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平成13年那審第39号
件名

台船せとうち作業員負傷事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成14年5月23日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(平井 透、金城隆支、坂爪 靖)

理事官
濱本 宏

指定海難関係人
A 職名:せとうち作業長
B 職名:せとうち作業員
C 職名:D社安全管理者 

損害
作業員が左骨盤以下を切断

原因
乱巻き防止作業に対する安全措置不十分

主文

 本件作業員負傷は、錨索を巻き揚げる際、乱巻き防止作業に対する安全措置が十分でなかったことによって発生したものである。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年5月26日08時00分
 鹿児島県知名瀬港

2 船舶の要目
船種船名 台船せとうち
全長 25.0メートル
10.0メートル
深さ 2.2メートル

3 事実の経過
 せとうちは、昭和62年に建造された非自航式の台船で、バックホー式と称する浚渫(しゅんせつ)船として浚渫作業に従事していた。
 上甲板上には、船首方に機械室、食堂、浴室などを備えた長さ6.1メートル幅7.0メートルの居住区が、船尾方に移動及び旋回可能なパワーショベルが、船首方から16.5メートル舷側から1.0メートルの位置に、高さ12メートルのスパッドが両舷に各1本ずつそれぞれ配置されていた。また、船首方から10.5メートル舷側から1.0メートルの位置にスパッド用ウインチが両舷に各1基ずつ、同ウインチと並んで船央側に船尾錨用ウインチが両舷に各1基ずつ、船首方から8.9メートル舷側から1.0メートルの位置に船首錨用ウインチが両舷に各1基ずつそれぞれ配置されていた。
 各錨用ウインチは、E社が製造した油圧単胴ウインチで、定格能力3トン、定格速度毎分12メートル、ドラムの幅560ミリメートル直径355ミリメートルであった。
 6基のウインチは、全て電動油圧ポンプ及び油圧モータで駆動され、各ウインチの機側に付設された操縦ハンドルで個別に操作できるとともに、居住区船尾方左舷側に設けられた集中操作台の操縦ハンドルで複数のウインチを1人で同時に操作できるようになっていた。
 錨索は、重量約600キログラムの錨を長さ4メートルの錨鎖に連結したのち、錨鎖に直径22ミリメートル長さ200メートルのワイヤをシャックルで連結したもので、各ウインチのドラムに巻き取られていたが、錨索を弛んだ状態で巻き取る場合、錨索がドラムに団子状の乱巻きとなる可能性があることから、何らかの方法で錨索を押して方向性を与える乱巻き防止作業を行う必要があった。
 せとうちは、平成13年5月17日鹿児島県知名瀬港北防波堤先端(以下「北防波堤先端」という。)から046度(真方位、以下同じ。)175メートルの地点で同防波堤に船尾を向け、船首尾方向に対して右舷船首錨を左舷側に25度の角度、左舷船首錨を右舷側に9度の角度で交差させて錨索をそれぞれ約100メートル延出して投錨し、2本のスパッドを降ろして船固めを行い、同港岸壁前の浚渫作業を行って同月21日に同作業を終了したのち同地点で待機していた。
 A指定海難関係人は、昭和63年6月D社に入社し、平成9年作業船の船長となったのち同12年10月せとうちの作業長となり、船長時代を含めて台船の揚錨作業には豊富な経験を有していた。
 B指定海難関係人は、同12年9月非正社員としてD社に雇用され、それまでウインチ操作など船上作業の経験がなかったが同年11月せとうちの作業員となり、せとうちでの揚錨作業の経験が数回あったものの同作業の危険性に対する認識が未熟であった。
 C指定海難関係人は、昭和60年2月D社に入社し、平成13年1月安全管理者となり、7箇所の作業地区の管理者が集合しての安全協議会を毎月開催し、毎月行われる各地区の管理者による安全パトロールの結果により、必要に応じて現場監督に従業員に対する安全上の注意点などを指導させていた。また、年に1度非正社員を含めた従業員のほぼ全員を集めて安全研修大会を開催し、社外講師による安全講話、人命救助訓練などを行うとともに、各種海上工事の作業標準書を作成して同従業員の安全を図っていた。
