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 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 死傷事件一覧 >  事件





平成13年門審第104号
件名

漁船金比羅丸乗組員負傷事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成14年5月30日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(橋本 學、上野延之、米原健一)

理事官
関 隆彰

受審人
A 職名:金比羅丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
船長が右手の小指及び薬指を不全切断

原因
揚錨作業中の安全措置不十分

主文

 本件乗組員負傷は、揚錨作業中の安全措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年7月17日05時00分
 長崎県壱岐島西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船金比羅丸
総トン数 4.0トン
登録長 10.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 70

3 事実の経過
 金比羅丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.4メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、平成12年7月17日04時00分長崎県勝本港を発し、同港西方沖合約14海里の漁場へ向かった。
 ところで、金比羅丸においては、錨索として、全長約200メートル直径15ミリメートル(以下「ミリ」という。)の化学繊維製ロープを使用していたが、錨泊中の振れ回りで海底と擦れ合う部分を、両端にアイスプライスを入れた長さ10メートル直径17ミリの瀬擦れワイヤーと称するワイヤーロープと置換し、その一方のアイに、重さが約50キログラムある錨のアンカーリングを繋ぎ、他方に錨索を継いでいたところ、錨索の端が同ワイヤーとの継ぎ手部分(以下「継ぎ手」という。)の結び目から15センチメートル(以下「センチ」という。)ばかり垂れ下がった状態となっていた。
 また、揚錨に際しては、船体中央部にある機関室囲壁の左舷側前面に発停スイッチがあり、同横面の甲板上から46センチの高さに横向きに設置された、幅19センチ外径15センチの電動ウインチ(以下「ウインチ」という。)のワーピングドラム(以下「ドラム」という。)を使用し、左舷船首部に設けられた錨台のガイドローラーを介して錨索を巻き揚げていたが、同ウインチは、巻き揚げ速度の調節ができない定格回転型式であったことから、その定格回転のまま錨索を巻き揚げると、アンカーリング及び同シャンクが前示ガイドローラーに突き当たるので、継ぎ手がガイドローラーを替って前部甲板上まで揚がって来たとき、ドラムに6回巻きとしていた錨索を、ドラム面との摩擦力を減じて空滑りさせることにより、巻き揚げ速度を調節することができるように3回巻きに減じていたものであった。
 04時50分A受審人は、対馬海峡東水道の対馬と壱岐島の中程に位置する前示漁場に到着し、一旦、投錨して操業を開始したが、同漁場は、深さ約100メートルの広い海域であるものの、沈船が魚礁となっている比較的狭い範囲に限られていたことから、既に錨泊して操業を行っていた僚船が振れ回って至近に接近し、船体が接触しそうな状況となったので、後から投錨した自船が場所を移動することとして揚錨を開始した。
A受審人は、操縦室で舵及び機関を小刻みに使って船の態勢を保持し、前部甲板上のほか1人の乗組員に巻出し側の錨索を手繰らせながら揚錨作業を行っていたところ、継ぎ手がガイドローラーを替わって揚がって来たので、行きあしを止めて操縦室から前部甲板に移動し、ドラムの船首方に立って機関室囲壁の屋根部分に左手をつき、上体を乗り出す姿勢で右手を伸ばして前示作業に取り掛かった。
 こうして、A受審人は、ドラムを回転させたままだとドラムと錨索の間に手指を巻き込まれるおそれがあったが、平素から行っている手慣れた作業であったことから、大丈夫と思い、安全措置として、手近にあるウインチのスイッチを切り、一旦、ドラムの回転を停止させることなく作業に取り掛かったところ、05時00分若宮灯台から266度(真方位)14.2海里の地点において、継ぎ手がドラムまで達し、その結び目から垂れ下がっていた錨索の端が、ドラムと巻き込み中の錨索の間に噛み込み、巻出し側が、巻込み側とともに連れ回る状況となったとき、これを外そうとしてドラムと緊張した錨索の間に右手の小指及び薬指を巻き込まれた。
 当時、天候は晴で風力2の南西風が吹き、海上は平穏であった。
 A受審人は、ほか1人の乗組員が事故に気付き、急いでウインチのスイッチを切ってドラムの回転を止めたものの、右手の小指及び薬指を不全切断する傷を負い、のち病院において手術を受けた結果、両指とも生着した。

(原因)
 本件乗組員負傷は、長崎県壱岐島西方沖合において、揚錨作業中の安全措置が不十分で、錨索巻揚げ用ウインチのドラムと錨索の間に手指を巻き込まれたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、長崎県壱岐島西方沖合において、巻き揚げ速度の調節ができない定格回転型式のウインチを使用して揚錨中、回転中のドラムに錨索を巻いたまま空滑りさせて巻き揚げ速度を調節することができるように、その巻き数を減らす場合、ドラムと錨索の間に手指を巻き込まれることがないよう、手近にあるウインチのスイッチを切り、一旦、ドラムの回転を停止する安全措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、平素から行っている手慣れた作業であったことから、大丈夫と思い、安全措置を十分にとらなかった職務上の過失により、ドラムと錨索の間に右手の小指及び薬指を巻き込まれ、両指を不全切断するに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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