(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年1月6日08時30分
瀬戸内海西部 上二子島北東沖
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボート秋佳丸 |
全長 |
12.50メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
250キロワット |
3 事実の経過
秋佳丸は、FRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、釣りの目的で、船首0.4メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、平成14年1月6日07時50分愛媛県松山港を発し、怒和島南西岸沖の釣り場(怒和島俵山169メートル頂から真方位220度0.7海里の水深33メートル付近のポイント)に向かった。
ところで、A受審人は、日曜休日にレジャーとして釣りを楽しみ、特に怒和島及び上二子島周辺水域に出かけることがほとんどで同水域の水路事情に明るく、上二子島北東部には同島から北東方に約200メートル張り出した干出岩を含む険礁域などの存在も知っており、そして釣り場への移動には目視で行っていた。
発航後、A受審人は、いつものように釣島水道の西方を横断してから、08時19分小市島灯台から032度(真方位、以下同じ。)670メートルの地点に達したところで、目視で針路を前示険礁域を十分に離すように怒和島と上二子島間のほぼ中央に向かう314度に定め、機関を全速力前進にかけて20.0ノットの速力で遠隔手動操舵により進行した。
ところが、08時27分A受審人は、船首少し左約0.5海里に上二子島東岸の約0.2海里沖付近に船尾に帆を展張して漂泊状態の1隻とその北方に1隻の釣り船を認めた。その2隻のうち南寄りの1隻が日頃から釣りの師匠としてあがめ世話になっていた釣り船に似ていたので、飲み物などを差し入れようとし、同時27分半クダコ島灯台から210度1.4海里の地点で、同船まで約0.4海里に近づいたとき、針路を同船に向かう310度に転じた。しかし同船に近づいて見ると師匠の船ではないことが分かり、同船の南側を付け回すように航過したのち、再び予定の釣り場に向かうことにしたが、前示険礁域の水路状況を熟知していることを過信して、同島及び同険礁域中の干出岩等の目視で同険礁域を至近に替わして釣り場に直航しようと思い、いったん怒和島と上二子島間の中央付近まで戻るなどして同険礁域を十分に離した針路の選定を行わず、同時29分半上二子島北東端から102度400メートルの地点で、津和地島の油トリ瀬灯標に向け310度の針路に転じたところ、予定の釣り場より更に南寄りで同険礁域の北東端付近の暗岩に向かう状況になったが、これに気付かないまま同じ速力で進行し、08時30分クダコ島灯台から240度2.750メートルにあたる同暗岩に乗り揚げた。
当時、天候は晴で弱い北東風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
乗揚の結果、秋佳丸は、船尾部外板を含む舵及び推進器等を損傷し、のち修理された。
(原因)
本件乗揚は、愛媛県怒和島と上二子島との間を北西方に向かう際、針路の選定が不適切で、上二子島北東端沖に存在する険礁域に向かって進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、怒和島南西岸沖の釣り場を目標に同島と上二子島との中央付近に向かって北西方に航行中、上二子島東端沖の釣り船に近寄ってから再び目的の釣り場に向かう場合、同端北東沖の険礁域に接近し過ぎないよう、いったん両島の中央付近まで戻るなどして同険礁域を十分に離した針路の選定を行うべき注意義務があった。しかし、同人は、前示険礁域の水路状況を熟知しているという過信から、同島及び同険礁域中の干出岩等の目視で同険礁域を至近に替わして釣り場に直航しようと思い、同険礁域を十分に離した針路の選定を行わなかった職務上の過失により、同険礁域の至近で転針して同域北東端付近の暗岩に気付かないまま進行して、同暗岩への乗揚を招き、船尾部外板を含む舵及び推進器等に損傷を生じさせるに至った。