(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年9月4日05時00分
三重県志戸ノ鼻
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第三長久丸 |
総トン数 |
14トン |
全長 |
19.35メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
160 |
3 事実の経過
第三長久丸(以下「長久丸」という。)は、中型まき網漁業船団に付属し、探索船兼灯船として従事するFRP製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.5メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成12年9月3日18時00分僚船とともに三重県奈屋浦漁港を発し、同県田曽埼沖合の漁場に向かった。
操業中、A受審人は、欠員が生じていた網船の手伝いに甲板員を乗り移らせ、田曽埼から三重県三木埼にかけての沖合を操業したのち、翌4日03時30分1人で乗り組んだまま、三木埼灯台から138度(真方位、以下同じ。)4.5海里の地点を発進して帰途に就いた。
発進したときA受審人は、針路を志戸(しど)ノ鼻に向く032度に定めて自動操舵とし、機関をほぼ全速力前進にかけ、16.0ノットの対地速力とし、舵輪後方の背もたれ付き椅子に深く腰を掛けた体勢で見張りに当たって進行した。
ところで、A受審人は、平素、18時ごろ出漁し、翌日06時ごろ帰港して11時ごろ水揚げを終え、その後自宅に帰って16時ごろまで休息するという就労体制で、睡眠が十分にとれない状況にあったことから、漁場までの往復の航海や魚群探索中に甲板員と交代で休息を取ることにしていたが、当時、1人で乗り組んでいたため、平素の休息がとれず、帰途に就いたときには少々睡眠不足の状態となっていた。
04時31分A受審人は、見江島灯台から204度6.2海里の地点に達し、奈屋浦漁港に向ける予定転針地点付近に至ったとき、転針後の予定針路線上となる神前湾沖合に数隻の漁船を認めたため、原針路のまま進行して漁船群を航過後転針することとしたが、このころ睡眠不足に加えて奈屋浦漁港近くまで帰ってきた安心感から急に強い眠気を感じ始めた。
A受審人は、このまま続航すると居眠り運航となることが予測できる状況にあったが、入港が近いのでそれまで我慢できるものと思い、椅子から立ち上がり、外気を浴びて眠気を払うなど、居眠り運航の防止措置をとることなく、椅子に腰を掛けたまま進行していたところ、まもなく居眠りに陥った。
04時49分少し前A受審人は、見江島灯台から178度1.6海里の地点において漁船群を左舷側に通過したが、居眠りしてこれに気付かず、転針せずに志戸ノ鼻に向首する針路のまま続航中、05時00分長久丸は、見江島灯台から060度1.8海里の同鼻先端の岩礁に乗り揚げた。
当時、天候は晴で、風はほとんどなく、潮候は上げ潮の中央期であった。
乗揚の結果、長久丸は、船首船底部を破損し、発電機等を濡損したが、のち修理された。
(原因)
本件乗揚は、夜間、三重県南東岸沖合を航行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、志戸ノ鼻先端の岩礁に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、三重県南東岸沖合において、単独で乗り組み、発航地に向け航行中、眠気を催した場合、椅子から立ちあがり、外気を浴びて眠気を払うなど、居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、入港が近いのでそれまで我慢できるものと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠りに陥って乗揚を招き、長久丸の船首船底部を破損させ、発電機等を濡損させるに至った。