(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年6月18日10時40分
瀬戸内海 大蛭島東岸
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第十八朝日丸 |
総トン数 |
198トン |
登録長 |
38.52メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
330キロワット |
3 事実の経過
第十八朝日丸(以下「朝日丸」という。)は、船尾船橋型鋼製貨物船で、A受審人と機関長職を執る夫との2人が乗り組み、主として香川県風戸港から大阪港への鋼材輸送に従事していたところ、銅板430トンを載せ、船首2.70メートル船尾3.60メートルの喫水をもって、平成13年6月18日10時20分風戸港を発し、大阪港堺泉北区に向かった。
A受審人は、平素から夫と適宜交替しながら単独で船橋当直を行っており、10時29分霧模様の局島を通過したところで、出航から操船にあたっていた夫が機関室の見回りを行うため、同人と交替して船橋当直に就き、その後次第に濃い霧に見舞われるようになり、視界が狭められた状態で井島と大蛭島との間を経て、播磨灘北西部に向かう予定で井島西岸沿いに北上した。
ところで、井島と大蛭島との間は、その可航幅が500メートル足らずの狭い水道で、しかも両島を含む島嶼の散在した水域で複数の水路が交叉接続し、直島水道方面の水域と播磨灘北西部とを結ぶ内航船舶の主航路であるばかりかプレジャーボートや釣り船などの大小の船舶が行き交うところであるので、特に視界制限状態時の東行に際して、船位の確認を十分に行いながら陸岸に近寄り過ぎないように注意して航行する必要があった。
10時35分A受審人は、大蛭島灯台から213度(真方位、以下同じ。)1,430メートルの地点で、操舵スタンド左横に据え付けられた3海里レンジにしたレーダーにより、針路を井島と大蛭島との間のほぼ中央に向かう048度に定め、機関を全速力前進にかけて10.0ノットの速力で手動操舵により進行した。
ところが、10時38分A受審人は、レーダーで右舷船首45度1海里ばかりに探知した釣り船とも目される小さい映像が自船に近づくのを認め、同時38分少し過ぎこれを右舷側に替すつもりで小舵角で左転を行い、その後接近する同船のことに気を取られて船位の確認を十分に行わず、さらに小舵角による左転を続け、やがて大蛭島に向かうようになったことに気付かないまま続航した。同時40分少し前昇橋してきた夫が、レーダー画面から大蛭島に異常に接近した状態であることを知り、驚いて操舵中の妻を押しのけるようにして右舵一杯としたが及ばず、
10時40分大蛭島灯台から090度150メートルの地点において、朝日丸は、340度を向首して原速力で大蛭島東岸沖の浅瀬に乗り揚げた。
当時、天候は霧で風はほとんどなく、視程は約50メートルで、潮候は下げ潮の中央期であった。
乗揚の結果、朝日丸は、船首部船底外板に破口を伴った凹損を生じ、サルベージ船の来援を得て離礁し、のち修理された。
(原因)
本件乗揚は、岡山県宇野港東方にあたる井島北西方において、霧のため視界制限状況下に同島と大蛭島とによって形成された狭い水道を東行する際、船位の確認が不十分で、大蛭島東岸に向いて進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、単独で船橋当直にあたって霧のため視界制限状況下に井島と大蛭島とによって形成された狭い水道を東行する場合、同水道が複数の水路に通じたレジャーボートを含む大小船舶の往来するところであるから、陸岸に近寄り過ぎないよう、船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、たまたまレーダーで探知した小さい船との接近に気を取られ、船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、同船を右舷側に替そうとして小舵角による左転を続け、大蛭島に近寄り過ぎたことに気付かないまま進行して、同島東岸沖の浅瀬への乗揚を招き、船首部船底外板に破口を伴った凹損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。