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 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成13年門審第52号
件名

貨物船第二東洋丸油送船第三大洋丸衝突事件
二審請求者〔受審人C〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年6月13日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(上野延之、米原健一、島 友二郎)

理事官
畑中美秀

受審人
A 職名:第二東洋丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
C 職名:第三大洋丸二等航海士 海技免状:三級海技士(航海)
指定海難関係人
B 職名:第二東洋丸甲板長

損害
東洋丸・・・右舷中央後部外板に破口
大洋丸・・・船首部を圧壊

原因
東洋丸・・・動静監視不十分、警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守
大洋丸・・・法定灯火不表示、動静監視不十分、警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守

主文

 本件衝突は、第三大洋丸が、法定灯火を表示しなかったばかりか、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、第二東洋丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Cの三級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年3月30日20時05分
 大分県姫島北東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第二東洋丸 油送船第三大洋丸
総トン数 4,428トン 749トン
長さ 120.00メートル 76.67メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 7,060キロワット 1,471キロワット

3 事実の経過
 第二東洋丸(以下「東洋丸」という。)は、専ら広島港、青森県八戸港及び北海道苫小牧港各港間を自動車等の輸送に従事する自動車専用船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか9人が乗り組み、車台28本、コンテナ16本及び車両3台を積載し、船首4.25メートル船尾6.70メートルの喫水をもって、平成12年3月28日16時20分苫小牧港を発し、日本海及び関門海峡経由で広島港に向かった。
 A受審人は、船橋当直(以下「当直」という。)を0時から4時までを二等航海士、4時から8時までを一等航海士、8時から12時までを甲板長がそれぞれ立直する4時間交替の3直制として各直に甲板手1人を副直に付けることとし、入出港時、狭水道通過時、視界制限状態時、船舶の輻輳(ふくそう)時及びその他船舶に危険のおそれのあるときには、自ら指揮を執ることとしており、また、航海当直部員の認定を受けているB指定海難関係人ほか他の当直者に対し、常日頃から安全運航に心がけて操船するよう並びに漁船の輻輳時、視界制限状態時及び不安を感じたときには報告するよう指示していた。
 翌々30日19時43分B指定海難関係人は、姫島北方2.0海里の沖合で、入直のために昇橋し、同時55分前直者と交替して当直に就き、自らは船橋前面中央のコンパスレピーターの右側に位置して目視で見張りに当たり、副直者の甲板手を船橋中央の操舵輪後方に配置してレーダーと目視による見張りに当たらせ、同時56分姫島灯台から341度2.4海里の地点で、針路を090度に定め、機関を全速力前進にかけ、19.1ノットの対地速力(以下「速力」という。)で自動操舵により進行した。
 20時02分少し前B指定海難関係人は、姫島灯台から026度2.4海里の地点に達したとき、甲板手から6海里レンジとしたレーダー画面上で右舷船首4度1.5海里のところに第三大洋丸(以下「大洋丸」という。)の映像(以下「映像」という。)を認めた旨の報告を受け、その後同船が衝突のおそれのある態勢で接近したが、直ちにアルパを作動するとかレーダープロッティングを行うなどして大洋丸の動静監視を十分に行うことなく、このことに気付かず、同船を探しながら続航した。
 20時03分少し前B指定海難関係人は、姫島灯台から033度2.6海里に達し、映像が同方向1.0海里となったとき、目視により薄い白色の明かりを認め、アルパを作動させたが直ぐには結果が得られず、依然として衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かないで、警告信号を行わず、右転するなど衝突を避けるための措置をとらないまま進行した。
 20時04分半B指定海難関係人は、アルパにより大洋丸が自船に著しく接近する船と知り、左舵一杯として左回頭を始めたころ、大洋丸から探照灯の照射を受けたが、そのまま左回頭中、20時05分姫島灯台から043度3.0海里の地点において、東洋丸は、船首が030度に向き、速力が14.3ノットになったとき、その右舷中央後部外板に大洋丸の船首が後方から60度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の北西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、視界は良好であった。
 また、大洋丸は、専ら瀬戸内海諸港間を重油輸送に従事する船尾船橋型油タンカーで、C受審人ほか6人が乗り組み、C重油約2,001キロリットルを積載し、船首4.10メートル船尾5.10メートルの喫水をもって、同月30日13時45分愛媛県菊間港を発し、関門港に向かった。
 ところで、大洋丸の当直は0時から4時までを二等航海士、4時から8時までを一等航海士、8時から12時までを甲板長がそれぞれ立直する単独4時間交替の3直制となっており、船長は、入出港時、狭水道通過時、視界制限状態時、船舶の輻輳時及びその他船舶に危険のおそれのあるときには、指揮を執ることとなっていた。
 19時43分C受審人は、姫島東北東方7.0海里の沖合で、入直のために昇橋し、同時50分12海里レンジとしたレーダー画面上で左舷船首方7.0海里のところに東洋丸の映像を認めるとともにマスト灯2個を視認したが、同船が推薦航路の南側を航行していたので、左舷を対して替わると判断して動静監視を十分に行わなかった。
 19時55分C受審人は、姫島灯台から064度4.2海里の地点で、前直者と交替して当直に就いたところ、自船の法定灯火が表示されてなく他船から見て自船の存在及び如何なる運航状態かの識別ができない状況であったが、法定灯火が表示されているものと思い、同灯火の点灯を確認して同灯火を表示させることなく、このことに気付かないで、針路を282度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.7ノットの速力で自動操舵により進行した。
 20時02分少し前C受審人は、姫島灯台から050.5度3.3海里の地点に達したとき、東洋丸が左舷船首8度1.5海里のところに衝突のおそれのある態勢で接近していたが、依然として自船の法定灯火が表示されてないことに気付かないで続航した。
 20時04分少し過ぎC受審人は、周防灘航路第6号灯浮標(以下、灯浮標名については、「周防灘航路」を省略する。)の並航地点を海図に記入してふと顔を上げたところ、左舷船首至近に東洋丸のマスト灯2個及び緑灯を認め、衝突の危険を感じて探照灯で自船の船首部及び東洋丸を照射し、右舵50度をとったが及ばず、大洋丸は、船首が330度に向き、速力が8.0ノットになったとき、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、東洋丸は右舷中央後部外板に破口を生じ、大洋丸は船首部を圧壊したが、のちいずれも修理された。

