(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年10月31日05時20分
静岡県浜松市
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボートチャレンジャー2 |
総トン数 |
9.7トン |
全長 |
10.03メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
273キロワット |
3 事実の経過
チャレンジャー2は、操船用簡易磁気コンパスを操舵室及びフライングブリッジの各舵輪の前面にそれぞれ1個装備していたが、レーダー及びGPSを装備していないFRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り込み、友人1人を同乗させ、回航の目的で、船首0.5メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、平成13年10月29日12時30分関門港新門司区の新門司マリーナを発し、横須賀港第7区の係船予定地へ向かった。
A受審人は、発航後、昼間は同乗者と適宜交代し、夜間は4時間交代での単独操船に当たることとして、瀬戸内海を東行し、広島県御手洗港で1泊したのち、鳴門海峡、潮岬沖合、布施田水道を通過し、翌々31日02時ごろ神島灯台の南東方約13海里の地点において、静岡県浜名港南方沖合に向けて航行中、同乗者と交代して操舵室で単独での操船に当たった。
ところで、浜名港口から天竜川河口にかけての海岸には、浜名港口離岸導流堤灯台、舞阪灯台及び五島灯台などがそれぞれ設置されていたものの、舞阪灯台から天竜川河口の五島灯台に至る約9海里の海岸には目標となる灯台等の灯光がなかったので、レーダーを装備していない船舶は、舞阪灯台沖合において浜名港口離岸導流堤灯台及び舞阪灯台で船位を確認し、両灯台を航過したのちは、五島灯台を左舷船首方に見ることとなる針路で進行するなど適切な針路を選定する必要があった。
A受審人は、浜名港口離岸導流堤灯台及び舞阪灯台の方位距離を目測しながら進行し、04時43分舞阪灯台から234度(真方位、以下同じ。)3.0海里の地点で、針路を064度に定め、機関を半速力前進にかけ、8.0ノットの対地速力で、手動操船により続航した。
05時05分A受審人は、舞阪灯台から164度1,100メートルの地点に達したとき084度に右転したが、海岸線に沿って航行しているものと思い、天竜川河口を十分に離すことができるよう、五島灯台の灯光を左舷船首方に見ることとなる針路とするなど、針路を適切に選定することなく進行した。
05時19分A受審人は、船首方の海岸の砂浜まで250メートルばかりに接近していることに気付かないまま続航し、05時20分舞阪灯台から099度2.2海里の地点において、原針路、原速力のまま砂浜に乗り揚げた。
当時、天候は曇で風力2の南西風が吹き、潮候はほぼ高潮時で、視界は良好であった。
乗揚の結果、船首部船底に擦過傷、プロペラ羽根12枚に曲損をそれぞれ生じ、船尾両舷側のトリムタブが脱落し、その後来援した漁船により引き降ろされ、自力で目的地に向かった。
(原因)
本件乗揚は、夜間、浜名港沖合から天竜川河口沖合に向けて東行する際、針路の選定が不適切で、海岸に接近したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、浜名港沖合から天竜川河口沖合に向けて東行する場合、天竜川河口を十分に離すことができるよう、五島灯台の灯光を左舷船首方に見ることとなる針路とするなど、針路の選定を適切に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、海岸線に沿って航行しているものと思い、針路の選定を適切に行わなかった職務上の過失により、海岸に接近して乗揚を招き、船首部船底に擦過傷等を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。