(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年12月23日03時35分
和歌山県田辺港南西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第八土佐丸 |
総トン数 |
96.02トン |
全長 |
29.30メートル |
機関の種類 |
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 |
出力 |
441キロワット |
回転数 |
毎分840 |
3 事実の経過
第八土佐丸(以下「土佐丸」という。)は、昭和53年7月に進水し、まき網漁業に従事する鋼製運搬船で、主機として、株式会社新潟鉄工所製の6MG20AX型と呼称するディーゼル機関を装備し、主機の各シリンダには船首側を1番として6番までの順番号が付され、操舵室には、計器類のほか冷却水温度上昇等の警報装置を組み込んだ主機遠隔操縦装置を備えていた。
主機は海水冷却方式で、その冷却海水系統は、海水吸入弁から呼び径65ミリメートルの海水吸入管で導かれた冷却海水が、冷却海水こし器(以下「こし器」という。)を経て、直結の冷却海水ポンプにより吸引・加圧され、潤滑油冷却器及び空気冷却器を冷却して冷却海水入口主管に至り、各シリンダごとに分岐してシリンダジャケット及びシリンダヘッドを冷却したのち、海水温度が摂氏60度以上になると作動する冷却水温度上昇警報装置のセンサーを備えた冷却海水出口主管に集められ、機関室右舷側の海面上50センチメートルにある船外吐出口から排出されるようになっていた。
ところで機関製造業者は、主機始動後には、必ず船外吐出口からの海水排出状況の点検を行うよう、機関取扱説明書に記載して取扱者に注意を促していた。
土佐丸は、和歌山県田辺港を基地として、同港西方沖合の漁場で、漁期には午後に出漁して平均3回の操業を行い、翌日の朝帰港する、いわゆる日帰り操業を月間7ないし10回繰り返しており、4年ごとの検査工事の際に、潤滑油冷却器及び空気冷却器等の整備を、2年ごとの検査工事の際に、ピストン抜き及び過給機等の整備をそれぞれ行うとともに、毎年1月から2月上旬ごろの休漁期に合入渠してこし器の掃除を行っていた。
土佐丸は、平成12年2月上旬の合入渠時にこし器の掃除を行ったのち、主機を月間約100時間運転しながら操業に従事していたところ、いつしか、スケール及び貝殻等がこし器、潤滑油冷却器及び空気冷却器等に付着して、船外吐出口から排出される冷却海水量が減少する状況となっていた。
A受審人は、同8年11月に機関長として乗り組み、1人で主機の運転管理にあたっており、冷却海水量については、これまで年1回のこし器の掃除で問題がなかったことから大丈夫と思い、普段主機始動後に冷却海水の排出状況の点検を行っていなかったので、冷却海水量が減少していることに気付かなかった。また、同人は、警報装置については、主機を停止すると警報ベルが鳴ってうるさいので、停止する前に警報ベルのスイッチを切り、始動後潤滑油の圧力が上がってから同スイッチを入れるようにしていたが、ときどき同スイッチを入れ忘れることがあった。
A受審人は、同12年12月22日16時40分、出漁のため主機を始動したが、いつものとおり冷却海水の排出状況の点検を行わなかったので、冷却海水量が著しく減少していることに気付かず、そのうえ、警報ベルのスイッチを入れることも失念した。
こうして土佐丸は、A受審人ほか1人が乗り組み、船首1.6メートル船尾2.2メートルの喫水をもって、同日17時00分田辺港を発し、18時ごろ漁場に至って操業を始め、翌23日03時ごろ2回目の操業の漁獲物を積み込んだのち、主機を回転数毎分810の全速力前進にかけて同港に帰港中、冷却海水量が不足して主機が過熱したが、警報ベルが鳴らないまま運転が続けられ、2番シリンダから6番シリンダまでのピストンとシリンダライナとが焼き付き、03時35分番所鼻灯台から真方位222度2.8海里の地点において、異音を発すると同時に主機の回転数が低下した。
当時、天候は晴で風力3の東北東風が吹き、海上には少し白波があった。
操舵室にいたA受審人は、主機の異常に気付き、非常停止ボタンで主機を停止して機関室に急行し、主機が過熱しているのを認め、しばらく主機を冷やしてターニングを試みるも果たせなかったので、主機の運転は不能と判断して事態を船長に報告した。
土佐丸は、来援した僚船によって田辺港に曳航され、修理業者が主機を精査した結果、前示の焼付きが判明し、のち損傷部品を新替えするなどの修理を行った。
(原因)
本件機関損傷は、主機を始動した際、冷却海水の排出状況の点検が不十分であったことと、警報装置の取扱いが不適切であったこととにより、冷却海水量が不足して過熱するまま、主機の運転が続けられたことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、主機を始動した場合、冷却海水量が不足して主機が過熱することがないよう、冷却海水の排出状況の点検を行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、冷却海水量について、これまで年1回のこし器の掃除だけで問題がなかったことから大丈夫と思い、冷却海水の排出状況の点検を行わなかった職務上の過失により、冷却海水量が不足するまま主機の運転を続け、主機が過熱する事態を招き、2番シリンダから6番シリンダまでのピストン及びシリンダライナを焼損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。