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 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成13年長審第74号
件名

漁船鯛栄機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成14年6月28日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(半間俊士、道前洋志、寺戸和夫)

理事官
弓田

受審人
A 職名:鯛栄船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
機関内部を焼損、主機換装

原因
潤滑油漏洩の有無の確認不十分

主文

 本件機関損傷は、主機始動後、潤滑油漏洩の有無の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年3月8日17時00分
 長崎県宇久島北方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船鯛栄
総トン数 18.00トン
登録長 15.91メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 279キロワット
回転数 毎分1,900

3 事実の経過
 鯛栄は、昭和57年4月に進水した中型まき網漁業の漁獲物運搬に従事するFRP製漁船で、主機として、三菱重工業株式会社製の6ZGAC−1型と称する機関を備え、船首側出力軸端にベルト駆動の甲板機械用油圧ポンプ及び発電機を接続しており、始動と停止は機側で行われていた。
 主機の潤滑油系統は、クランク室油受の潤滑油が機関直結の潤滑油ポンプで吸引加圧され、同ポンプ出口から遠心こし器と油冷却器に分岐され、同こし器を通過した油は直接油受に戻り、冷却器を経た油は圧力調整後ろ紙エレメントを内蔵した複式こし器に至り、その後過給機及びピストン冷却用のジェットノズル、カム軸受、主軸受、クランク軸歯車などの機関内部に供給されたのち再び油受に戻るもので、配管を含めた系統全体の油量は油受の検油棒上限線までで105リットル同下限線までで75リットルであった。
 潤滑油の圧力については、全速力航行中は5.5ないし6.5キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)、回転数650(毎分、以下同じ。)の停止回転中は2ないし3キロがそれぞれ標準値で、圧力低下警報は工場出荷時に0.6キロに設定されていたところ、圧力スイッチの電気接点が腐食して固着したままとなり作動しなくなっていた。
 機関室の主機計器盤には、回転計のほか潤滑油圧力計、クラッチ作動油圧力計及び給気圧力計があり、うち潤滑油圧力計については、前示複式こし器の出口配管に呼び径4ミリメートル(以下「ミリ」という。)のくい込ねじ込アングル弁が元弁として取り付けられ、同弁のユニオンナットに接続された外径6ミリの銅管が圧力計まで配管されていた。
 ところで鯛栄は、平成9年以降有限会社はまだ漁業が運航して年間約3,000時間の主機運転を繰り返しており、この間主機が船首側出力軸端で油圧ポンプ及び発電機をベルト駆動していたこともあって大きな振動があり船首側の機関据付ボルトが緩みがちであったが、振動急増時に同ボルトを2度ばかり増締めしたものの定期的な点検や増締めは行われず、また前示銅管の固定バンドもほとんどが腐食破損した状態で運転が続けられ、いつしか機側潤滑油圧力計用元弁のユニオンナットが徐々に緩んできていた。
 A受審人は、現所有者が鯛栄を中古購入して以来船長として乗船し、3箇月毎に潤滑油全量とこし器ろ紙エレメントの交換及び遠心こし器の開放掃除を実施するなどして機関の保守作業にも携わっていたが、これまで機関に異状が無かったので大丈夫と思い、主機始動後潤滑油漏洩の有無の確認を十分に行わず、同ユニオンナットの緩みで潤滑油が漏洩していることに気付かないまま機関の運転を続けた。
 こうして鯛栄は、平成13年3月8日12時55分A受審人ほか1人が乗り組み、同受審人が主機を点検してクランク室油受の潤滑油が検油棒の上下限線間の8分目まであることを確認し、機側で始動後13時00分長崎県臼浦港を僚船とともに発し、15時30分生月島西方の漁場に至って主機の回転数1,700速力9.0ノットの全速力で魚群探索中、前示ユニオンナットの緩みが急速に進行して潤滑油が大量に漏洩し始め、同油の圧力が急速に低下して機関内部の潤滑が著しく不良となり、全シリンダの主軸受及びクランクピン軸受両メタルが焼損し、魚群反応があったので主機の回転数を停止回転の650に下げたところ、17時00分対馬瀬鼻灯台から真方位004度7.3海里の地点において主機が自停した。
 当時、天候は曇で風力5の北西風が吹き、長崎西海上に海上強風警報が発表されていた。
 操舵室で操船にあたっていたA受審人は、機関室に急行して潤滑油が主機の左舷機側と周囲の床に広範囲に飛散しているのを認め、クランク室油受の油量を確かめたところ検油棒の先端に油が付着しないことから、大量の潤滑油が機関外部に漏洩したものと判断し、以後の主機運転及び操業を断念して僚船に曳航を依頼した。
 その結果、鯛栄は、同日21時00分発航地に引き付けられ、業者による調査及び修理を受け、機関室主機計器盤の潤滑油圧力計用元弁のユニオンナットが2回転で抜け落ちるほどに緩んでいたことが判明し、のち機関内部の焼損が激しかったことから主機を換装した。

(原因)
 本件機関損傷は、主機を始動した際、潤滑油漏洩の有無の確認が不十分で、潤滑油圧力計用元弁のユニオンナットが緩んで同ナット部から潤滑油が漏洩し、軸受の潤滑が阻害されるまま機関の運転が続けられたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、主機を始動した場合、機関外部を見回って潤滑油漏洩の有無を十分に確認すべき注意義務があった。ところが、同人は、乗船以来これまで機関に異状がないので大丈夫と思い、主機始動時に潤滑油漏洩の有無を十分に確認しなかった職務上の過失により、潤滑油圧力計用元弁のユニオンナットが緩んで同ナット部から潤滑油が漏洩していることに気付かないまま機関の運転を続け、漁場に至って魚群探索中、機関振動などで同ナットの緩みが進行して潤滑油の漏洩が急増し、潤滑油系統の油量が著しく減少して同油の圧力低下を招き、機関内部の潤滑が不良となって全シリンダの主軸受とクランクピン軸受の両メタル及びクランク軸などが焼損するに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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