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平成14年仙審第3号
件名

貨物船第二十二王祐丸火災事件

事件区分
火災事件
言渡年月日
平成14年6月4日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(大山繁樹、亀井龍雄、上中拓治)

理事官
岸 良彬

受審人
A 職名:第二十二王祐丸機関長 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定)

損害
機関室上段の電線、主配電盤の計器、主機警報盤等を焼損

原因
空気抜き弁の点検不十分、主機シリンダの排気出口管の防熱措置不十分

主文

 本件火災は、主機燃料油入口主管付き空気抜き弁の点検が不十分であったことと、主機シリンダの排気出口管の防熱措置が不十分であったこととによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年9月20日07時30分
 三重県大王埼東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第二十二王祐丸
総トン数 199トン
全長 58.20メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 551キロワット
回転数 毎分345

3 事実の経過
 第二十二王祐丸(以下「王祐丸」という。)は、昭和63年12月に進水した船尾船橋機関室型の鋼製貨物船で、主機として阪神内燃機工業株式会社が製造した6LU26G型と称するディーゼル機関を装備し、主に紙製品を三重県鵜殿港で積載して京浜港への輸送に従事していた。
 機関室は、上下2段に分かれ、下段中央に主機が据付けられ、上段には、前部壁沿いに主配電盤、左舷側に補機及び電動の主機燃料供給ポンプ、左舷船首寄りに燃料油サービスタンクがそれぞれ設置され、後部に居住区へ通じる階段が設けられていた。
 また、主機は、各シリンダに船首側を1番として6番まで順番号が付され、左舷側に各シリンダの燃料噴射ポンプ、右舷側に各シリンダの排気出口管及び排気マニホルド、後部に過給機をそれぞれ備え、動力取出軸に航行中運転の軸発を装備していた。
 主機の燃料油系統は、燃料油サービスタンク内のA重油がこし器を経て主機燃料供給ポンプで約0.8キログラム毎平方センチメートルに加圧されて、主機左舷側上方の船首尾方向に配管された呼び径32ミリメートル(以下「ミリ」という。)の燃料油入口主管の後端に導かれ、枝管を経て各シリンダの燃料噴射ポンプに供給されており、燃料油入口主管には、前端寄りの頂部に空気抜き弁としてアングルニードル弁がハンドル車を真上に垂直に取り付けられていた。
 この空気抜き弁の組立構造は、長さ32ミリのスピンドルを弁本体にねじ込み、パッキンとしてスピンドルに2本のOリングを取り付け、パッキン押えナットを締め付けたうえ、直径25ミリのハンドル車及び同ハンドル車の止めナットを装着するもので、同弁の吐出側に外径6ミリの空気抜き管が取り付けられ、上段のエアセパレーターに導かれていた。
 ところで、空気抜き弁は、就航後しばらくして主機の燃料油がC重油からA重油に変更されたため、運転する際に空気抜き操作をする必要がなくなったことから、運転中スピンドル及びハンドル車が振動で緩まないように、円盤状のハンドル車に2箇所の穴があけられ、直径約1.5ミリの針金を通して燃料油入口主管に固縛されていた。
 一方、空気抜き弁のパッキン押えナットは、スピンドルの貫通する穴部分の直径が、スピンドル円筒部の外径とほぼ同じ4ミリの正規のものから、いつのまにかスピンドルねじ部の外径6ミリよりも大きいものが装着されており、そのため運転中にスピンドルの横振動が大きくなってハンドル車を固縛している針金が振動で切断する可能性があり、針金が切断すると、スピンドルが緩んで抜け落ちるおそれがあった。
 A受審人は、平成12年6月23日王祐丸に機関長として乗り組み、航海中1日3ないし4回機関室内を巡視し、機関日誌の記入、動弁装置への注油などを行って機関の運転・保守管理に従事していたところ、間もなく、主機の排気マニホルド及び過給機出口の排気管にはラギングによる防熱措置が施されていたものの各シリンダの排気出口管には施されていないのを認めたが、会社に申し出て追加の工事をしてもらうなどの防熱措置をとらず、高温になりやすい同管を裸出状態のままにしておいた。
