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 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成13年門審第90号
件名

交通船つかさプレジャーボート海進丸衝突事件
二審請求者〔受審人B〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年6月11日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(米原健一、上野延之、河本和夫)

理事官
畑中美秀

受審人
A 職名:つかさ船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:海進丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
つかさ・・・船首部船底外板及び左舷船尾船底外板に擦過傷
海進丸・・・右舷船尾端、右舷ブルワーク等破損、船長が右血胸、右後腹膜下出血等

原因
つかさ・・・原因とならない
海進丸・・・法定灯火不表示、見張り不十分、注意喚起信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守

主文

 本件衝突は、海進丸が、法定灯火を表示しなかったばかりか、見張り不十分で、後方から接近するつかさに対して注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したものである。
 受審人Bの四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年8月15日20時30分
 大分県保戸島漁港西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 交通船つかさ プレジャーボート海進丸
総トン数 4.9トン  
全長 13.60メートル 5.65メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 279キロワット 18キロワット

3 事実の経過
 つかさは、船体中央から船尾寄りに操舵室と客室とを有する甲板室を設け、専ら大分県保戸島と同県津久見港間で旅客や荷物の輸送に従事する不定期のFRP製交通船で、A受審人が1人で乗り組み、旅客を乗せる目的で、船首0.20メートル船尾0.30メートルの喫水をもって、平成12年8月15日19時40分保戸島漁港を発し、津久見港に向かい、同港内で旅客1人を乗せ、20時10分同港を発進し、航行中の動力船の灯火を表示して保戸島漁港に向け帰途に就いた。
 発進後、A受審人は、海面状態が平穏で、視界良好の状況下、床面からの高さ0.3メートルの台に立って専ら目視による見張りに当たるとともに、舵輪左舷側に設置したレーダーを周囲の状況に合わせ、0.25海里、0.5海里、0.75海里及び1.5海里の各レンジに適宜切り替えて使用しながら津久見湾を東行し、20時22分半少し過ぎ津久見白石灯標から137度(真方位、以下同じ。)1,120メートルの地点で、針路を保戸島漁港に向く092度に定め、機関を回転数毎分2,000にかけて20.0ノットの対地速力で、手動操舵により進行した。
 A受審人は、20時28分半ごろ保戸島漁港まで1,400メートルばかりに接近してレーダーレンジを1.5海里から0.75海里に切り替え、周囲の状況を確認したのち、同港内の明かりや保戸島港防波堤灯台の灯光を前方に見ながら続航した。
 20時29分A受審人は、保戸島港防波堤灯台から275度1,200メートルの地点に達したとき、右舷船首1度445メートルのところを海進丸が保戸島漁港に向けて東行していたものの、同船が両色灯だけを表示し、他の明かりを何ら点けていなかったうえ、レーダーにも映っていなかったので、同船の存在を認めることができないまま、その後同船に衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かないで進行中、20時30分保戸島港防波堤灯台から280度580メートルの地点において、つかさは、原針路、原速力のまま、その船首が、海進丸の右舷船尾に後方から3度の角度で衝突し、同船の右舷側を乗り切った。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、視界は良好で、潮候は満潮時にあたり、月齢は14.9であった。
 また、海進丸は、船外機を取り付けた無蓋のFPR製プレジャーボートで、船首から0.9メートル船尾寄りの、右舷端から0.37メートル左舷寄りに設けたマストの、舷端からの高さ1.0メートルの頂部に白色全周灯が、同高さ0.3メートルの位置に両色灯がそれぞれ設置され、船尾部物入れ内部の各スイッチで操作するようになっていたところ、両スイッチの接触が悪くなっていずれも表示することができなくなったものの、両色灯のスイッチだけ修理が行われていた。
 B受審人は、同日臼杵市内の仕事場から保戸島への帰途、津久見港発の定期船最終便に乗り遅れ、夜間、白色全周灯を表示せずに航行すると、他船が後方から接近した際に海進丸を視認することができない状況となり、衝突のおそれのある状態となることがあるが、両色灯を表示すれば大丈夫と思い、白色全周灯スイッチを修理して同灯を点灯することなく、このことに気付かず、10日ばかり前から津久見港に係留していた海進丸を使用することとした。
 こうして海進丸は、B受審人が1人で乗り組み、保戸島へ帰る目的で、船首0.10メートル船尾0.20メートルの喫水をもって、19時40分津久見港を発し、両色灯のみを掲げて保戸島漁港に向かった。
 20時00分B受審人は、津久見白石灯標から163度1,100メートルの地点で、針路を089度に定め、船外機を全速力前進にかけたものの同機の調子が悪くなって回転数が上がらず、5.5ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
 定針したあとB受審人は、船尾部物入れ蓋の右舷側に腰を掛け、左手で船外機のハンドルを握って前方を向いた姿勢で操船に当たり、20時29分保戸島港防波堤灯台から276度750メートルの地点に達したとき、左舷船尾4度445メートルのところにつかさの白、紅、緑3灯を視認でき、その後同船の方位が変わらず、衝突のおそれがある態勢で接近することを認め得る状況であったが、前方を向いた姿勢のまま、後方の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かないで続航した。
 B受審人は、後方から接近するつかさに対し、船内に備えていた懐中電灯を同船に向けて照射するなどして注意喚起信号を行わず、更に接近しても大きく左転するなど、衝突を避けるための措置をとることもなく進行中、20時30分わずか前ふと後方を振り返ったところ、至近につかさの白、紅、緑3灯を初めて視認し、急いで右舵一杯をとったが、及ばず、海進丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、つかさは、船首部船底外板及び左舷船尾船底外板に擦過傷を生じ、海進丸は、右舷船尾端、右舷ブルワーク及び船外機カバーに破損を、マストに曲損をそれぞれ生じたが、のち海進丸は修理された。
 また、衝突の衝撃で、B受審人が約8週間の入院加療を要する右血胸、右後腹膜下出血、左大腿骨近位骨幹部骨折、右第1から第4腰椎横突起骨折及び背部打撲擦過傷を負った。

