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 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成13年横審第95号
件名

漁船第八共徳丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成14年4月23日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(甲斐賢一郎、黒岩 貢、小須田 敏)

理事官
古川 隆一

受審人
A 職名:第八共徳丸船長 海技免状:四級海技士(航海)

損害
航行不能、全損、のち廃船

原因
船位確認不十分

主文

 本件乗揚は、船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年3月1日05時20分
 千葉県銚子港

2 船舶の要目
船種船名 漁船第八共徳丸
総トン数 80トン
全長 36.77メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 672キロワット

3 事実の経過
 第八共徳丸は、大中型まき網漁業に従事する鋼製漁船で、A受審人ほか19人が乗り組み、いわし漁の目的で、船首2.0メートル船尾4.0メートルの喫水をもって、平成12年2月29日17時45分僚船2隻とともに小名浜港を発し、魚群の探索をしながら銚子港南東方沖合の漁場に向かい、翌3月1日02時30分同漁場に到着したものの、次第に北西の風波が強まったので、他のまき網船団とともに操業を中止して銚子港に避難することとし、03時同漁場を発進した。
 ところで、銚子港は港口が北方に開いた、利根川河口に位置する港で、港内の河口北岸の茨城県側に波崎漁港、同南岸の千葉県側に銚子漁港があり、両漁港はそれぞれ川岸に沿って設けられた導流堤により同川から分離されていた。また、銚子漁港は、河口側から順に防波堤で囲まれた外港、第1漁船だまり及び第2漁船だまりがあり、同漁港に入航する船舶は外港の北側の防波堤間の入口(以下「北口」という。)と第2漁船だまりの導流堤間の入口(以下「西口」という。)のいずれかを通っていた。利根川を遡って西口に向かう水路は、銚子一ノ島灯台(以下「一ノ島灯台」という。)の南西方約750メートルの銚子漁港側にある沖ノ明神と呼ばれる険礁と波崎漁港導流堤先端(以下「導流堤先端」という。)から河口方向へ約200メートル突出する水深2.0メートル以下の浅所により可航幅が約200メートルに狭められているうえに流れが強く、そのため、同水路を航行する船舶は、同浅所などに接近することのないよう船位の確認に努める必要があった。
 A受審人は、04時40分ごろ銚子漁港第2漁船だまりに避難する予定で銚子漁港港外に到着したが、同漁港内では、すでに多数のまき網漁船で北口付近が混雑している状況であったので、それまで何回か経験していた利根川を遡って西口に向かう進路で入航することとし、05時15分、一ノ島灯台から293度(真方位、以下同じ。)350メートルの地点において、導流堤先端付近の浅所と沖ノ明神とをかわすため、操舵スタンド右側の0.75海里レンジとした主レーダーを見て、針路を導流堤先端を130メートル離す202度に定め、機関を港内全速力前進にかけ、3.9ノットの対地速力とし、手動操舵で進行した。
 定針したとき、A受審人は、それまで導流堤先端付近の浅所に向けて圧流されたこともなかったことから、無難に同浅所を航過できるものと思い、その後船位の確認を十分に行わなかったので、まもなく北方に流れる強い下げ潮流により、6度右方に圧流され、同浅所に接近し始めていることに気付かなかった。
 05時19分少し過ぎA受審人は、一ノ島灯台から241度630メートルの地点において、レーダー画面上導流堤先端の映像との距離が130メートルとなったが、折から西口を出て河口に向かう態勢の小型漁船群の灯火に目を向けていて、依然としてレーダーを利用するなどして船位の確認を行わなかったので、この状況に気付かなかった。
 05時20分わずか前A受審人は、従レーダーを監視していた一等航海士から導流堤先端が近い旨の報告を受けたが、どうすることもできず、05時20分一ノ島灯台から237度720メートルの地点において、原針路、原速力のまま、水深2.0メートルの導流堤付近の浅所東端部に乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風力5の西北西の風が吹き、河口から上流に向かううねりが侵入し、潮候は下げ潮の末期で付近には北東へ流れる強い下げ潮流があった。
 乗揚の結果、航行不能となり、その後河口から侵入するうねりにより導流堤先端に右舷側を押し付けられて全損となり、廃船とされた。

(原因)
 本件乗揚は、夜間、銚子漁港に入航するため利根川河口を航行する際、船位の確認が不十分で、導流堤先端付近の浅所に接近したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、銚子漁港に入航するため利根川河口を航行する場合、導流堤先端付近の浅所に接近しないよう、レーダーを利用するなどして、船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、河口で同浅所をかわす針路としたとき、それまで圧流されたこともなく航行していたので、無難に同浅所を航過できるものと思い、船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、下げ潮流により右方に圧流されて同浅所に接近していることに気付かないまま進行して乗揚を招き、その後河口から侵入するうねりによって導流堤先端に押し付けられた第八共徳丸を全損させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。





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