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平成13年那審第51号
件名

遊漁船福祥丸潜水者死亡事件
二審請求者〔補佐人村上 誠、補佐人儀部和歌子〕

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成14年4月17日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(平井 透、金城隆支、清重隆彦)

理事官
上原 直

受審人
A 職名:福祥丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:福祥丸同乗者

損害
損傷なし
潜水者1人が頭部及び顔面創による脳損壊で死亡

原因
針路選定不適切

主文

 本件潜水者死亡は、潜水者を出迎えに向う際、針路の選定が適切でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年7月28日17時30分
 沖縄県国頭郡今帰仁村北方沖合

2 船舶の要目
船種船名 遊漁船福祥丸
総トン数 2.0トン
登録長 9.15メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 95キロワット

3 事実の経過
 福祥丸は、船体中央やや船尾寄りに操舵室が設けられたFRP製遊漁船で、A受審人が1人で乗り組み、釣客であるB指定海難関係人を乗せ、船首0.3メートル船尾0.8メートルの喫水をもって平成13年7月28日17時10分沖縄県運天漁港を発し、夜釣りに同行する釣客4人を出迎える目的で備瀬埼灯台から098度(真方位、以下同じ。)約6.2キロメートルに所在する兼次の浜と称する浜辺の沖合に向った。
 ところで、5人の釣客は、同日11時頃兼次の浜の東端に隣接する宿泊施設に大人15人及び子供10人で集合し、1泊2日の予定で浜辺での食事、カヌー遊び、釣り、素潜り漁などを楽しんでいた末吉いとこ会と称する親睦会の会員であった。
 これより先、同会の一員であるB指定海難関係人は、A受審人に夜釣りを依頼した責任者であったことから、16時30分兼次の浜から陸路運天漁港に向い、17時00分同漁港に到着し、初対面の同受審人に兼次の浜のさんご礁帯で夜釣りに同行する素潜りの熟練者である潜水者Cなどが素潜り漁を行っているので、出迎えに行かなければならないことを伝え、福祥丸に乗り込んだ。
 こうして、福祥丸は、17時17分頃古宇利島灯台から275度1,140メートルの地点で、針路を兼次の浜沖合のさんご礁帯外縁に向く270度に定め、14.0ノットの対地速力で進行した。
 A受審人は、釣客を早く釣り場に連れて行き、魚を多く釣らせて次回にも福祥丸を利用してもらうため、西日が逆光で海面に反射して前方が見え難くかったものの、目的地にできるだけ早く到達することに気を取られ、逆光を避けて潜水者が存在する可能性のある海域を船横に見ることができ、潜水者に対して危害を加えることのない安全な海域を進行するよう、針路の選定を適切に行うことなく、潜水者が存在する可能性のあるさんご礁帯の外縁から約10メートル離れた海域を進行した。
 福祥丸は、目的地から約700メートルの地点に達したとき、A受審人が左舷側に水深約5メートルの海底を認め、浅瀬に入ったと危険を感じたことから、同受審人が機関を微速力として右転を開始した約10秒後、17時30分備瀬埼灯台から091度3.7海里の地点において、その推進器がC潜水者に接触した。
 当時、天候は晴で風力3の南東風が吹き、海上は穏やかであった。
 A受審人は、推進器に異音と衝撃とを感じ、直ちに主機のクラッチを切り、船尾左舷側にC潜水者の潜水具であるフィンを認めたことから、直ちに投錨した。
 B指定海難関係人は、C潜水者と同行していた潜水者Dと協力してC潜水者を船内に収容し、警察に通報するなどの事後措置に当たった。
 また、末吉いとこ会の一員であるC潜水者は、子供達に魚介類を供する目的で、黒色のウエットスーツ、ゴム帽子、ゴム靴、ウエートベルト、フィン、シュノーケル及び水中眼鏡を装着し、手銛及び漁獲物を収納する長さ90センチメートル(以下「センチ」という。)、幅45センチ、厚さ5センチでほぼ長方形の発泡スチロール製の浮きに長さ60センチ、幅45センチで完全に広げると高さが15センチとなる鉄枠で構成された編みかごをロープで結び付けた浮きなどを携帯し、15時00分釣りを行う3人及びD潜水者と共にカヌーに乗ってさんご礁帯の外縁に向い、15時10分備瀬埼灯台から091.5度3.3海里の地点でカヌーから降り、東方に向って素潜り漁を始めた。
 C潜水者とD潜水者は、漁獲物を収納する浮きを腰に結び付け、さんご礁帯の外縁の外側で魚介類を得ながら素潜り漁を続行中、前示のとおり、C潜水者に福祥丸の推進器が接触した。
 その結果、福祥丸は、損傷がなかったが、C潜水者(昭和22年9月23日生)は、頭部及び顔面創による脳損壊で死亡した。

