が不適切であったのは、船長がホーサー巻取り作業方法について十分に指示を与えなかったことと、船尾配置についた乗組員が2人で行うはずの危険な作業を1人で行ったこととによるものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、呉港内の株式会社神田造船所若葉工場において、浮ドックからの出渠中、船尾甲板上でホーサー巻取り作業を行わせる場合、同作業が危険を伴うものであるから、通常どおり必ず2人で行うなど作業方法について十分に指示を与えるべき注意義務があった。しかしながら、同人は、当然いつものとおり機関長が配置に就いてから2人で同作業が行われるものと思い、同作業方法について十分に指示を与えなかった職務上の過失により、船尾配置に就いた乗組員が1人で同作業を行い、ホーサーが身体に絡んでホーサーリールに巻き込まれて死亡するに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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