(主張に対する判断)
 東洋丸側は、大洋丸が法定灯火を表示してない旨、大洋丸側は、C受審人が19時50分東洋丸を初認してその後衝突直前まで接近に気付かなかったのは東洋丸の法定灯火が消えていて直前になって点灯した旨それぞれ主張するので、これらの点について検討する。
1 東洋丸の法定灯火の表示について
 A受審人に対する質問調書中、「日没時ごろマスト灯2個、舷灯一対及び船尾灯を点灯した。」旨の供述記載、B指定海難関係人に対する質問調書中、「19時50分ごろマスト灯2個、舷灯一対及び船尾灯の点灯を確認した。航海灯警報装置を装備している。」旨の供述記載があり、
 また、C受審人に対する質問調書中、「19時50分東洋丸をレーダーで探知した後、マスト灯2個を視認し、衝突直前マスト灯2個及び緑灯を認めた。」旨の供述記載により、19時50分から衝突直前までの間、東洋丸の法定灯火が切れた場合、警報装置が作動して気付いているはずで、そのようなことは、東洋丸側の質問調書の供述記載にはなく、東洋丸の法定灯火が一時消灯したことは認めがたく、同船の法定灯火は表示されていたとするのが妥当である。
2 大洋丸の法定灯火の表示について
 B指定海難関係人及びI甲板手に対する各質問調書中、「レーダー画面上で1.5海里のところに大洋丸を認めたとき、同船を視認できなかった。1.0海里に接近したころに双眼鏡で目視したところ、同船の明かりを認めたが、マスト灯及び舷灯は視認できなかった。」及びA受審人に対する質問調書中、「本件発生直後に昇橋したが、大洋丸の航海灯が点灯していなかった。また、一等航海士及び二等航海士も昇橋していたが、彼らも見えなかったと言っている。」旨の供述記載及び実況見分調書写中、「大洋丸から1.0海里離れたところで同船の薄い白色の明かりが双眼鏡により、0.5海里に接近したところで目視によりそれぞれ確認でき、同明かりは、大洋丸の操舵室の航海計器等の明かりであることが確認できた。」旨の記載があり、一方、大洋丸側は、捜査報告書写中、「実況見分で大洋丸の航海灯は元電源スイッチを入れることにより正常に点灯した。また、前日朝O船長が菊間港で停泊灯を消灯したとき、航海灯スイッチのオフを確認した。」旨の記載があり、また、C受審人に対する質問調書中、「入直してから航海灯の点灯を確認していないが、前部マスト灯の明かりをぼやっと視認した。また、本件発生後、運転不自由船として2連の紅灯を点灯したとき、一等航海士からまだ行きあしがあるから航海灯を切るなと言われ、航海灯の点灯を確認しないまま、2連の紅灯を点灯した。」旨の供述記載があるが、霧等の気象状況でなく、晴天で反射するものがない気象状況と一般配置図が示す前部マスト灯の取付け状況では、前部マスト灯の光芒を船橋から視認したとは信じがたい。さらに、捜査報告書写中、「一等航海士による日没時に航海灯を点灯するスイッチを入れたものと思うが、はっきりした記憶がなく、本件発生後も航海灯を点灯していたとの確認はしていない。」旨の記載、及びC受審人の当廷における、「航海灯は点灯していた。」旨の供述があるが、同人に対する質問調書中、「入直のために昇橋してから衝突までマスト灯、舷灯及び船尾灯の点灯を確認していない。」旨の供述記載があり、同人の供述を積極的に裏付ける証拠はない。
 これらのことから衝突時に大洋丸の法定灯火が表示されていなかったと認めるのが相当である。