(原因に対する考察)
 本件は、潜水者が存在する可能性のある海域を進行し、潜水者と推進器とが接触したものであるが、原因について以下に考察する。
1 見張り模様
 潜水者が携帯していた浮きは、長さ90センチ、幅45センチ、厚さ5センチ、先端の1辺が緩やかな曲線となるほぼ長方形の発砲スチロール製の浮きに長さ60センチ、幅45センチで完全に広げると高さが15センチとなる鉄枠で構成された編みかごをロープで結び付けたもので、浮きの先端に3ないし4メートルのロープを結び付け、そのロープを潜水者の腰に結び付けて使用するようになっていた。
 また、浮きは、以前、潜水を行っているときに迎えの船との会合や接近した船に避航を促す際、潜水者の存在場所の目印として有効に働いていた実績があり、C潜水者の浮きが水色で同潜水者の東方約8メートルにいたD潜水者の浮きがオレンジ色で、通常の状況であれば周囲から十分に識別できるものであった。
 しかしながら、本件発生時の見張り模様は、A受審人に対する質問調書中、「西日が逆光で前方が見え難くかった。」旨の供述記載及びB指定海難関係人に対する質問調書中、「西日が逆光で海面に反射して見え難かった。」旨の供述記載から、海面に浮遊する高さ10数センチの浮きを前方に視認するのに十分な見張りが行える状況ではなかったと認定できる。
 従って、A受審人は、潜水者を見つけるという観点からも、逆光を避け、潜水者が存在する可能性のある海域を船横に見ることができるよう、針路をより沖合にとるなどして針路の選定を適切に行うべき注意義務があったとするのが相当である。
2 情報の伝達模様等
 A受審人はB指定海難関係人から目的地が兼次の浜の沖合で、夜釣りに同行する潜水者が熟練者である旨を伝えられたものの、同受審人が熟練者という言葉だけから潜水者がさんご礁帯の外縁の外側で素潜り漁を行っていると予見することは極めて困難であると認められる。
 B指定海難関係人は、潜水者が東方に移動しながら素潜り漁を行っていることをA受審人に伝えず、また潜水者との会合場所を決めていなかったなど夜釣りに関する打合せを十分に行っていなかった。
 しかしながら、同指定海難関係人が、海技知識を十分に有していなかったこと、同受審人が潜水者に関する更なる情報を求めなかったことなどを併せ勘案すれば、潜水者に関する情報の伝達及び夜釣りに関する打合せが十分でなかったことは遺憾であるが、同指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とするまでもない。

(原因)
本件潜水者死亡は、沖縄県国頭郡今帰仁村北方沖合において、潜水者を出迎えに向う際、針路の選定が不適切で、潜水者が存在する可能性のある海域を進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、沖縄県国頭郡今帰仁村北方沖合において、潜水者を出迎えに向う場合、西日が逆光で海面に反射して、前方が見え難くかったのであるから、逆光を避けて潜水者が存在する可能性のある海域を船横に見ることができ、潜水者に対して危害を加えることのない安全な海域を進行するよう、針路の選定を適切に行うべき注意義務があった。しかしながら、同受審人は、目的地にできるだけ早く到達することに気を取られ、針路の選定を適切に行わなかった職務上の過失により、潜水者が存在する可能性のある海域を進行し、素潜り漁を行っていた潜水者と推進器との接触を招き、頭部及び顔面創による脳損壊で死亡させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 B指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。





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