(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年9月12日06時00分
北九州市門司区部埼沖
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船菱山丸 |
総トン数 |
489トン |
登録長 |
60.08メートル |
機関の種類 |
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
回転数 |
毎分340 |
3 事実の経過
菱山丸は、平成4年7月に進水した鋼製貨物船で、鹿島港又は田子の浦港で液体化学薬品をばら積みし、日本各地で揚荷しており、主機として、阪神内燃機工業株式会社が製造した6LUN30AG型機関を装備していた。
主機は、燃料としてスタンバイ中はA重油が、航海中はC重油が使用され、航海中はほぼ連続最大出力で、揚げ荷中はカーゴポンプ駆動原動機として低負荷で運転され、月間の運転時間が約300時間であった。
主機の過給機は、石川島播磨重工業株式会社製のVTR251−2型と称する、タービン車室の鋳鉄製の排気入口及び同出口ケーシングが清水で冷却されるもので、排気出口ケーシングには2個のドレン排出口が設けられ、一方にはドレンコックが接続されてタービン側水洗浄時の洗浄水排出用として用いられ、他方には盲栓が取り付けられていたが、取扱説明書にはドレン排出口についての説明や図面が記載されていなかった。
過給機タービン車室ケーシングの排気通路と冷却水通路との隔壁は、冷却水側から侵食、あるいは排気側から腐食するので、6箇月ごとに肉厚を点検し、肉厚が3ミリメートル以下の部分を発見したときは速やかにケーシングを新替えするよう取扱説明書に記載されていたところ、菱山丸では毎年の入渠時に開放整備とともに同隔壁の肉厚計測が実施されていた。
ところで、過給機排気出口ケーシングの隔壁の肉厚は、外周に設けられた5箇所の冷却水室点検孔から隔壁の冷却水側表面に計測器具を押し当てて超音波によって計測し、その結果によって全体の腐食状況を推測しており、通常の開放整備では車軸をケーシングから抜き出すだけで、ケーシングやケーシング内部に取り付けられている車軸防熱鞘を取り外さないことから、排ガス側全体の腐食状況を詳細に目視点検することが困難であり、一方、排ガス側は、運転中のタービン側水洗浄が適正に実施されていても、盲栓されたドレン排出口に燃焼残渣が堆積し、同部に水分を吸着して硫酸によるピンホール腐食を生じることがあり、適宜、車軸防熱鞘を取り外しのうえ燃焼残渣が堆積しやすい同ドレン排出口付近を詳細に目視点検する必要があった。
A受審人は、平成7年11月菱山丸に乗り組み、年間を通じて140日を機関長として、140日を一等機関士として、残りを休暇という就業形態で機関管理に従事しており、主機運転中排気の煙色に注意し、スタンバイ中及び揚荷中など負荷が低いときは煙色が若干黒くなるものの、高負荷時には無色で燃焼が良好であることを確認していた。
また、過給機については、ブロワ側の薬品洗浄を1日1回、タービン側の水洗浄を1箇月に1回タービン車室のドレンコックから排出される洗浄水がきれいになるまで実施し、停泊中はドレンコックを開放のままとして水漏れの有無を点検していたが、排気出口側ケーシングの盲栓されたドレン排出口付近に堆積する燃焼残渣を取り除く処置をとらなかった。
平成12年8月機関長職を執っていたA受審人は、菱山丸が定期検査で入渠し、造船所に過給機の開放整備を依頼した際、約8年間の使用時間を考慮して翌年の入渠時にタービン車室ケーシングを新替えするつもりでいたところ、排気出口側ケーシング肉厚計測結果が最も薄いところで7.1ミリメートルであったことから、この状態であれば翌年までもつだろうと思い、排ガス側目視点検の措置をとらなかったので、盲栓されたドレン排出口付近にピンホール腐食が生じ、これが進行していたことに気付かず、同ケーシングを継続使用することとした。
菱山丸は、A受審人ほか4人が乗り組み、過酸化水素溶液800トンを積載し、船首3.0メートル船尾4.2メートルの喫水で、翌9月9日11時00分鹿島港を発して関門港西山区に向かい、11日16時40分部埼灯台から真方位135度800メートルの地点に至って投錨し、翌12日05時30分暖機の目的で主機冷却水ポンプを始動したところ、前示過給機水冷壁のピンホールが冷却水側まで貫通し、同ピンホールから漏れた冷却水が開放中の排気出口ケーシングのドレンコックから流れ出し、06時00分同地点において、主機準備中のA受審人が同漏水を発見した。
当時、天候は晴で風力1の南風が吹き、海上は穏やかであった。
A受審人は、膨張タンクの主機冷却水が約50リットル減量しているのを認め、このままでは揚荷役が不可能と判断し、過給機の修理を依頼した。
損傷の結果、菱山丸は関門港西山区への航行を取り止め、修理の目的で、主機減速運転で山口県小野田港に向かい、同港にて過給機の排気入口及び出口各ケーシングが新替えされた。
(原因)
本件機関損傷は、約8年間の長期にわたってケーシングを取り替えていない主機過給機を開放整備した際、ケーシング水冷壁排気側の点検が不十分で、ピンホール腐食が進行していたケーシングが取り替えられないまま継続使用されたことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人が、約8年間の長期にわたってケーシングを取り替えていない主機過給機を開放整備した場合、ケーシング水冷壁の肉厚計測結果では異状が認められなくても、盲栓されたドレン排出口に燃焼残渣が堆積し、水分を吸着して硫酸によるピンホール腐食を生じることがあるから、同ドレン排出口付近を詳細に目視点検する措置をとる必要があり、同措置をとらなかったことは原因となる。
しかしながら、このことは、盲栓されたドレン排出口について過給機の取扱説明書や図面に記載されていないこと、また、腐食状況の点検は、通常肉厚計測で代用しており、同計測結果によって継続使用可能と判断したことに徴し、A受審人の職務上の過失とするまでもない。
よって主文のとおり裁決する。