(航法の適用)
 本件衝突は、夜間、周防灘において、東行する東洋丸と西行する大洋丸が、横切り関係で接近して衝突したものであるが、夜間における航法が、存在の認識、如何なる運航状態の船舶かの識別及び衝突のおそれの有無の判断を船舶の表示する法定灯火によりなされており、大洋丸が法定灯火を表示していなかったことから海上衝突予防法第15条横切り船の航法を適用することは相当でなく、同法第39条船員の常務によって律すべきである。

(原因)
 本件衝突は、夜間、周防灘において、西行する大洋丸が、法定灯火を表示しなかったばかりか、動静監視不十分で、接近する東洋丸に対して警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、東洋丸が、動静監視不十分で、大洋丸に対して警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人等の所為)
 C受審人が、夜間、周防灘において、当直を交替する場合、自船の航行中の態勢を他船から判断できるよう、法定灯火の点灯を確認して同灯火を表示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、同灯火が表示されているものと思い、法定灯火を表示しなかった職務上の過失により、同灯火を表示しないまま航行して東洋丸との衝突を招き、東洋丸の右舷中央後部外板に破口を、大洋丸に船首部の圧壊をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の三級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 B指定海難関係人が、夜間、周防灘において、当直中、レーダーで前方に大洋丸の映像を認めたとの報告を部下から受けた際、直ちにアルパを作動させるとかレーダープロッティングを行うとかして同船の動静監視を十分に行わなかったことは本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、大洋丸が法定灯火を表示していなかったことに徴して勧告しないが、今後レーダーで前方に他船を認めた際、直ちにアルパを作動させるとかレーダープロッティングを行うとかして同船の動静監視を十分に行って安全運航に努めるべきである。
 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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