(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年5月24日08時58分
関門港若松区洞海湾
2 船舶の要目
船種船名 |
油送船紀洋丸 |
総トン数 |
198トン |
全長 |
47.60メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
3 事実の経過
紀洋丸は、船尾船橋型鋼製オイルタンカーで、A受審人ほか3人が乗り組み、A重油300キロリットルを積載し、船首2.2メートル船尾3.6メートルの喫水をもって、平成13年5月23日12時40分愛媛県菊間港を発し、関門港若松区妙見泊地に向かい、21時10分部埼沖合の錨地に至って投錨仮泊し、翌朝の着桟を待った。
A受審人は、若松航路及び奥洞海航路を航行するのは今回が初めてであったが、航路標識に沿って航行すれば大丈夫と思い、海図や水路誌を参照するなどして航路の状況、航路付近の浅瀬の拡延状態及び水深等の水路調査を十分に行わなかった。
翌24日07時00分A受審人は、抜錨して手動操舵で関門航路を航行し、08時00分若松航路に入航して機関を半速力前進にかけ、5.6ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で進行し、その後前方に4,000トンクラスの同航船が存在することを認めた。
08時34分A受審人は、若戸大橋を通過して航路に沿うよう進行したのち、08時44分奥洞海航路に入航して次第に前路の同航船と接近するようになり、08時49分二島信号所から078度(真方位、以下同じ。)1,850メートルの地点で奥洞海航路第3、4号灯浮標の間に達したとき、航路中央部を航行する同航船との距離が1ケーブルほどとなり、そのまま進行すると同船に追いつく状況となったが、直ちに減速して同船に追随することなく、針路を奥洞海航路第6号灯浮標付近に向く248度に定めて進行した。
A受審人は、同航船と更に接近したが依然として同速力のまま進行し、08時52分二島信号所から082度1,350メートルの地点に達したとき、同航船の右舷側に並航したので機関を4.5ノットの微速力に落とし、同航船より遅い速力にしたが、そのままの針路で進行すると奥洞海航路第6号灯浮標付近の航路北側に隣接する浅瀬に著しく接近する状況となったのに、浅瀬の拡延状態を十分に把握していなかったのでこのことに気付かず、そのまま進行した。
08時55分わずか前A受審人は、奥洞海航路第6号灯浮標を右舷側10メートルほどに通過し、妙見泊地に向かって左転する地点に300メートルほどに接近したが、そのままでは左舷前方の同航船との距離が近すぎて左転ができないので機関クラッチを中立とし、続けて半速力後進に入れたところ、その後プロペラ反転効果で船尾が左転しだし、やがて本船は右回頭を始めた。
A受審人は、右転を止めようと左舵一杯としたが、効果が無いので直ちにクラッチ中立としたが、ゆっくりと右回頭を続け、08時56分航路をはずれて浅瀬に著しく接近し、08時58分二島信号所から088度680メートルの地点において、紀洋丸の船首が280度を向いたとき、約1ノットの残存速力で同浅瀬に乗り揚げた。
当時、天候は曇で風力3の北風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。
乗揚の結果、船底前部外板に擦過傷を生じ、のち自力離礁した。
(原因)
本件乗揚は、関門港若松区奥洞海航路に向かう際、水路調査が不十分で、航路付近に隣接する浅瀬に著しく接近したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、奥洞海航路を初めて航行する場合、同航路北側付近には浅瀬が隣接していたのであるから、水深や浅瀬の拡延状態を海図や水路誌を参照するなど水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、航路標識に沿って航行すれば大丈夫と思い、水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により、航路北側付近に隣接する浅瀬に著しく接近して乗揚げを招き、船底外板に擦過傷を生じさせるに至った。