(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年5月29日14時00分
鹿児島県山川港
2 船舶の要目
船種船名 |
油送船第二太久丸 |
総トン数 |
30トン |
録長 |
19.72メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
121キロワット |
3 事実の経過
第二太久丸(以下「太久丸」という。)は、専ら船舶への給油作業に従事する船尾船橋型の鋼製油送船で、B指定海難関係人が1人で乗り組み、作業員1人を乗せ、空倉のまま貨物油を積載する目的で、平成12年5月29日11時20分定係地の鹿児島県山川港金生町船だまりを発し、同港成川桟橋に向かった。
ところで、K産業株式会社は、太久丸の運航実績が1ないし2箇月に1回程度であったことなどから、同船を運航するときにだけA受審人を船長として乗り組ませており、一方、機関長については、船舶職員法第20条第1項の規定に基づき、乗組み基準に定める機関長の乗組省略についての特例許可を受けており、同許可には、少なくとも緊急時において船長に代わり、見張り、操舵等ができる技能を有する補助者を1名以上乗り組ませなければならない旨の条件が付されていた。そのため、一級小型船舶操縦士の免許を有し、機関の操作はもとより、水路調査など船長を補佐することができるB指定海難関係人を補助者として乗り組ませるとともに、同船の保守管理及び給油作業並びにA受審人との連絡担当者としての任に就けていた。
これより先、B指定海難関係人は、6月9日に給油作業の予定が入っていたことから、5月29日の始業時に、自らの業務の都合により、予め太久丸に貨物油を積み込んでおくことにし、いつもは給油作業予定日の数日前にA受審人に連絡して乗船の可否を確認することにしていたところ、急遽(きゅうきょ)同日08時30分ごろになって自宅にいた同受審人に電話で乗船を依頼した。
依頼を受けたA受審人は、所用のため乗船できない旨の返事をした。
ところが、B指定海難関係人は、積込み作業を行うことについては会社に連絡したものの、A受審人が乗船できないことを伝えず、また、一級小型船舶操縦士の免許では太久丸の船長としては乗り組むことができないことを知っていたが、A受審人から操船の指導を受けたことがあり、定係地から荷役施設のある対岸の成川桟橋までは距離にして約700メートルしかないので、定係地と成川桟橋との間を往復するだけなら同受審人が乗船していなくても運航できると思い、同受審人に無断で同船を運航することにした。
B指定海難関係人は、11時30分成川桟橋に着桟して貨物油の積込み作業を始め、約1時間30分を要して同作業を終えたが、機関を始動したときに蓄電池が過放電気味で始動しにくかったことから、後日の給油作業に備えて蓄電池の充電を行っておこうと考え、定係地に直航せずに、山川港港界付近まで航行して充電を行うことにし、A重油105キロリットルをほぼ満載して、船首1.60メートル船尾1.90メートルの喫水をもって、13時00分成川桟橋を発進し、山川港港界付近に向かった。
成川桟橋を発進するに際し、B指定海難関係人は、これまでに山川港内を航行した経験から、山川港鵜ノ瀬灯標(以下「鵜ノ瀬灯標」という。)の北側には浅瀬が拡延していることを知っていたものの、その他には港内に危険な浅瀬はないものと思い、海図などによって港内の水路調査を十分に行わなかった。
B指定海難関係人は、自ら手動操舵に就いて操船に当たり、13時13分山川港番所鼻灯台(以下「番所鼻灯台」という。)から220度(真方位、以下同じ。)570メートルの地点において、機関を回転数毎分1,000として2.5ノットの対地速力で進行し、番所鼻を右舷に見て大きく右回頭を始め、同時25分同灯台から027度220メートルの地点に達して、回転数毎分1,200に上げて3.0ノットに増速し、港界付近に設置された山川港沖灯浮標を船首目標として続航した。
13時39分B指定海難関係人は、山川港沖灯浮標の西方約370メートルの、鵜ノ瀬灯標から123度530メートルの地点に達したところで、反転して定係地に戻ることにし、同灯浮標付近では白波が立っていたので、機関回転数毎分1,000に下げ、2.5ノットに減速したうえで、大きく左回頭を始めた。
13時52分少し前B指定海難関係人は、鵜ノ瀬灯標から081度630メートルの地点において反転を終え、同灯標を正船首わずか右方に見る、針路を259度に定めたところ、同灯標南側至近のところに拡延している鵜瀬に著しく接近する状況となったが、発航に際して海図などで水路調査を十分に行っていなかったので、このことに気付かずに進行した。
こうして、B指定海難関係人は、鵜ノ瀬灯標を右舷船首方に、番所鼻灯台を左舷船首方にそれぞれ見ながら続航中、14時00分鵜ノ瀬灯標から180度20メートルの地点において、太久丸は、原針路、原速力のまま、鵜瀬の南端付近の暗岩に乗り揚げ、擦過した。
当時、天候は晴で風力2の南風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
太久丸は、自力航行して成川桟橋に着桟した。
乗揚の結果、太久丸は、右舷船底部に破口などを生じたが、のち修理された。
(原因)
本件乗揚は、鹿児島県山川港において、無資格者が船長に無断で運航したばかりか、水路調査不十分で、鵜瀬に著しく接近したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
B指定海難関係人が、鹿児島県山川港において、船長が乗船できないことを知った際、船長に無断で第二太久丸を運航したことは、本件発生の原因となる。
以上のB指定海難関係人の所為に対しては、海難審判法第4条第3項の規定による勧告はしないが、無資格で第二太久丸を運航してはならず、補助者として船長を適切に補佐し、安全運航に努めなければならない。
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。