(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年9月29日02時30分
北海道納沙布岬東方貝殻浅瀬
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船盛山丸 |
総トン数 |
498トン |
全長 |
74.93メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
3 事実の経過
盛山丸は、主として鋼材やスクラップなどの輸送に従事する船尾船橋型貨物船で、A及びB両受審人ほか3人が乗り組み、平成13年9月27日16時15分北海道紋別港に入港して着岸待機したのち、翌28日積荷役を行い、ほたて貝殻729トンを載せ、船首2.76メートル船尾4.00メートルの喫水をもって、12時20分同港を発し、広島港に向かった。
A受審人は、船橋当直をB受審人と自らが5ないし6時間、甲板長が1時間担当する輪番の単独当直体制としており、発航後16時30分までと23時30分から04時30分までの時間帯をB受審人に行わせることとした。
ところで、B受審人は、紋別港入港後十分な休息をとり、出港当日の07時00分から11時30分まで積荷役作業の監視に従事し、その後出港配置に続き船橋当直にあたり、16時30分同当直を終えて入浴し、容量350ミリリットルの缶ビール2本、更に夕食後に同缶ビ−ル1本を飲み、20時ごろに就寝して入直のために23時ごろ起床したもので、同時25分昇橋した際に睡眠不足や疲労が蓄積した状態ではなかった。
A受審人は、根室海峡を南下し、23時30分野付埼北方10海里付近に差し掛かったとき、B受審人に船橋当直を引き継ぐにあたり、この先、野付水道さらに根室湾に引き続き納沙布岬と貝殻浅瀬間の珸瑤水道の慎重な操船を要する海域を航行することになるのに、同人に平素と変わった様子が見受けられなかったことから、特に指示しなくても大丈夫と思い、周囲の状況に応じた適切な航海当直を維持するよう指示することなく、同当直を交替して降橋した。
こうしてB受審人は、単独の船橋当直に就いて野付水道を抜け、翌29日00時40分野付埼灯台から131度(真方位、以下同じ。)5.0海里の地点に達したとき、針路を貝殻島に向く110度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて10.6ノットの対地速力で、操舵室右舷側前面窓の後方で背もたれ付きのいすに腰を掛けて見張りに当たって根室湾を珸瑤水道に向け東行した。
01時25分ごろB受審人は、根室港北方沖合に差し掛かったころ、折から海上平穏で視界もよく、前路に支障となる漁船なども見当たらなかったことから気が緩み、入浴及び夕食後の飲酒が影響したものか眠気を催すようになったが、眠気ざましにインスタントコーヒーを飲んだので眠ることはあるまいと思い、いすから立ち上がり外気に触れるなどの居眠り運航の防止措置をとることなく、そのままいすに腰を掛けて見張りを続けるうち、いつしか居眠りに陥った。
盛山丸は、居眠り運航のまま、珸瑤水道に向け針路が転じられないで貝殻島に向首進行し、02時30分納沙布岬灯台から061度1.7海里の地点において、原針路、原速力で貝殻浅瀬に乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力1の西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
A受審人は、自室で就寝中、衝撃を感じて目覚め、急いで昇橋して乗揚を知り、事後の措置に当たった。
乗揚の結果、盛山丸は、船底外板に亀裂を含む凹損を生じたほか、シューピースを曲損したが、タグボートにより引き降ろされ、のち修理された。
(原因)
本件乗揚は、夜間、根室湾を珸瑤水道に向け東行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、納沙布岬東方の貝殻浅瀬に向首進行したことによって発生したものである。
運航が適切でなかったのは、船長が、船橋当直を引き継ぐ際、船橋当直者に対して周囲の状況に応じた適切な航海当直を維持するよう指示しなかったことと、同当直者が、眠気を催し適切な航海当直を維持することに支障を生じるようになった際、居眠り運航の防止措置をとらなかったこととによるものである。
(受審人の所為)
B受審人は、夜間、単独の船橋当直に就き根室湾を珸瑤水道に向け東行中、自動操舵のままいすに腰を掛けて見張りに当たっているうち気の緩みなどから眠気を催した場合、居眠り運航とならないよう、いすから立ち上がり外気に触れるなどの居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。ところが、同受審人は、眠気ざましにインスタントコーヒーを飲んだので眠ることはあるまいと思い、いすから立ち上がり外気に触れるなどの居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、いすに腰を掛けたまま当直を続けて居眠りに陥り、居眠り運航となり貝殻浅瀬に向首進行して乗揚を招き、盛山丸の船底外板に亀裂を含む凹損を生じさせたほか、シューピースを曲損させるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
A受審人は、夜間、根室海峡を珸瑤水道に向け東行するに当たり、一等航海士に単独の船橋当直を引き継ぐ場合、この先、慎重な操船を要する海域を航行するのであるから、周囲の状況に応じた適切な航海当直を維持するよう指示すべき注意義務があった。ところが、同受審人は、当直交替時、同航海士に平素と変わった様子が見受けられなかったことから、特に指示しなくても大丈夫と思い、適切な航海当直を維持するよう指示しなかった職務上の過失により、当直者が気の緩みなどから居眠りに陥り、居眠り運航となって乗揚を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。