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 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成13年門審第94号
件名

漁船七号徳吉丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成14年5月22日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(橋本 學、千手末年、河本和夫)

理事官
畑中美秀

受審人
A 職名:七号徳吉丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)

損害
プロペラブレードに曲損、ラダープレートに凹損等

原因
操船不適切

主文

 本件乗揚は、船橋を無人としたことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年6月4日03時40分
 鹿児島湾

2 船舶の要目
船種船名 漁船七号徳吉丸
総トン数 52トン
全長 28メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 507キロワット

3 事実の経過
 七号徳吉丸(以下「徳吉丸」という。)は、かつお一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか7人が乗り組み、研修生2人を乗せ、操業の目的で、船首1.5メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、平成12年6月2日15時00分鹿児島港を発し、東シナ海草垣群島西方約20海里の漁場へ向かった。
 翌3日早朝、A受審人は、前示漁場に至り、当該海域を東北東方へ流れる黒潮に沿って草垣群島方面へ移動しながら操業を行い、かつお約6トンを漁獲したのち、19時00分同群島西方約5海里の地点を発進し、2時間6当直体制として発航地へ向けて帰途に就いた。
 明くる4日01時55分ころA受審人は、鹿児島湾の知林ケ島沖を航過した辺りで昇橋し、前直の一等機関士と交替して単独で船橋当直に当たり、02時00分知林島灯台から013度1.6海里(真方位、以下同じ。)の地点で、針路を340度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進の回転数毎分680にかけ、10.0ノットの対地速力で、法定灯火を表示して進行した。
 03時24分半A受審人は、神瀬灯台から174度2.7海里の地点に達したとき、鹿児島港方面から南下して来た2隻の反航船が、正船首約1.5海里まで接近したことから、それらと左舷対左舷で航過するつもりで、同灯台を船首わずか右方に見る352度に針路を転じて続航した。
 ところで、A受審人は、転針前から尿意を催していたのであるが、前示のように2隻の反航船が接近していたことから、それらを替わして針路を元に復したのちに小用を足しに行こうと考えていたところ、03時30分ころ当該2隻の反航船が左舷側を無難に航過した途端、尿意を我慢できなくなり、船首わずか右方に神瀬灯台を視認していたものの、小用を足すため、少しの間船橋を離れるだけだから大丈夫と思い、他の乗組員を昇橋させて見張りに当てることなく、船橋を無人としたまま一段下の甲板上にあるトイレに赴いた。
 こうして、A受審人は、トイレに移動して小用を足していたところ、尿意に加えて強い便意をも催したので、引き続き大用を足すこととし、尚、しばらくの間、船橋を無人としたまま進行中、03時40分少し前用足しを終えて船橋に戻ったとき、右前方間近に迫った神瀬灯台の灯光を認めて乗揚の危険を感じ、急いで全速力後進としたが、効なく、03時40分神瀬灯台から193度50メートルの地点において、徳吉丸は、原針路、原速力で、神瀬の浅所に乗り揚げた。
 当時、天候は雨で風力1の北東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
 乗揚の結果、プロペラブレードに曲損、ラダープレートに凹損並びに船尾キール及びシューピースに擦過傷を生じたが、自力で離礁し、のち修理された。

(原因)
 本件乗揚は、夜間、鹿児島湾を北上中、船橋を無人として神瀬の浅所に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、単独で船橋当直に当たり、鹿児島湾を北上中、トイレに赴くために船橋を離れる場合、他の乗組員を昇橋させて見張りに当てるなどして船橋が無人とならないようにすべき注意義務があった。ところが、同人は、少しの間船橋を離れるだけだから大丈夫と思い、すぐに戻るつもりでトイレに赴き、船橋を無人とした職務上の過失により、神瀬の浅所に向首進行して乗揚を招き、プロペラブレードに曲損、ラダープレートに凹損並びに船尾キール及びシューピースに擦過傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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