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平成13年神審第46号
件名

漁船第一由航丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成14年6月4日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(内山欽郎、上原 直、前久保勝己)

理事官
安部雅生

受審人
A 職名:第一由航丸機関長 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定・旧就業範囲)

損害
主機6番シリンダの排気弁棒2本が折損、過給機のノズルリング及びロータ軸等損傷

原因
主機の排気弁の整備不十分

主文

 本件機関損傷は、主機の排気弁の整備が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年11月7日03時10分
 高知県室戸岬東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第一由航丸
総トン数 188トン
全長 44.82メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 735キロワット
回転数 毎分680

3 事実の経過
 第一由航丸(以下「由航丸」という。)は、昭和53年1月に進水し、平成8年3月に現船舶所有者が購入した活魚運搬に従事する鋼製漁獲物運搬船で、主機として、株式会社新潟鉄工所が製造した6MG25BX型と呼称するディーゼル機関を備え、主機の船尾側架構上に、同社製のNHP25AL型と称する排気ガスタービン過給機(以下「過給機」という。)を付設していた。
 主機の各シリンダは、船首側を1番として6番までの順番号が付され、シリンダヘッドには、排気弁2個が船首側に、吸気弁2個が船尾側にそれぞれ直接組み込まれ、上部に潤滑油飛散防止用のシリンダヘッドカバーが取り付けられていた。
 吸・排気弁は、全長327ミリメートル(以下「ミリ」という。)、弁棒径20ミリ、弁傘径86ミリの耐熱鋼製きのこ形弁で、弁傘部の弁座との当たり面にはステライト盛金が施され、シリンダヘッドに装着された弁案内の中を弁棒が上下動するようになっており、各弁の弁傘部が正しく弁座に当たるように弁案内で弁棒の位置が決められ、吸・排気カム、プッシュロッド及び弁腕を介して所定の時期に開閉するようになっていた。
 動弁装置の弁腕注油系統は、主機システム油系統から独立しており、主機の船首側に設置された容量3リットルの注油タンクから、注油ポンプによって吸引・加圧された潤滑油が、各弁腕軸受及び吸・排気弁等を潤滑して注油タンクに戻るようになっていた。
 由航丸は、愛媛県宇和島港を基地として、鹿児島県鹿屋港及び高知県須崎港等で積み込んだたい及びはまち等の活魚を、三重県贄浦(にえうら)漁港及び神奈川県三浦港等へ運搬しており、2年ごとの検査工事の際に、ピストン抜き及び吸・排気弁等の整備を行っていたが、購入以来、吸・排気弁は摺り合わせ整備の繰り返しで、吸・排気弁及び弁案内は新替えされていなかった。
 A受審人は、購入時から由航丸の機関長として乗り組んでいたもので、主機については、1箇月ごとに燃料噴射弁の整備を行い、2週間ごとにシリンダヘッドカバーを開放して、タペットクリアランスの調整や動弁装置の点検を行うとともに、機関部員には、古い船なので水及び油の漏洩の有無や計器の示度に注意するよう指示するなどして、運転管理に従事していた。
 A受審人は、平成11年2月の合入渠の際、排気温度が上昇するなどして排気弁の損傷が懸念されたので、全シリンダの吸・排気弁を開放して摺り合わせ整備を行い、その後、主機を月間500ないし600時間ほど運転して活魚運搬に従事していたところ、同12年10月下旬ごろ、6番シリンダの排気弁の弁案内部から漏洩する排気ガスの量が増加するとともに、同シリンダの排気温度が時々上昇するのを認めたが、3箇月後には入渠するのでそれまでは大丈夫と思い、速やかに排気弁や弁案内を新替えするなどして、排気弁の整備を行わなかった。
 こうして、由航丸は、A受審人ほか5人が乗り組み、船首1.50メートル船尾3.55メートルの喫水をもって、回航の目的で、同12年11月6日15時10分贄浦漁港を発して宇和島港に向かい、主機を回転数毎分640の全速力前進にかけて航行しているうち、いつしか6番シリンダの右舷側排気弁が固着して弁傘部がピストン頂部と接触するようになり、翌7日03時10分室戸岬灯台から真方位071度25海里の地点において、同弁傘部が付け根から折損し、シリンダ内に落下した弁傘部が、シリンダヘッドとピストンとに挟撃されるとともに、破片の一部が排気マニホルドを経て過給機に侵入し、主機と過給機が異音を発した。
 当時、天候は晴で風力4の北東風が吹き、海上には白波があった。
 自室で休息していたA受審人は、異音に驚いて機関室に急行し、主機を機側で停止して各部を点検したところ、6番シリンダの排気弁用プッシュロッドが曲損しているのを認めるとともに、ターニングを試みたものの果たせなかったので、主機の運転は不能と判断し、事態を船長に報告した。
 由航丸は、来援した引船によって須崎港に曳航され、修理業者が主機及び過給機を精査した結果、主機6番シリンダの排気弁棒2本が折損、吸気弁棒2本が曲損、ピストン頂部及びシリンダヘッド触火面に多数の打痕傷が生じていたほか、過給機のノズルリング及びロータ軸等にも損傷が判明したので、のち損傷部品を新替えするなどの修理を行った。

(原因)
 本件機関損傷は、主機の運転管理にあたり、6番シリンダの排気弁の弁案内部から排気ガスの漏洩が増加するとともに、同シリンダの排気温度が時々上昇する状況となった際、排気弁の整備が不十分で、主機の運転中に排気弁が固着してピストン頂部と接触した同弁傘部が付け根から折損し、シリンダ内に落下した弁傘部が、ピストンとシリンダヘッドとに挟撃されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、主機の運転管理にあたり、6番シリンダの排気弁の弁案内部から排気ガスの漏洩が増加するとともに、同シリンダの排気温度が時々上昇するのを認めた場合、排気弁が固着気味になっているおそれがあったから、速やかに排気弁の整備を行うべき注意義務があった。ところが、同人は、3箇月後には入渠するのでそれまでは大丈夫と思い、速やかに排気弁や弁案内を新替えするなどして、排気弁の整備を行わなかった職務上の過失により、主機の運転中に排気弁が固着してピストン頂部と接触した同弁傘部が付け根から折損し、シリンダ内に落下した弁傘部が、ピストンとシリンダヘッドとに挟撃されるとともに、破片の一部が過給機に侵入する事態を招き、吸・排気弁のほか、ピストン、シリンダヘッド及びプッシュロッド並びに過給機のノズルリング及びロータ軸等に損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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