(主張に対する判断)
 海進丸側は、夜間、両色灯を掲げた海進丸を後方から見ると、その両色灯を視認できたこと、したがって、つかさが後方から接近した際、海進丸の両色灯を視認できたはずであるから追越し船の航法を適用すべきであることの2点を主張するので、以下この2点について検討する。
 船舶が表示しなければならない灯火の目的は、当該船舶の存在及び種類や状態あるいは大きさ等を示すことにあり、操船者は、灯火から得た情報を基に、自他両船間の見合い関係を確認して適用される航法を知り、それによって衝突を防止するための措置をとることができる。
 海進丸の両色灯が海上衝突予防法及び船舶設備規程に定められた構造であったことは、同船の船舶検査手帳記載の検査等の記録及びB受審人の当廷における供述により明らかであることから、同船の後方から接近するつかさが同灯火を視認できたとの海進丸側の主張は認められない。海進丸が白色全周灯を表示することができず、両色灯以外の明かりも何ら点けていなかったことも、同受審人に対する質問調書の供述記載及び当廷における供述から明らかである。
 本件の2箇月後、マストなど損傷個所の修理を終えた海進丸を用いて行われた海上保安庁の実況見分において、両色灯により微弱に照らされた同船の船首部が約80メートル後方の地点からかろうじて見えたと、同実況見分調書写に記載されているが、操船者は、そのような微弱な反射光までも早期に発見する特殊な見張りを要求されるものではなく、また、A受審人は、衝突前、灯質が周期6秒等明暗緑光で光達距離6海里の保戸島港防波堤灯台の灯光を正船首方に見て航行しているので、その手前に存在した微弱な反射光が見えるとは考えられない。仮に、両色灯に照らされた船首部が見えるとしても、その状況から、海進丸の状態及び大きさ等も、両船間の見合い関係のいずれも確認できないのであるから、海上衝突予防法第13条に規定する追越し船の航法を適用する余地はなく、この点についても、海進丸側の主張は認められない。