 A指定海難関係人は、平素揚錨作業を行う際、B指定海難関係人に対し、ウインチの前には立たないこと、錨索に巻き込まれないよう注意すること、錨索を整然と巻き取ることなど指導していたものの、乱巻き防止の作業方法として、ドラムに巻き込まれることのないよう錨索をドラムに巻き取るときには錨索を鉄棒で押して方向性を与えるなどの適切な作業方法を指導しないで、ドラムに至近な位置で錨索を寄せたい方向の反対側から安全靴の裏で押して方向性を与えるなどして同作業を行わせていた。
 ところで、せとうちは、必要に応じて作業員が3人配置とされていたが、待機や回航など作業量が少ない場合には2人配置とされていた。
 こうして、A及びB両指定海難関係人は、船長1人が乗り組む作業船第二十三ちどり丸に同乗し、平成13年5月26日07時30分回航の目的でせとうちに向った。
 せとうちに乗り組んだA及びB両指定海難関係人は、発電機を始動して暖機運転を行ったのち、協力して2本のスパッドを引き上げてから揚錨作業に取り掛かった。
 A指定海難関係人は、右舷船首錨用ウインチの機側操縦ハンドルを操作し、安全靴及び作業着を着用したB指定海難関係人に左舷船首錨用ウインチの機側操縦ハンドルを操作させて両舷船首錨を同時に巻き揚げ始め、平素の作業手順通りに沖側となる左舷船首錨から揚錨することとし、左舷船首錨が立錨状態になると思われたとき、左舷船首に移動して左舷船首錨がさんごに引っ掛かっていないかを確認しながら揚錨の指揮を行い、約5分間で左舷船首錨の揚錨を終了したのち、パワーショベルのバケットで海水を2回掻いて(かいて)船尾を北防波堤先端に向け、作業船から受け取った曳航索を船尾中央のビットに掛けた。
 B指定海難関係人は、左舷船首錨の揚錨が終了したのち、A指定海難関係人に代わって右舷船首錨用ウインチの機側操縦ハンドルの操作を行った。
 A指定海難関係人は、曳航索を船尾中央のビットに掛けたのち、右舷船首に移動して右舷船首錨がさんごに引っ掛かっていないかを確認しながら揚錨の指揮を行った。
 B指定海難関係人は、弛んだ右舷船首錨の錨索の巻き取りを続け、乱巻き防止作業を行う目的で操縦ハンドルを運転位置にしたまま回転するドラムの前面に移動し、平素ドラムから約1メートル離れた船首方で乱巻き防止作業を行っていたものの、ドラムに至近な位置で錨索を押さないと整然と巻き取れない旨を指導されたことから、船首方の錨索の動きばかりを見て足元を確認しないまま、錨索のドラム巻き込み部から20ないし30センチメートル離れた位置を安全靴の裏で右舷側から左舷側方向に押していたところ、弛みがとれて緊張した錨索に左足が弾かれてドラムの方向に移動し、08時00分北防波堤先端から077度200メートルの地点において、ウインチを停止する要員がいない状況のもと、左足の甲がドラムに巻き込まれた。
 当時、天候は晴で風力1の南東風が吹き、海上は穏やかであった。
 A指定海難関係人は、B指定海難関係人に作業船に対する曳航開始の合図を行わせようと船尾方を振り向いたとき、B指定海難関係人が倒れているのを認め、直ちにウインチを停止したのち同指定海難関係人を病院に搬送するなどの事後措置にあたった。
 その結果、B指定海難関係人は、左骨盤以下を切断する重傷を負った。
 C指定海難関係人は、その後ウインチ前面に鋼管製の保護柵を設けて立入り禁止とし、乱巻き防止作業を鉄棒で行うよう甲板に改良を施すとともに、社外講師によるウインチ運転特別教育を行うなど、同種事故の再発防止に努めた。

(原因)
 本件作業員負傷は、鹿児島県知名瀬港において、錨索を巻き揚げる際、乱巻き防止作業に対する安全措置が不十分で、同作業を行っていた作業員が、緊張した錨索に左足が弾かれてウインチのドラムの方向に移動し、左足の甲がドラムに巻き込まれたことによって発生したものである。
 安全措置が十分でなかったのは、作業長が、錨索の乱巻き防止に対する適切な作業方法を作業員に指導しなかったことと、作業員が、乱巻き防止作業を行うとき、足元を確認しなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
 A指定海難関係人が、鹿児島県知名瀬港において、錨索を巻き揚げる際、作業員に対し、乱巻き防止に対する適切な作業方法を指導しなかったことは、本件発生の原因となる。
 A指定海難関係人に対しては、勧告しない。
 B指定海難関係人が、鹿児島県知名瀬港において、ドラムに至近な位置で乱巻き防止作業を行う際、足元を確認しなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、勧告しない。
 C指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。





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