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平成13年神審第93号
件名

漁船第十七慶福丸機関損傷事件(簡易)

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成14年5月24日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(内山欽郎)

理事官
安部雅生

受審人
A 職名:第十七慶福丸機関長 海技免状:三級海技士(機関)(機関限定)

損害
2号発電機の界磁巻線及び自動電圧調整器の焼損

原因
油水分離の点検不十分

裁決主文

 本件機関損傷は、油水分離器の点検が不十分で、スラッジ排出管付け根の溶接端に生じていた亀裂から噴出したビルジが、運転中の発電機に降りかかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

適条

 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年9月5日10時55分(南アフリカ共和国標準時)
 南大西洋

2 船舶の要目
船種船名 漁船第十七慶福丸
総トン数 469トン
全長 57.59メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 735キロワット(計画出力)
回転数 毎分308(計画回転数)

3 事実の経過
 第十七慶福丸(以下「慶福丸」という。)は、昭和60年9月に進水した、まぐろはえ縄漁業に従事する鋼製漁船で、機関室中央部に主機を据え付け、主機の両舷に、神鋼電機株式会社が製造したディーゼル機関駆動のTVL−I−GJ−685型と称する容量400キロボルトアンペアのブラシレス三相交流発電機(以下「発電機」という。)を装備し、右舷側を1号発電機、左舷側を2号発電機と呼称していた。
 慶福丸の油水分離装置は、大晃機械工業株式会社製のUST−05型と呼称するビルジ処理装置で、ビルジポンプ、油水分離器及び各種配管等で構成されていた。
 油水分離器は、2号発電機の左舷側近くに配置され、外径約35センチメートル(以下「センチ」という。)高さ約1メートル40センチの円筒形で、頂部に空気抜弁が、周囲に油面検出器やテストコック及び各種の付属配管等がそれぞれ取り付けられていた。
 ところで、油水分離器右舷側の機関室床面から高さ約70センチのところには、器内のスラッジをスラッジタンクに排出するためのスラッジ排出弁及びスラッジ排出管が設けられていて、同管の油水分離器側面との溶接部が、2号発電機から約1メートルのところに位置していた。
 A受審人は、就航時から機関長として乗り組んで各機器の運転及び保守管理に従事していたもので、油水分離装置については、1年ごとに油水分離器を開放掃除してコアレッサーを取り替えるなどの整備を行うとともに、ほぼ1週間ごとに同装置を運転して機関室内のビルジを処理していた。また、同人は、油水分離装置の停止時には、油水分離器内にビルジポンプで海水を満たして付属の諸弁を閉止するようにしていたが、1週間後に同装置の運転を開始する際には、油水分離器内の海水が減少して空気抜きが必要となることから、通常、ビルジポンプで同器に海水を張水して、空気抜きを行ってから同装置を運転するようにしていた。
 慶福丸は、専らインド洋及び南大西洋で操業を行っており、例年通り、平成10年11月中旬に静岡県清水港を発し、インド洋で操業を行ったのち漁場を南アフリカ共和国沖合に移動し、同国ケープタウン港を基地として1航海が2ないし3箇月の操業を繰り返していたところ、機関室内の振動の影響によるものか、あるいは油水分離器の開放時に作業者がスラッジ排出管上に乗って作業を行ったことによるものか、いつしか、油水分離器のスラッジ排出管付け根の溶接端に亀裂が生じ、同亀裂からビルジが漏洩する状況となっていた。
 同11年8月中旬、A受審人は、油水分離装置の運転を開始するにあたって油水分離器の空気抜きを行った際、張水に要する時間が通常より長くなっているのを認めたが、油水分離装置の運転中は常に油水分離器から水が垂れている状態だったので、少しぐらい水が漏っても特に問題はあるまいと思い、油水分離器及び付属配管の点検を十分に行わなかったので、スラッジ排出管付け根の溶接端に生じた亀裂から海水が漏洩していることに気付かなかった。
 こうして、慶福丸は、A受審人ほかインドネシア人を含む21人が乗り組み、操業の目的で、船首2.0メートル船尾2.5メートルの喫水をもって、同年9月2日15時00分(南アフリカ共和国標準時、以下同じ。)ケープタウン港を発し、同港沖合の漁場に至って操業を繰り返していたところ、越えて同月5日の操業中、機関室当直中のA受審人が、油水分離装置を運転して機関室内のビルジ処理を行いながら、1号発電機から2号発電機に負荷を切り替えて間もなく、進行していた前示の亀裂からビルジが噴出して2号発電機に降りかかり、10時55分南緯37度3分東経21度28分の地点において、同機の界磁巻線が相間短絡によって焼損し、船内電源が喪失した。
 当時、天候は晴で風力2の西風が吹き、海上は穏やかであった。
 A受審人は、船内電源が喪失したのでまだ停止していなかった1号発電機の気中遮断器を直ちに投入し、船内電源を確保して2号発電機を点検した結果、同機周辺に水が溜まっていたうえ、ケーシングに水滴が付着するとともに吸気口のエアフィルタが濡れているのを認めたので、2号発電機が焼損したと判断し、事態を船長に報告した。
 その後、慶福丸は、1号発電機のみを運転して操業を継続し、南アフリカ共和国ダーバン港において、派遣された技術者が精査した結果、2号発電機の界磁巻線及び自動電圧調整器の焼損が判明したので、焼損部品を新替えする修理を行った。

(原因)
 本件機関損傷は、油水分離装置の運転を開始するにあたり、油水分離器の空気抜きのための張水時間が通常より長くなった際、同器の点検が不十分で、スラッジ排出管付け根の溶接端に生じていた亀裂から噴出したビルジが、運転中の発電機に降りかかったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、油水分離装置の運転を開始するにあたり、油水分離器の空気抜きのための張水時間が通常より長くなったのを認めた場合、同器あるいは付属配管に亀裂が生じて漏水しているおそれがあったから、同亀裂が進行してビルジが発電機側に噴出することのないよう、同器の点検を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、油水分離装置の運転中は常に油水分離器から水が垂れている状態だったので、少しぐらい水が漏っても特に問題はあるまいと思い、同器の点検を十分に行わなかった職務上の過失により、スラッジ排出管付け根の溶接端に亀裂が生じていることに気付かないまま油水分離装置の運転を行って、同亀裂から噴出したビルジが運転中の発電機に降りかかる事態を招き、同機の界磁巻線及び自動電圧調整器を焼損させるに至った。





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