日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成14年門審第17号
件名

貨物船好栄丸漁船金義丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年6月21日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(西村敏和、河本和夫、島 友二郎)

理事官
関 隆彰

受審人
A 職名:好栄丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
B 職名:金義丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
好栄丸・・・右舷船首部に擦過傷及び推進器翼に欠損
金義丸・・・右舷船尾ブルワーク及びデリックブームに損傷

原因
好栄丸・・・動静監視不十分、各種船間の航法(避航動作)不遵守(主因)
金義丸・・・動静監視不十分、警告信号不履行、各種船間の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、好栄丸が、動静監視不十分で、トロールにより漁ろうに従事する金義丸の進路を避けなかったことによって発生したが、金義丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年12月30日13時36分
 山口県秋穂港沖合の周防灘

2 船舶の要目
船種船名 貨物船好栄丸 漁船金義丸
総トン数 199トン 4.9トン
全長 58.01メートル  
登録長 54.32メートル 11.30メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット  
漁船法馬力数   15

3 事実の経過
 好栄丸は、シリングラダーを装備した船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人ほか2人が乗り組み、コークス700トンを積載し、船首2.80メートル船尾3.60メートルの喫水をもって、平成12年12月30日11時55分山口県宇部港を発し、広島県呉港に向かった。
 12時58分A受審人は、草山埼灯台から224度(真方位、以下同じ。)8.4海里の地点において、出港時から船橋当直に就いていた甲板員と当直を交替し、13時00分同灯台から223度8.1海里の地点において、針路を085度に定め、機関を回転数毎分350の全速力前進にかけ、10.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、自動操舵によって進行した。
 A受審人は、操舵装置の後方でいすに腰を掛けて見張りを行っていたところ、13時25分草山埼灯台から192度5.6海里の地点において、右舷船首8度2.1海里のところに金義丸を初めて視認し、同船が漁船であることを知ったが、自船の進路上から離れているので、接近することはないものと思い、その後は同船のことを気にも留めずに続航した。
 13時32分A受審人は、草山埼灯台から180度5.4海里の地点において、正船首1,630メートルのところに、漁ろうに従事していることを示す黒色鼓形形象物を掲げ、船首を310度に向けた金義丸を認め得る状況で、その後低速力で左回頭を続ける同船と衝突のおそれのある態勢で接近したが、動静監視を十分に行っていなかったので、このことに気付かず、右転するなどして同船の進路を避けずに進行した。
 A受審人は、いすに腰を掛けたまま漫然と船橋当直を続け、13時34分草山埼灯台から176度5.4海里の地点に達したとき、左舷船首2度830メートルのところの金義丸が、船首を270度に向け、更に左回頭を続けて衝突のおそれのある態勢で接近したが、依然として、このことに気付かず、同船の進路を避けないまま続航した。
 こうして、A受審人は、13時35分少し過ぎほぼ正船首約200メートルのところに接近した金義丸にようやく気付いたものの、双眼鏡でその動静を確認しようとして手間取り、更に接近して右舵25度をとったところ、金義丸が自船の船体中央部に衝突するおそれが生じたので左舵一杯に取り直したが、及ばず、13時36分草山埼灯台から172度5.4海里の地点において、好栄丸は、原針路から20度左に回頭して船首が065度に向いたとき、原速力のまま、その右舷船首部が、金義丸の右舷船尾部に前方から15度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風力4の東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、視界は良好であった。
 また、金義丸は、小型機船底びき網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.6メートル船尾1.6メートルの喫水をもって、同日06時30分山口県秋穂漁港を発し、同漁港南方の漁場に向かい、07時30分草山埼灯台から163度5.0海里の地点に至り、同時50分底びき網2統を投じ、えびこぎ網漁を開始した。
 ところで、B受審人は、操舵室後方の、甲板上の高さ約3メートルのところに黒色鼓形形象物を掲げ、長さ4.5メートルの「はりだし」と称する竿を操舵室前部の両舷からそれぞれ横方向に出し、その先端に直径16ミリメートル長さ約8メートルの「とったり」と称するロープを取り付け、操舵室両舷側にあるワイヤリールからそれぞれ直径10ミリメートルのワイヤロープ(以下「曳綱」という。)を約60メートル繰り出して、同曳綱に付けたアイをとったり先端のフックに掛け、各曳綱で長さ約6メートルの底びき網各1統を曳き、水深25ないし30メートルの海域で約1時間曳網し、1回の操業に約1時間20分を要して操業を繰り返していた。
 B受審人は、13時05分4回目の操業に取り掛かり、草山埼灯台から174度6.4海里の水深約27メートルの地点において投網し、針路を020度に定め、機関回転数毎分2,300の2.5ノットの速力で、船尾甲板まで延ばした遠隔操舵装置を操作し、手動操舵によって曳網を始めた。
 B受審人は、両舷から網を曳いていたことで針路が安定していたことから、船尾甲板左舷側でいすに腰をかけ、右舷後方を向き、右舷船尾にいた甲板員と向かい合わせで、前回の操業で漁獲したえびの選別作業を始め、時折周囲の見張りを行いながら曳網を続けた。
 13時23分B受審人は、草山埼灯台から171度5.8海里の地点において、左舷船尾74度2.4海里のところに、東行中の好栄丸を初めて視認したが、同船と接近することになれば、同船が漁ろうに従事している自船の進路を避けてくれるものと思い、再び右舷後方を向いて選別作業を続けた。
 B受審人は、曳網を続けるうち、水深が次第に浅くなり、やがて約20メートルとなったことから、反転して水深が深いところで曳網することにし、13時27分草山埼灯台から170度5.6海里の地点において、舵を中央としたまま、右舷側の曳綱をウインチで少し巻き縮めてとったりを弛ませ、曳綱の張力がはりだしの先端から直接ウインチに掛かるようにし、両舷の張力の作用点を変える方法により、風下側に向けて左回頭を始めた。
 B受審人は、約500メートルの旋回径で左回頭し、13時32分草山埼灯台から170度5.5海里の地点において、船首が310度に向いたとき、左舷船首45度1,630メートルのところに、東行中の好栄丸を視認し得る状況で、その後左回頭を続けることにより、衝突のおそれのある態勢で接近したが、右舷後方を向いたまま漁獲物の選別作業を続け、動静監視を十分に行わなかったので、このことに気付かなかった。
 こうして、B受審人は、左回頭を続けるうち、13時34分草山埼灯台から171度5.4海里の地点に達し、船首が270度に向いたとき、好栄丸が左舷船首7度830メートルのところとなったが、依然として、動静監視を十分に行わなかったので、同船と衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、警告信号を行うことも、行きあしを止めるなどして衝突を避けるための協力動作をとることもせずに左回頭を続け、13時36分わずか前右舷船首至近のところに迫った好栄丸を認めたが、どうすることもできず、金義丸は、船首が230度を向いたとき、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、好栄丸は、右舷船首部に擦過傷及び推進器翼に欠損を生じ、金義丸は、右舷船尾ブルワーク及びデリックブームに損傷並びに推進器翼及び同軸に曲損を生じたが、のちいずれも修理され、金義丸の右舷側曳綱が切断して漁網1統が海中に没した。

