日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成13年那審第57号
件名

貨物船大東丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成14年6月18日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(坂爪 靖、金城隆支、平井 透)

理事官
平良玄栄

受審人
A 職名:大東丸船長 海技免状:四級海技士(航海)

損害
左舷側船底外板に多数の凹損

原因
水路調査不十分

主文

 本件乗揚は、水路調査が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年10月28日19時30分
 沖縄県久米島兼城港

2 船舶の要目
船種船名 貨物船大東丸
総トン数 499トン
全長 75.91メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット

3 事実の経過
 大東丸は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人ほか4人が乗り組み、コンテナ及び建築資材等300トンを積載し、船首2.9メートル船尾4.3メートルの喫水をもって、平成12年10月28日15時00分沖縄県那覇港を発し、同県兼城港に向かった。
 ところで、兼城港は、係留岸壁の前面南側が同港北西部の精川島から陸岸まで北北東方へ約150メートル延びる防波堤及び同島から南東方へ約1,200メートル延びる防波堤によって囲まれ、両防波堤沖合に陸岸とほぼ平行に北西方から南東方へ西干瀬及び中干瀬、その南東方には大干瀬とそれぞれ呼ばれるさんご礁が拡延しており、中干瀬と大干瀬に挟まれた長さ約800メートル可航幅約200メートルの、防波堤突端付近から南西方へ開いた水路が同港への出入口となっていた。
 水路入口の航路標識としては、中干瀬東端に兼城港第3号灯標(以下、灯標の名称については「兼城港」の冠称を省略する。)、大干瀬北西端に第2号灯標、水路中心線の延長上の陸岸に兼城港灯台及びこれに併設された兼城港指向灯(以下「指向灯」という。)がそれぞれ設けられていた。そして、指向灯の白光が055度(真方位、以下同じ。)を中心とする幅約3度で可航水路を、幅約4度の緑光及び赤光が水路の左側及び右側をそれぞれ示し、海図第238号(久米島南部)及び同第244号(南西諸島諸分図第4、久米島兼城港)にもその旨記載されていた。
 A受審人は、夜間の兼城港への入航は今回初めてであったが、数年前昼間に一度入航した経験があったことから、同港入口付近の水路状況は分かっているつもりで大丈夫と思い、発航前に備付けの大縮尺の海図第244号に当たって指向灯の灯色、灯光の方位や兼城港灯台と前示灯標とを結ぶ方位線と水路両側の中干瀬及び大干瀬との位置関係、水深の状況等を確かめるなどの水路調査を十分に行わなかった。
 発航操船後、A受審人は、船橋当直を一等航海士と交代して降橋し、19時00分兼城港灯台から158度4.2海里の地点で再び昇橋して同航海士から当直を引き継ぎ、針路を315度に定め、機関を全速力前進にかけて13.5ノットの速力で、所定の灯火を表示して自動操舵で進行した。
 19時15分A受審人は、兼城港灯台から210度3,140メートルの地点に達したとき、機関を10.0ノットの半速力に減じ、乗組員を入港部署配置に就かせ、自ら手動操舵と見張りに当たって続航し、同時18分半同灯台から229.5度3,050メートルの地点に達し、指向灯の赤光を見るようになったとき、同港の水路入口に向けるため右舵をとってゆっくりと右回頭を始めた。
 A受審人は、右転し始めて間もなく操舵コンパスの照明灯が切れ、針路が確認できなくなったため、急ぎ操舵室内で懐中電灯を探し、舵輪のところに戻ったところ、指向灯の緑光を視認した。
 19時21分A受審人は、兼城港灯台から242度2,600メートルの地点に達したとき、機関を5.0ノットの極微速力に減ずるとともに操舵コンパスを懐中電灯で照らして針路を同灯台の等明暗白光と左舷標識である第3号灯標の単閃緑光とをほぼ一線に見る062度に転じて進行したところ、中干瀬南端付近の浅礁に著しく接近する状況であったが、このままでも可航水域を航行できるものと考え、水路調査不十分で、この状況に気付かず、速やかに右転して水路入航針路を示す指向灯の白光を見て水路中央を航行しないで続航中、同時30分少し前測深儀を見て浅礁に接近していることに気付き、慌てて右舵15度をとったが及ばず、19時30分兼城港灯台から241度1,200メートルの地点において、大東丸は、船首が072度を向いて原速力のまま、中干瀬南端付近の浅礁に乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風力2の北西風が吹き、潮候はほぼ高潮時であった。
 乗揚の結果、左舷側船底外板に多数の凹損を生じたが、引船により引き下ろされ、のち修理された。

(原因)
 本件乗揚は、夜間、沖縄県久米島兼城港に初めて入航するにあたり、水路調査が不十分で、同港水路入口北側の中干瀬南端付近の浅礁に著しく接近して進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、沖縄県久米島兼城港に初めて入航しようとする場合、同港南側に拡延する中干瀬、大干瀬両さんご礁に挟まれた水路を通航することになるのであるから、同港水路入口付近の浅礁に著しく接近することのないよう、備付けの大縮尺の海図に当たって指向灯の灯色、灯光の方位や兼城港灯台と第3号灯標及び第2号灯標とを結ぶ方位線と水路両側の中干瀬及び大干瀬との位置関係、水深の状況等を確かめるなどの水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、数年前昼間に一度入航した経験があったことから、同港入口付近の水路状況は分かっているつもりで大丈夫と思い、水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により、指向灯の白光を見て水路中央を航行せず、中干瀬南端付近の浅礁に著しく接近していることに気付かないまま進行して乗揚を招き、左舷側船底外板に多数の凹損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION