(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年12月4日09時10分
香川県 丸亀港
2 船舶の要目
船種船名 |
設標船ぎんが |
総トン数 |
616.95トン |
全長 |
55.00メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
956キロワット |
3 事実の経過
ぎんがは、専ら浮標の設置、引き揚げ及び点検に従事する、2基2軸で可変ピッチプロペラ及びバウスラスターを装備し、船体中央部に船橋が設けられた鋼製設標船で、A受審人ほか22人が乗り組み、浮標交換の目的をもって、浮標2個と同付属設備を載せ、船首2.36メートル船尾2.98メートルの喫水をもって、平成13年12月4日09時00分香川県丸亀港蓬莱町南岸壁の第六管区海上保安本部丸亀浮標基地を発し、同県豊島北方の団子瀬に向かった。
ところで、丸亀港は、北西方に港口が開け、中央部の埋立地である蓬莱町(以下「埋立地」という。)によって東側と西側の港域に分かれていて、西側港域内には埋立地の西岸に長さ450メートルの蓬莱町西岸壁(以下「西岸壁」という。)が、同岸壁に接して南岸に長さ350メートルの蓬莱町南岸壁(以下「南岸壁」という。)がそれぞれ設けられている。南岸壁から200メートル隔てた対岸付近には土砂が堆積しており、このため南岸壁に沿って180メートルの幅で浚渫され水深5メートルの掘り下げ水路となっていたが、対岸から港内に向かう土砂の張り出しは西方に行くにしたがって大きくなり同水路端から300メートルのところで最大となり200メートルにわたり拡延していた。
また、ぎんがは、南岸壁の西端から200メートルのところに左舷付け係留されており、出航するときは離岸後バウスラスターなどを使用して反転した後、水路の中央部を同岸壁とほぼ平行する針路で航行し、南岸壁の西端に並航したとき右舵をとって約50度右転して港口に位置する丸亀港昭和町防波堤灯台(以下「昭和町防波堤灯台」という。)に向首するよういつも操船していて、前示の土砂の堆積による浅水域に接近することのないよう10メートル等深線を目処にして前後方向にある陸上物標を選び288度(真方位、以下同じ。)の方位線を避険線として設定していた。
A受審人は、自ら操船指揮にあたり、操舵手を手動操舵に、機関士を機関操作に、他の船橋配置員を見張りにそれぞれ配して、反転したのち、09時05分昭和町防波堤灯台から112度1,260メートルの地点で、針路を242度に定めて両舷極微速力前進の翼角5度にしたとき、西岸壁の南端付近に船首を南に向けて接岸している大型貨物船とその船首の向こうに同船を岸壁に向かって押しつけているタグボートの船尾部とその後方に伸びる放出流を見て係留作業中であると認め、南岸壁の西端付近に至るころ同作業が続いている場合は一旦運航を中止することも考えてその様子を見ながら進行し、同時07分半速力が3.0ノットとなったころ、針路を248度に転じて両舷微速力前進の翼角7度とし、このころタグボートの放出流が左右舷方に変わりその流速も弱まって綱取りボートも貨物船から離れたのを認め、作業はほぼ終了したと判断して予定どおり出航することにして続航した。
09時08分少し過ぎA受審人は、タグボートの放出流が停止し、南岸壁の西端に並航して船首方の避険線まで船首から50メートルとなったとき、貨物船やタグボートにより水路が狭められた初めて経験する状況のうえ、大舵をとると回頭が止まらず貨物船に著しく接近するのではないかと考えて大舵をとらないことにしていたが、いつもより少し大回りになっても支障ないと思い、舵効きが遅いことや小舵角での旋回径などを考慮し、速やかに機関やバウスラスターを使用するなどして回頭措置を十分に講じることなく進行し、同時08分半4.0ノットの速力で、右舵7度を令したものの回頭速度が遅いように感じ、ウイングに出て船位を確認したところ避険線を越えているのに気付き、右舵15度をさらに回頭力を増すため両舷半速力前進の翼角13度を令したものの効なく、09時10分昭和町防波堤灯台から130度950メートルの浅所に、船首が288度を向いて5.0ノットの速力で乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力1の北東風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
乗揚の結果、船底に凹損を伴う擦過傷を、両推進器翼に欠損及び曲損を生じたが、のち修理された。
(原因)
本件乗揚は、香川県丸亀港において、港奥の係留地から、着岸している貨物船によって狭められた水路を右回頭して出航する際、回頭措置が不十分で、水路左側の浅水域を十分に離さなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、丸亀港において、港奥の係留地から、着岸している貨物船によって狭められた水路を右回頭して出航する場合、初めて経験する状況であったうえ、大舵をとって回頭することにためらいがあったから、設定していた避険線を越えることのないよう、舵効きが遅いことや小舵角での旋回径などを考慮し、機関やバウスラスターを使用するなどして回頭措置を十分に講じるべき注意義務があった。しかるに、同人は、いつもより少し大回りになっても支障ないと思い、機関やバウスラスターを使用するなどして回頭措置を十分に講じなかった職務上の過失により、水路左側の浅水域を十分に離さないで進行して乗揚を招き、船底に凹損を伴う擦過傷を、両推進器翼先端に欠損及び曲損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。