(原因)
 本件衝突は、山口県秋穂港沖合の周防灘において、好栄丸が、動静監視不十分で、トロールにより漁ろうに従事する金義丸の進路を避けなかったことによって発生したが、金義丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、山口県秋穂港沖合の周防灘を東行中、金義丸を認めた場合、同船の操業形態及び衝突のおそれの有無について判断できるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、金義丸が漁船であることを認めたものの、自船の進路上から離れているので、接近することはないものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、黒色鼓形形象物を掲げてトロールにより漁ろうに従事する金義丸が、反転するため大きく左回頭を始め、衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、同船の進路を避けないまま進行して衝突を招き、好栄丸は、右舷船首部に擦過傷及び推進器翼に欠損を生じ、金義丸は、右舷船尾ブルワーク及びデリックブームに損傷並びに推進器翼及び同軸に曲損を生じさせたほか、漁網1統を海没させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同受審人を戒告する。
 B受審人は、山口県秋穂港沖合の周防灘において、黒色鼓形形象物を掲げてトロールにより漁ろうに従事中、東行中の好栄丸を認めた場合、衝突のおそれの有無について判断できるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、好栄丸と接近することになれば、同船が漁ろうに従事中の自船の進路を避けてくれるものと思い、船尾甲板で右舷後方を向いたまま漁獲物の選別作業を行い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、好栄丸が自船の進路を避けないまま、衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、警告信号を行うことも、行きあしを止めるなどして衝突を避けるための協力動作をとることもせず、左回頭を続けて同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同受審人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:30KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION