(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年12月19日16時58分
青森港内
2 船舶の要目
船種船名 |
引船うとう丸 |
総トン数 |
196トン |
全長 |
32.01メートル |
機関の種類 |
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 |
出力 |
2,500キロワット |
回転数 |
毎分750 |
3 事実の経過
うとう丸は、平成7年2月に進水した、専ら青森港内において出入港船舶の離着岸作業に従事する2基2軸の鋼製引船で、主機として、ヤンマーディーゼル株式会社が製造した6N260−SNと称する1,250キロワットのディーゼル機関を両舷に備え、出力軸がクラッチ、ユニバーサルジョイント及び垂直軸を介してダッグペラと称するコルトノズル付旋回式推進器に連結し、操舵室から主機及びダッグペラの遠隔操作ができるようになっていた。
ダッグペラは、操舵室の操縦スタンドに右舷用及び左舷用としてそれぞれ設けられた旋回レバーを操作することにより、プロペラを360度旋回させることができ、2軸の推力の方向を組み合わせることによって横移動、その場回頭を含む前進、停止、後進の各切替え及び操舵を行う機能を有しており、このほかに操縦スタンドの舵輪の操作によって両舷プロペラの同時旋回などができる仕組みとなっていた。
また、主機の回転数制御は、操縦スタンドに右舷用及び左舷用としてそれぞれ設けられた操縦レバーで行うようになっており、同レバーを手前一杯に倒すと主機付クラッチが脱となり、前方へ倒すと徐々に回転数が上昇するようになっていた。
主機排気管は、両舷機ともそれぞれ独立して過給機から船尾外板の各排気口まで導かれ、その配管模様は、過給機から水平に約7.5メートル延びて消音器に至り、そこから約80センチメートル立ち上がり、そのあと約40センチメートル下がって船尾外板の排気口に導かれ、消音器から排気口までの長さが約6メートルであった。また、排気口の外径は395ミリメートルで、その下縁が計画満載喫水線から797ミリメートルの高さに位置していた。
うとう丸は、受審人Aほか3人が乗り組み、出入港船舶の離着岸作業に従事する目的で、船首3.30メートル船尾3.40メートルの喫水をもって、平成12年12月19日15時05分定係岸壁である青森港第1区の通称安方岸壁を発し、同岸壁西方1,300メートルの沖館石油桟橋に向かい、操舵室中央で操船中の船長が離着岸作業の準備を指示し、A受審人が同室左舷寄りにおいて、船首甲板に設置された曳航索用ウィンチの遠隔操作と関係船との交信に、残りの2人の乗組員が船首甲板でロープ作業にそれぞれ従事する配置に就いた。
15時20分うとう丸は、沖館石油桟橋において油送船の離岸作業に従事し、同時50分同作業を終えたのち、同桟橋北西1,700メートルに位置するフェリー埠頭において、カーフェリーの着岸作業に従事し、16時20分同作業を終え、引き続き貨物船ジン コリア号(船籍港大韓民国釜山市、総トン数4,250トン、以下「ジ号」という。)の離岸作業に従事するため、フェリー埠頭南東750メートルに位置する沖館埠頭に向かった。
このころ、発達中の低気圧が津軽海峡付近を東北東に向けて通過中で、青森港内にはうねりを伴う北寄りの風が強吹していた。
16時25分うとう丸は、沖館埠頭に左舷付けで船首を真方位320度に向首していたジ号の右舷船尾に近づいたところ、船尾方から風浪を受けて自船の船体が激しく動揺したので、船首甲板に配置された乗組員2人が曳航索のヒービングラインの投げ渡し作業に手間取ることとなり、その間、船体を停留させるため両舷の主機を回転数毎分380として、旋回レバーで微速力前・後進及び停止を小刻みに繰り返しながら船首を南に向けていたが、A受審人が後方を見たところ、船尾から大波を受けて甲板に波が打ち込んでいる状況であった。
ところで、うとう丸は、先の2隻の離着岸作業では、船尾が風下になっていたことなどもあって、船尾から大波を受けることがなかったものの、ジ号の離岸作業では船尾からの大波で排気口が海面下になることがあり、しかも前示のように停留のため主機を低負荷運転状態としていたが、A受審人は、操舵室においてヒービングラインの投げ渡し作業を見守りながら、曳航索用ウィンチの遠隔操作とジ号との交信とに専念していたうえ、これまで排気口から海水が浸入して主機が停止した事例を聞いたことがなかったこともあって、操船中の船長に対し、主機の回転数を上昇させて排圧を高めるよう進言するなど、排気管への海水の浸入防止を思いつかなかった。
こうして、うとう丸は、ジ号にどうにかヒービングラインを投げ渡すことができたので、曳航索を7メートル延出し、船尾を風上に向けて待機していたところ、大量の海水が排気口から浸入し、排気管を経て過給機に滞留するようになり、16時58分青森港沖館西防波堤灯台から真方位163度850メートルの地点において、右舷主機の回転が低下した。
当時、天候は曇で風力8の北北西風が吹き、波高4.0メートルのうねりがあり、津軽地方には強風波浪注意報が発表されていた。
A受審人は、船長から主機回転数が毎分220に低下した旨を伝えられ、急ぎ機関室に駆け降りたところ、すでに右舷主機が停止しており、間もなく排気マニホルド、シリンダ及び給気管を経た海水が、過給機ブロワの空気取入部から大量に流出してきたのを認めて、これを船長に報告し、船長は危険と判断して曳航索を放ち、左舷主機を使って直ちにジ号から離れ、岸壁から200メートル沖のところで投錨したが、17時05分左舷主機も排気口からの海水の浸入により停止し、海水が過給機ブロワから流出した。
18時50分うとう丸は、来援した引船によって曳航が開始され、19時30分安方岸壁に引きつけられ、のち濡損した両舷主機及び過給機の開放修理が行われた。
(原因)
本件機関損傷は、荒天下、青森港内において離岸作業に従事中、船尾から大波を受けて甲板に波が打ち込む状況であった際、主機排気管への海水の浸入防止に対する配慮が不十分で、船尾外板の排気口から大量の海水が排気管を経て主機に浸入したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人が、荒天下、青森港内において離岸作業に従事中、船尾から大波を受けて甲板に波が打ち込んでいるのを認めた場合、海水が船尾外板の排気口から排気管を経て主機へ浸入することのないよう、操船中の船長に対し、主機の回転数を上昇させて排圧を高めるよう進言するなど、主機排気管への海水の浸入防止に対する配慮を十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
しかしながら、このことは、ヒービングラインの投げ渡しを見守りながら、曳航索用ウィンチの遠隔操作と関係船との交信に専念していたこと及びA受審人のみならず機関製造業者も排気管から海水が浸入して主機が停止した経験がないなど異常な気象及び海象状況であったことに徴し、同人の職務上の過失とするまでもない。
よって主文のとおり裁決する。