 同年7月10日ごろA受審人は、機関室内を巡視中、前示空気抜き弁のハンドル車を固縛している針金が振動で切断し、ハンドル車が機関室下段の床に落下しているのを発見したが、ハンドル車を針金で取り付け直せば大丈夫と思い、パッキン押えナットを調べるなど空気抜き弁を十分に点検しなかったので、同ナットのスピンドル貫通穴が著しく大きく正規のものでないことに気付かず、スピンドルの抜け出しを防止する措置がとられないまま、ハンドル車をこれまでと同じ太さの針金で燃料油入口主管にひと回りかけて固縛し直し、また、ハンドル車の止めナットが見付けられなかったので、これは取り付けずに、その後の主機の運転に当たった。
 こうして、王祐丸は、A受審人ほか2人が乗り組み、空倉のまま、船首尾とも3.0メートルの喫水をもって、同年9月19日15時30分京浜港を発して鵜殿港に向かい、主機回転数を毎分330として約10ノットの全速力前進で航行中、いつのまにか空気抜き弁の針金が振動で切断してハンドル車が脱落するとともにスピンドルが緩み出し、やがて緩みが進んでついにスピンドルが同弁から抜け落ち、燃料油が噴出して排気出口管に降りかかり、同時に着火して燃料油が燃え上がって火災となり、このとき船橋の火災警報装置の電源スイッチが入れられていなかったため作動しなかったが、間もなく排気出口管の上方至近に設けられた主機冷却清水出口集合管付き温度検出端が火災による熱で過熱され、翌20日07時30分大王埼灯台から真方位112度12.4海里の地点において、冷却水温度上昇警報が作動した。
 当時、天候は曇で風力4の北風が吹き、海上は穏やかであった。
 自室で休息中のA受審人は、警報ベルを聞いて機関室に急行し、入口で主機1番シリンダヘッド付近から炎が上がっているのを認め、船橋へ行って主機を非常停止し、機関室へ引き返して階段の途中から船長及び一等航海士とともに持運び式消火器3本を、炎の出ている1番シリンダヘッド付近に向けて使用したが、消火できなかったので、07時50分鳥羽海上保安部に救助を求め、同保安部の指示により密閉消火の処置をしたのち、他の乗組員とともに救命筏(いかだ)に乗り移って退船し、11時ごろ巡視艇に救助された。
 22時40分王祐丸は、タグボートで三重県浜島町沖の航行船に支障のない場所に曳航(えいこう)されて錨泊し、翌21日07時巡視艇の乗組員によって鎮火が確認された。
 火災の結果、王祐丸は、機関室上段の電線、主配電盤の計器、主機警報盤等を焼損したが、のちいずれも新替え修理され、当該空気抜き弁は、スピンドルを取り外して盲栓によって塞がれ、また、主機各シリンダの排気出口管にラギングが施された。

(原因)
 本件火災は、主機燃料油入口主管付き空気抜き弁の点検が不十分で、規格外のパッキン押えナットが装着されたまま運転されたことと、主機シリンダの排気出口管の防熱措置が不十分であったこととにより、振動で緩んだ同空気抜き弁のスピンドルが抜け落ち、噴出した燃料油が裸出状態の排気出口管に降りかかり、着火したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、主機燃料油入口主管付き空気抜き弁のハンドル車を固縛している針金が切断し、ハンドル車が脱落しているのを認めた場合、スピンドルに異常振動を生じているおそれがあったから、パッキン押えナットを調べるなど空気抜き弁を十分に点検すべき注意義務があった。ところが、同人は、ハンドル車を針金で取り付け直せば大丈夫と思い、空気抜き弁を十分に点検しなかった職務上の過失により、空気抜き弁のパッキン押えナットに正規のものが使用されていないことに気付かず、スピンドルの異常振動により再び針金が切断してハンドル車及びスピンドルが脱落し、噴出した燃料油が裸出状態の排気出口管に降りかかり、着火して機関室火災を招き、機関室上段の電線、主配電盤の計器などを焼損させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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