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 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成13年門審第114号
件名

漁船弘信丸漁船潮音丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年6月27日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(上野延之、米原健一、橋本 學)

理事官
長浜義昭

受審人
A 職名:弘信丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:潮音丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
弘信丸・・・右舷船首部に損傷
潮音丸・・・左舷船首部に損傷

原因
弘信丸・・・居眠り運航防止措置不十分(主因)
潮音丸・・・見張り不十分、警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、弘信丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路で漂泊中の潮音丸を避けなかったことによって発生したが、潮音丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年8月3日16時00分
 山口県見島北北西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船弘信丸 漁船潮音丸
総トン数 19トン 19トン
全長 23.80メートル 24.80メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 588キロワット 478キロワット

3 事実の経過
 弘信丸は、いか一本つり漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.7メートル船尾2.1メートルの喫水をもって、平成12年8月2日15時00分島根県浜田港を発し、見島北方30海里付近海域の漁場に向かった。
 ところで、A受審人は、毎日昼ごろ出漁して翌日日出前ごろに帰港する就業形態を繰り返し、漁場と漁港間の航海中に他の乗組員と交替して休息をとり、更に入港後2ないし3時間の休息をとっていたものの、睡眠時間が十分にとれなかったので睡眠不足から居眠りに陥り易い状態であった。
 18時00分A受審人は、漁場に至って操業を行い、翌3日05時00分操業を中止して漁具を片付け、朝食を摂り休息をとったのち、漁獲量が少なかったことから漁場を移動することとし、14時00分見島北灯台から023度(真方位、以下同じ。)29.6海里の地点で、針路を250度に定め、機関を半速力前進に掛け、10.0ノットの対水速力で発進した。
 A受審人は、発進から操舵室後部床面上より高さ1メートルの板の間に腰掛けて自動操舵として見張りに当たり、15時30分見島北灯台から354度22.0海里の地点に達したとき、睡眠不足から眠気を催したが、漂泊中に休息していたので居眠りに陥ることはないものと思い、他の乗組員を起こして船橋当直(以下「当直」という。)を交替するなど居眠り運航の防止措置を十分にとることなく、続航していつしか居眠りに陥った。
 15時57分少し前A受審人は、見島北灯台から341.5度21.5海里の地点に差し掛かったとき、正船首1,000メートルのところにスパンカを展張する潮音丸を視認することができ、その後、同船が船首方の海面上にシーアンカーの橙色浮子を浮かべていること及びその動静から漂泊していることが判別でき、衝突のおそれのある態勢で同船に向首進行していることを認め得る状況になったが、居眠りに陥っていたので、このことに気付かず、同船を避けることなく続航中、16時00分見島北灯台から340度21.5海里の地点において、弘信丸は、原針路、原速力のまま、その右舷船首が潮音丸の左舷船首部に後方から47度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風はほとんどなく、視界は良好であった。
 また、潮音丸は、いか一本つり漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人ほか2人が乗り組み、操業の目的で、船首1.3メートル船尾2.4メートルの喫水をもって、同月2日13時00分山口県湊漁港を発し、見島北方24海里付近海域の漁場に向かった。
 19時00分B受審人は、漁場に至って操業を行い、翌3日05時00分操業を中止して休息をとり、13時40分漁獲量が少なかったことから漁場を移動することとして漁場を発し、15時40分前示衝突地点付近の漁場に至り、直径18メートルのパラシュートの先端に直径60センチメートル長さ1メートルの橙色浮子を直径20ミリメートル長さ10メートルの合成繊維索で取り付け、パラシュートを長さ40メートルのパラシュート索に連結した直径36ミリメートル長さ25メートルの合成繊維索で潮音丸の船首たつに係止してシーアンカーとし、夜間の操業待ちのために船首を南南西方に向けて漂泊を始めた。
 漂泊を始めたとき、B受審人は、他船が衝突のおそれのある態勢で自船に向首進行する状況になるかもしれなかったが、漂泊中の自船を他船が避けるものと思い、乗組員を当直に当たらせないで、周囲の見張りを十分に行うことなく、このことに気付かず、自らも操舵室後部で休息した。
 15時57分少し前B受審人は、船首が203度を向いたとき、左舷船尾47度1,000メートルのところに弘信丸を視認でき、その後同船が衝突のおそれのある態勢で自船に向首進行することを認める状況であったが、依然周囲の見張りを十分に行うことなく、このことに気付かないで、警告信号を行わず、更に間近に接近しても機関を掛けて衝突を避けるための措置をとらないまま漂泊中、潮音丸は、203度に向いて、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、弘信丸は右舷船首部に、潮音丸は左舷船首部にそれぞれ損傷を生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は、見島北北西方沖合において、漁場を移動中の弘信丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路で漂泊中の潮音丸を避けなかったことによって発生したが、潮音丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、見島北北西方沖合において、単独の当直に就いて漁場を移動中、眠気を催した場合、居眠り運航を防止するよう、他の乗組員を起こして当直を交替するなど居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、漂泊中に休息していたので居眠りに陥ることはないものと思い、居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により、居眠りに陥り、潮音丸を避けないまま進行して同船との衝突を招き、弘信丸の右舷船首部及び潮音丸の左舷船首部にそれぞれ損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 B受審人は、見島北北西方沖合において、夜間の操業待ちのために漂泊する場合、自船に向首進行する他船を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、漂泊中の自船を他船が避けるものと思い、乗組員を当直に当たらせないで、自らも操舵室後部で休息をとって周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、自船に向首進行する弘信丸に気付かないで、警告信号を行わず、更に間近に接近しても機関を掛けて衝突を避けるための措置をとらないまま漂泊を続けて同船との衝突を招き、両船に前示のとおりの損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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