(原因に対する考察)
 本件は、夜間、海面状態が平穏で、視界良好の状況下、保戸島漁港西方沖合580メートルの地点において、津久見港から保戸島漁港に向けて航行中のつかさが、両色灯のみを掲げて保戸島漁港に向け航行中の海進丸に、後方から衝突した事件である。
1 見張りについて
 海上衝突予防法第5条に定める常時適切な見張りとは、水域の広狭、船舶の輻輳(ふくそう)状況、視界の状態、自船の設備等さまざまな要素を勘案して総合的に決定されるべきものである。
 B受審人が後方の見張りを行っていなかったことは、同受審人の質問調書の供述記載及び当廷における供述で明らかであり、このことが本件発生の原因をなしたことは疑念の余地がない。
 A受審人の見張りの状況について検討する。
 (1) 天候は晴で風がほとんどなく、海面状態は平穏で、視界が良好な状況であっ たが、当時大分県北部に雷注意報が、中部及び南部に大雨、雷、洪水の各注意 報がそれぞれ発表されていた。
 (2) 両船が航行していた保戸島西方沖合は、保戸島漁港に近接しているが開けた 海域であったうえ、お盆休みに当たって両船以外の船舶はほとんど存在してい なかった。
 (3) つかさの操舵室前面は、旋回窓などの装置がないガラス窓で、A受審人が高 さ0.3メートルの箱の上に立つと同窓の上部から前方を見る状況となることか ら、前方の見通しは良好である。また、同受審人は、つかさに自動操舵装置が 設備されていなかったので常時手動操舵によって操船に当たっていた。
 (4) つかさは、速力が19ノットを超えると船首が浮上し、操舵室に立つと船首 端により水平線の一部が遮られるが、平素、特に船首を左右に振るまでもなく、 船首部の上下動や左右の振れによって死角を補うことができ、本件当時も、船 首部が上下に動揺したり左右に振れていたので、死角を補う見張りができてい た旨のA受審人の質問調書の供述記載及び当廷における供述から、目視による 前方の見張りが十分に行われていたものと認め得る。
 (5) A受審人は、保戸島漁港に接近し、同港の明かりや保戸島港防波堤灯台の灯 光を船首目標として航行中で、レーダーを近距離レンジに切り替え、間もなく 減速を行う地点に達するなど、入港態勢に入っていた。
 このような状況下、A受審人は、目視に加え、適宜、レンジを切り替えてレーダーを使用し、見張りを行っていた。同受審人がレーダーレンジを切り替えて同画面を確認したとき、海進丸を捉えていないが、レンジ切替え直後や小型のプレジャーボートに後方から接近する場合には、レーダーの性能上、その映像が画面上に現れないことがあり、また、つかさのレーダースキャナーの前方には、上部に停泊灯やマスト灯などを取り付けた三脚のマストが設置され、同マストの脚部により前方の船舶が映らないことも考えられる。つかさが保戸島漁港に接近しており、A受審人が法定灯火を掲げない船舶の存在を前提としてレーダーの調整を行ったり、レーダー画面上を注視して目視による見張りを疎かにすることは、反って見張り不十分となるおそれがある。
 また、月明かりがあったものの、津久見湾南側に連なる山の影や雲の影などの影響がないとは言えず、A受審人が、必ずしも海進丸を視認できたとは断定できないし、同受審人が津久見港へ向かう途中、保戸島に向かって航行する海進丸を認めていないことを理由として、白色全周灯を表示しない海進丸に後方から衝突したときも、同受審人が見張りを十分に行っていなかったと断定もできない。
 以上を勘案すると、当時、A受審人が行っていた見張りを不十分とは言えない。
2 つかさの速力について
 津久見港及び保戸島間に就航する定期や不定期の交通船が昼夜、20ノットを超える速力で運航されていたことは、A受審人の当廷における供述及び有限会社やま丸の津久見及び保戸島航路定期船発着時刻表写から明らかであるとともに、B受審人もつかさを利用していたので知っていた。また、当時、津久見港と保戸島間の海上には船舶がほとんど見当たらなかったことも、A及びB両受審人の各質問調書の供述記載及び当廷における各供述で明らかであるので、つかさが航走していた約20ノットの速力を過大であったとは言えない。

(原因)
 本件衝突は、夜間、大分県津久見湾において、海進丸が、同県津久見港から同県保戸島漁港に向かう際、白色全周灯を表示しなかったばかりか、見張り不十分で、後方から接近するつかさに対して注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、夜間、大分県津久見湾において、同県津久見港から同県保戸島漁港に向かう場合、後方から接近する他船に自船の存在や運航状態を認識させることができるよう、白色全周灯を表示すべき注意義務があった。ところが、同受審人は、両色灯を表示すれば大丈夫と思い、白色全周灯を表示しなかった職務上の過失により、後方から接近したつかさに自船の存在を認識させることができずに衝突を招き、つかさの船首部船底外板及び左舷船尾船底外板に擦過傷を、海進丸の右舷船尾端、右舷ブルワーク及び船外機カバーに破損並びにマストに曲損をそれぞれ生じさせ、自らも右血胸、右後腹膜下出血、左大腿骨近位骨幹部骨折、右第1から第4腰椎横突起骨折及び背部打撲擦過傷を負うに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同受審人の四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図1
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参考図2
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