(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年8月14日15時35分
長崎県九十九島湾
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボートホーク |
総トン数 |
8.5トン |
全長 |
11.96メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
235キロワット |
3 事実の経過
ホークは、2基2軸のFRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、同乗者4人を乗せ、約1週間の予定で長崎県北部沿岸における遊走及び宇久島での遊泳の目的で、船首0.8メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成13年8月13日12時00分係留地である博多港のマリーナを発し、長崎県大村湾のハウステンボスに向かった。
A受審人は、平素、遊走の際には係留地のマリーナから海図を借りて使用していたものの、このときはマリーナが休みのため借りることができなかったので海図を所持せず、加えて、平戸瀬戸から佐世保湾口に向けて航行中に強い雨に遭い、GPSが故障したため、航路情報は自身の記憶のみの状況であった。
A受審人は、佐世保湾に入る手前で片舷の主機の遠隔操縦装置のワイヤーが外れたため、16時30分ごろ同県大島町の造船所に寄港して修理を行い、翌14日09時30分同造船所を発進してハウステンボスに至ったものの、折からのヨットレースのために桟橋に係留できず、予定を変更して燃料油を補給したのみで、同地を発進して大村湾内を遊走ののち、佐世保市鹿子前所在の西海パールシーリゾートに向かうこととした。
ところで西海パールシーリゾートは、佐世保市の西側に広がる九十九島湾の北東奥に位置し、同地に至る水路としては、同湾の北西部から東航する同湾北側の水路(以下「北部水路」という。)があり、同湾南西部は島々の間に浅瀬が点在していた。そして、A受審人はこれまで数度北部水路を航行して同地に寄港した経験があった。
A受審人は、操舵席に立って手動で操船にあたり、機関を全速力前進にかけて航行を続け、針尾瀬戸、佐世保市高後埼南方を経て北上し、15時28分ごろ沖ノ楫懸灯浮標を右舷側に航過したとき、右舷前方に見える九十九島湾南西部の島々の間に遊覧船を見かけ、海図を所持せず、浅瀬の広がる同湾の南西部から同湾内を北上することになる水路(以下「南部水路」という。)の航行経験もなかったが、昼間なので目視で浅瀬を避けながら、遊覧船に続いて行けば西海パールシーリゾートに行けると思い、南部水路を航行することとし、航行経験のある北部水路を選定しなかった。
15時30分A受審人は、七郎山71メートル頂(以下「七郎山頂」という。)から235度(真方位、以下同じ。)1,260メートルに達したとき、針路を026度に定め、機関を全速力前進のまま、22.0ノットの対地速力で進行し、同時31分半七郎山頂から279度650メートルの地点で針路を035度に転じ、対地速力10.0ノットに減じて続航した。
15時34分少し過ぎA受審人は、七郎山頂から349度800メートルの地点で、前方100メートルに干出岩と浅瀬を示す2本の黄色の杭を認めたものの、船外機付小型船が杭の間を通り抜けたのを見て自船も通航できると考え、このとき右舷前方に浅瀬にあたる波が見えたので、更に5.0ノットに対地速力を減じて続航中、同時35分少し前前方の海面下に岩を認め、急いで機関のクラッチを中立としたが、間に合わず、15時35分七郎山頂から354度890メートルの地点において、水面下の浅瀬に乗り揚げて擦過した。
当時、天候は晴で風力2の西南西風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。
乗揚の結果、両舷の推進器軸及び推進器翼の曲損を、同軸ブラケット、舵板及び舵柱の損壊を、並びに船尾船底外板に亀裂を伴う擦過傷をそれぞれ生じた。
(原因)
本件乗揚は、長崎県九十九島湾奥に所在する西海パールシーリゾートに向かう際、針路の選定が不適切で、同湾南部の浅瀬に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、長崎県高後埼南方から北上して、同県九十九島湾奥に所在する西海パールシーリゾートに向かう場合、海図を所持していなかったのであるから、浅瀬の点在する同湾南西部を避け、通航経験のある北部水路を選定すべき注意義務があった。しかしながら、同人は、同湾南西部に遊覧船を見かけ、昼間なので目視で浅瀬を避けながら、遊覧船に続いて行けば西海パールシーリゾートに行けると思い、北部水路を選定しなかった職務上の過失により、浅瀬に向首進行して乗揚を招き、両舷の推進器軸及び推進器翼の曲損を、同軸ブラケット、舵板及び舵柱の損壊を、並びに船尾船底外板に亀裂を伴う擦過傷をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。