(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年7月12日10時30分
大阪港
2 船舶の要目
船種船名 |
油送船第二十一明和丸 |
総トン数 |
178.30トン |
登録長 |
33.64メートル |
機関の種類 |
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 |
出力 |
294キロワット |
回転数 |
毎分420 |
3 事実の経過
第二十一明和丸(以下「明和丸」という。)は、昭和51年12月に進水した鋼製油送船で、住吉マリンディーゼル株式会社製のS6MBS型ディーゼル機関を主機として装備し、主機の船尾側架構上に、石川島汎用機械株式会社が製造したVTR−200型と呼称する軸流式排気ガスタービン過給機(以下「過給機」という。)を付設し、主機の燃料にはA重油を使用していた。
過給機は、排気入口ケーシング、タービンケーシング、ブロワ車室及び軸流タービンと遠心式ブロワとを結合したロータ軸などで構成され、主機の排気ガスにさらされる排気入口及びタービン両ケーシングには、熱ひずみ防止のために冷却水ジャケットが設けられていて、主機の冷却水系統から分岐した海水で冷却されており、同ジャケットの水冷壁(以下「水冷壁」という。)には、電気腐食防止のために防食亜鉛が取り付けられていた。
ところで、水冷壁は、排気ガス側からの硫酸腐食と冷却水側からの浸食及び電気腐食とによって経年的に衰耗するため、過給機メーカーでは、稼動後2年以上経過したケーシングの水冷壁については、6箇月ごとに水冷壁の肉厚を点検し、肉厚が3ミリメートル以下のところを発見した場合には、応急補修を行うか速やかに新品と取り替えるよう、取扱説明書に記載して取扱者に注意を促していた。
明和丸は、毎年入渠して船体の整備を行うとともに、2年ごとに各機器の整備を行い、主機を月間350ないし400時間ほど運転しながら、専ら瀬戸内海各港間でのC重油の輸送に従事していた。
A受審人は、就航時から機関長として乗り組み、過給機については、1箇月ごとにタービン側及びブロワ側各軸受室の潤滑油及びエアフィルタを、6箇月ごとに防食亜鉛をそれぞれ取り替えるとともに、2年ごとの入渠時に開放して軸受を取り替えるなどの整備を行っており、また、排気入口及びタービン両ケーシングが昭和63年ごろに取り替えられたもので、水冷壁の肉厚計測を定期的に行う必要があることも知っていた。
ところが、A受審人は、過給機の開放・整備時に業者に肉厚計測を行わせておらず、平成10年11月の過給機の開放・整備時にも、目視点検しただけでもう少し使用できると思い、水冷壁の肉厚計測を行わなかったので、排気入口及びタービン両ケーシングの水冷壁が、全面的に著しく衰耗した状況になっていることに気付かなかった。
こうして、明和丸は、A受審人ほか2人が乗り組み、C重油250キロリットルを載せ、同12年7月12日07時00分大阪港堺泉北区第5区の小松埠頭を発し、同港大阪区第5区の南埠頭K岸壁でC重油を揚げ切ったのち、空倉のまま、船首0.7メートル船尾2.8メートルの喫水をもって、10時20分同岸壁を発し、主機を回転数毎分250にかけて小松埠頭に向け帰航中、過給機タービンケーシングの水冷壁に破口が生じて冷却海水が排気ガス側に漏洩し、10時30分大阪南港南防波堤灯台から真方位307度460メートルの地点において、水蒸気が排気ガスと共に煙突から噴出した。
当時、天候は晴で風力3の南西風が吹き、海上は穏やかであった。
A受審人は、船首甲板上での荷役用具の片付けを終えて船尾甲板に行こうとしたところ、煙突から出る煙が著しく白変して水蒸気が噴出しているのを認めたので、直ちに機関室に急行して主機を停止するとともに、漏水量の多さから主機の運転は不可能と判断し、事態を船長に報告した。
明和丸は、来援した引船に曳航されて香川県の造船所に引き付けられ、整備業者が過給機を点検した結果、タービンケーシングの水冷壁に破口が生じていたほか、排気入口ケーシングの水冷壁も全面的に著しく衰耗していることが判明したので、のち排気入口及びタービン両ケーシングを取り替える修理を行った。
(原因)
本件機関損傷は、主機過給機の開放・整備を行った際、水冷壁の点検が不十分で、同壁が著しく衰耗した状態のまま、過給機の運転が続けられたことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、主機過給機の開放・整備を行った場合、水冷壁に破口が生じて冷却水が排気ガス側に漏洩すると、漏洩した冷却水が主機のシリンダ内に浸入して大きな事故につながるおそれがあるから、修理業者に定期的に水冷壁の肉厚計測を行わせるなど、同壁の点検を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、水冷壁を目視点検しただけでもう少し使用できると思い、同壁の点検を十分に行わなかった職務上の過失により、過給機の運転中に同壁に破口を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。