(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年2月23日17時48分
日向灘
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船3号房福丸 |
貨物船フェニックスインサイト |
総トン数 |
4.92トン |
730.00トン |
全長 |
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64.24メートル |
登録長 |
9.00メートル |
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機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
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882キロワット |
漁船法馬力数 |
50 |
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3 事実の経過
3号房福丸(以下「房福丸」という。)は、船体中央から船尾寄りに、船首側から順に操舵室、デリック及び網巻きローラーを備え、えびびき網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.4メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、平成12年2月23日15時00分宮崎県目井津漁港を発し、同漁港南東方沖合10海里の漁場に向かい、16時30分目的の漁場に至り、甲板上高さ約8メートルのデリック頂部にトロールにより漁ろうに従事している船舶の形象物を表示し、南南西方に向首して曳網(えいもう)を始めた。
ところで、A受審人が行うえびびき網漁は、水深100メートルないし150メートルの海域において、両端にそれぞれ直径30ミリメートル(以下「ミリ」という。)長さ200メートルの合成繊維製索を取り付けた長さ10メートルのビームによって網口を広げている長さ15メートルの漁網、及び操舵室後壁に係止して前示合成繊維製索に連結した直径30ミリ長さ600メートルの合成繊維製索を船尾から延出し、約3ノットの対地速力で1時間曳網したのち、速力を1.5ノットに落とし、デリック及び網巻きローラーを使用して揚網を行うもので、曳網中は曳索を弛ませると同索が浮き上がって推進器翼に絡まるおそれがあったので、大舵角をとって針路を転じることも、機関を急に停止したり後進にかけたりすることもできなかった。
17時18分A受審人は、鞍埼灯台から141度(真方位、以下同じ。)6.2海里の地点に達したとき、ほぼ正船首約4海里にフェニックスインサイト(以下「フ号」という。)を初めて視認し、その後、そのまま同じ針路で続航すると水深が次第に浅くなって漁網が海底に引っ掛かるおそれがあったので反転することとし、小舵角をとって左回頭を始めた。
A受審人は、曳索の張り具合を調整しながら船首を次第に東北東方に転じ、17時38分鞍埼灯台から133度6.7海里の地点で、針路を075度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進の回転数毎分2,000にかけて3.0ノットの対地速力で進行した。
定針したときA受審人は、後方を振り返ったところ、右舷船尾30.5度1.4海里に北東方に向首したフ号を認めたが、衝突のおそれがあれば漁ろうに従事している自船の進路をフ号が避けるものと思い、同船に対する動静監視を十分に行わず、舵輪後方に置いたいすに腰を掛け、前方を向いた姿勢で操業を続けた。
17時40分A受審人は、フ号が右舷船尾30度1.1海里になったとき、同船が針路を少し右に転じ、その後その方位が変わらず、衝突のおそれがある態勢で接近したが、依然同船に対する動静監視不十分で、このことに気付かず、警告信号を行うことなく続航中、同時48分わずか前ふと右舷正横を見たところ至近に同船を認め、思わず左舵一杯をとったが、効なく、17時48分鞍埼灯台から130度7.0海里の地点において、房福丸は、原針路、原速力のまま、その右舷前部に、フ号の左舷船首が後方から22度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力3の北東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、視界は良好であった。
また、フ号は、船尾船橋型のケミカルタンカーで、船長K及び三等航海士Zほか7人が乗り組み、空倉のまま、船首3.20メートル船尾5.00メートルの喫水をもって、同月21日11時00分(現地時間)中華人民共和国南通港を発し、千葉港に向かった。
翌々23日12時00分Z三等航海士は、単独の船橋当直に就き、16時45分都井岬灯台から182度3.3海里の地点で、針路を050度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて11.2ノットの対地速力で進行した。
17時30分Z三等航海士は、鞍埼灯台から157度7.1海里の地点に達したとき、左舷船首方2.6海里のところに東行する房福丸を初めて認め、同時40分同船が左舷船首8度1.1海里となったとき、同船の船首側を航過するつもりで針路を053度に転じたところ、その後同船の方位が変わらず、衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、コンパスで方位の変化を確認するなど、同船に対する動静監視不十分で、このことに気付かず、同時45分K船長に同船の存在を引き継がないで当直を交替して降橋した。
K船長は、単独の船橋当直に就き、房福丸が同方位790メートルに接近し、同船がトロールにより漁ろうに従事している船舶の形象物を表示して東行中であることを認め得る状況であったが、Z三等航海士から同船についての引継ぎがなかったので、同船に対する動静監視を十分に行わず、同船が衝突のおそれがある態勢で接近することを知らないまま、直ちに操舵室の海図台に置かれていた運航会社からのファックスを読み始め、同船の進路を避けることなく続航中、フ号は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
K船長は、房福丸と衝突したことに気付かないで航行を続け、22時30分高知県足摺岬南南西方約40海里沖合を東行中、海上保安庁から指示されて反転し、翌24日09時30分宮崎県油津港に入港して油津海上保安部の調査を受け、左舷船首部外板の擦過傷を見て衝突の事実を知った。
衝突の結果、房福丸は、右舷前部から船尾にかけての外板に亀裂を含む凹損などを生じ、フ号は、左舷船首部外板に擦過傷を生じたが、房福丸はのち修理された。
(原因)
本件衝突は、日向灘南部において、北上中のフ号が、動静監視不十分で、漁ろうに従事している房福丸の進路を避けなかったことによって発生したが、房福丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、日向灘南部において、法定の形象物を表示して漁ろうに従事中、後方から接近するフ号を認めた場合、同船と衝突のおそれがあるかどうか判断できるよう、フ号に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、衝突のおそれがあれば漁ろうに従事している自船の進路をフ号が避けるものと思い、同船に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、その後フ号が針路を少し右に転じ、衝突のおそれがある態勢で接近することに気付かず、警告信号を行わないで同船との衝突を招き、房福丸の右舷前部から船尾にかけての外板に亀裂を含む凹損などを、フ号の左舷船首部外板に擦過傷をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同受審人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。