(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年6月30日14時20分
愛媛県梶取ノ鼻北東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボート第3番代 |
全長 |
5.83メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
出力 |
36キロワット |
3 事実の経過
第3番代(以下「番代」という。)は、FRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、友人2人を乗せ、はまち釣りを行う目的で、船首0.2メートル船尾0.5メートルの喫水をもって、平成13年6月30日08時30分愛媛県今治市桜井の係留地を発し、同県越智郡梶取ノ鼻沖合の釣り場に向かった。
ところで、番代は、登録長5.21メートル、幅1.79メートル、深さ0.92メートルのランナバウト型ボートで、深さ約50センチメートル(以下「センチ」という。)のコックピットを大きく設け、船尾トランサムは2基掛けで、主船外機に加え予備船外機を1基備えていた。そして、コックピット内には最前部に座席の下が物入れとなっている高さ30センチのベンチシートが、中央部に長さ72センチ、幅50センチ、コーミング高さ25センチの蓋のついた生け間があり、その後方に舵輪とスロットルレバーの装備された高さ84センチの操舵スタンドが、最後部に高さ26センチの座席を兼ねた物入れがそれぞれ設置されていた。船内には、クーラーボックス、釣り竿などが持ち込まれていたが、固縛を要する重量物は積載されていなかった。
また、釣り場は、安芸灘の東部に位置しており、西風のときは吹送距離が長く風浪が発達し、地形的な特徴もあって三角波が立ちやすく、その上追い波を受けての荒天避難を余儀なくされることなどから、西方からの風浪に対しては特に配慮が必要な海域であった。
09時15分ごろA受審人は、梶取ノ鼻の西方500メートルに至って漂泊し、そのころ風はほとんどなく海面は穏やかで、適宜機関を使用して潮上りを繰り返しながら同鼻南西方1,000メートルから北東方800メートルに亘る範囲で釣りを行っていたところ、昼ごろから西風が吹き始め、13時ごろには風速5メートル、波高1メートルとなり、西風が強吹し始めて波浪が高くなる状況となったが、風勢が増しても何とか帰航できると思い、付近が三角波の立ちやすいことや追い波を受けながら避難する状況になることなど、西方からの風浪に対する配慮が不十分で、速やかに釣りを中断して馬刀潟(まてがた)などに荒天避難しなかった。
こうして、A受審人は、さらに風勢の増すなか風浪を斜め船首方から受けて釣りを続けていたところ、14時ごろ風速が10メートルを超え、波高が2メートルとなって周囲一面に白波が立つ状況となったところで、帰航することにして釣りの後片付けを終えたのち、同時16分来島梶取鼻灯台から289度(真方位、以下同じ。)550メートルの地点で、釣り場を発進し、針路を076度に定め、6.0ノットの速力で、左舷後方から風浪を受け波よりわずかに速い速力で進行中、同時20分少し前船首が波底に突っ込み波をかぶって速力が落ちたとき、14時20分来島梶取鼻灯台から029度400メートルの地点で、番代は左舷後方から大波の打ち込みを受けて左舷側に大傾斜して転覆した。
当時、天候は晴で風力5の西風が吹き、波高は2メートルであった。
転覆の結果、機関に濡損を生じ、A受審人は同乗者と共に船底にしがみついていたところ、折から付近を通りかかった大型のプレジャーボートに救助された。
(原因)
本件転覆は、安芸灘東部の梶取ノ鼻沖合で魚釣り中、西風が強吹し始めて波浪が高くなる状況となった際、風浪に対する配慮が不十分で、速やかに荒天避難しなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、安芸灘東部の梶取ノ鼻沖合で魚釣り中、西風が強吹し始めて波浪が高くなる状況となった場合、釣り場付近は風浪が発達して三角波の立ちやすい場所であることや、追い波を受けての荒天避難となることなど、西方からの風浪に対して十分に配慮し、速やかに馬刀潟などへ荒天避難すべき注意義務があった。しかるに、同人は、風勢が増しても何とか帰航できると思い、速やかに荒天避難しなかった職務上の過失により、増勢した追い波を受けて帰航中、後方から大波の打ち込みを受けて番代の転覆を招き、機関に濡損を生じさせ、全員が海中に投げ出されるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。