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平成14年広審第28号
件名

漁船第2神宝丸交通船蛭子丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年6月20日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(西田克史、西林 眞、佐野映一)

理事官
黒田敏幸

受審人
A 職名:第2神宝丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:蛭子丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
神宝丸・・・船首部外板に破口及び船首構造物に損壊、船長と甲板員が胸部打撲等
蛭子丸・・・右舷中央部外板及に破口及び操舵室右舷側に損壊、船長と同乗者2人が右肋骨骨折等

原因
蛭子丸・・・動静監視不十分、船員の常務(新たな危険)不遵守(主因)
神宝丸・・・警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、蛭子丸が、動静監視不十分で、前路を無難に航過する態勢の第2神宝丸に対し、左転して新たな衝突のおそれを生じさせたまま進行したことによって発生したが、第2神宝丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年9月5日23時40分
 岡山県鹿久居島西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第2神宝丸 交通船蛭子丸
総トン数 15.15トン 7.9トン
全長   17.12メートル
登録長 12.55メートル  
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力   426キロワット
漁船法馬力数 120  

3 事実の経過
 第2神宝丸(以下「神宝丸」という。)は、FRP製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、まながつお流網漁の目的で、船首0.6メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成13年9月5日15時40分岡山県日生港を発し、16時45分同港南東方沖合の播磨灘北西部の漁場に至り、漁獲物約25キログラムを獲て操業を終え、22時15分漁場を発進し、帰途に就いた。
 A受審人は、航行中の動力船の灯火を表示のうえ操舵室に立って見張りと操舵にあたり、大多府島と長島との間及び頭島と鴻島との間の各水路を経て北上を続け、鹿久居島と曽島との間の水路に入り、23時38分少し過ぎ日生港日生防波堤西灯台(以下「日生港灯台」という。)から171度(真方位、以下同じ。)1,820メートルの地点で、針路を日生港灯台に向け351度に定め、機関を半速力前進にかけ、16.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
 ところで、鹿久居島西方海域は、同島、曽島及び本州陸岸とによって形成された水路が三方に分かれる分岐点にあたり、4月から9月にかけ、鹿久居島西岸沖には北東方から南北方向にかき筏が設置され、その西縁を示すように8個の黄色点滅式の簡易標識灯がほぼ等間隔に取り付けられていた。
 23時39分A受審人は、日生港灯台から171度1,450メートルの、かき筏南西端沖約80メートルの地点に達したとき、右舷船首6度970メートルのところに蛭子丸の紅1灯を視認し、その方位が左方に変わり、自船の前路を無難に航過する態勢であることを認め、同じ針路、速力で同筏に沿って続航した。
 23時39分半A受審人は、日生港灯台から171度1,200メートルの地点に至ったとき、右舷2度490メートルのところに、蛭子丸の白、緑、紅3灯を視認し、同船が左転して新たな衝突のおそれがある態勢で接近するのを認めたが、自船が右舷方のかき筏に近寄って航行しているので、いずれ蛭子丸が水域の広い西方に右転して替わしてくれるものと思い、警告信号を行わず、更に遅滞なく減速して右転するなど、衝突を避けるための措置をとらないまま進行した。
 23時40分わずか前A受審人は、蛭子丸に避ける様子が見られなかったので危険を感じ、急いで右舵をとったが及ばず、23時40分日生港灯台から171度950メートルの地点において、神宝丸は、その船首が001度に向いたとき、原速力のまま、蛭子丸の右舷中央部に前方から25度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力3の南東風が吹き、視界は良好で、潮候はほぼ高潮時であった。
 また、蛭子丸は、FRP製小型遊漁兼用船で、B受審人が1人で乗り組み、同人の叔父と知人の2人を同乗させ、取引業者の見送りを終え帰港の目的で、船首0.2メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、同日23時30分日生港を発し、頭島の係留地に向け帰途に就いた。
 B受審人は、航行中の動力船の灯火を表示のうえ操舵室に立って見張りと操舵にあたり、日生港の港界を越えて南西進し、23時38分半わずか前日生港灯台から124度310メートルの地点で、針路を片上港第4号灯浮標に向けて197度に定め、機関を半速力前進にかけ、16.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
 23時39分B受審人は、日生港灯台から159度480メートルの地点に達したとき、左舷船首20度970メートルのところに、神宝丸の緑1灯を視認して北上中であることを知ったが、一見しただけで、同船の前路を通過するのは難しいので、左転して替わせばよいものと思い、神宝丸の前路を安全に航過することが可能かどうかを判断できるよう、動静監視を十分に行わなかった。
 こうして、B受審人は、23時39分半わずか前前路を無難に航過する態勢にあった神宝丸を右舷側に替わすことにし、左舵をとると同時に、かき筏に近寄り過ぎないようにするつもりで簡易標識灯への接近模様に留意し、同時39分半日生港灯台から170度700メートルの地点に至って針路を175度に転じたとき、左舷船首2度490メートルのところに、神宝丸の白、緑、紅3灯を視認することができ、同船に対し新たな衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、依然、動静監視不十分で、このことに気付かず、左舷方のかき筏に注意を払いながら同態勢のまま続航した。
 23時40分わずか前B受審人は、左舷方の近づき過ぎたかき筏との航過距離を広げるつもりで少し右舵をとったとき、船首至近に神宝丸を認め、とっさに左舵に切り返したが及ばず、蛭子丸は、その船首が156度を向いたとき、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、神宝丸は、船首部外板に破口及び船首構造物に損壊を生じ、蛭子丸は、右舷中央部外板及に破口及び操舵室右舷側に損壊を生じたが、のちいずれも修理された。また、A受審人が胸部打撲及び神宝丸甲板員Oが右肋軟骨損傷、並びにB受審人が右肋骨骨折、蛭子丸同乗者Yが右肋骨骨折及び同Tが右肩甲骨骨折などを負った。

(航法の適用)
 本件は、夜間、水路が三方に分かれている岡山県鹿久居島西方海域において、北上中の神宝丸と南下中の蛭子丸とが衝突したものであり、以下適用する航法について検討する。
1 衝突地点は、日生港港外の海上交通安全法の適用海域であるものの、同法に適用 される航法規定がないので、海上衝突予防法(以下「予防法」という。)で律する こととなる。
2 両船の運航模様から、両舷灯をそれぞれ見せて接近したもので、互いに行き会う 態勢にあった。しかしながら、衝突のおそれがある態勢となったのは、蛭子丸が左 転した衝突の30秒前で、両船間の距離が490メートルのときであることから、そ の時点ではすでに時間的、距離的にも予防法第14条の行き会い船の航法規定を適 用する余地はない。
3 蛭子丸は、神宝丸を初認後、直進するより左転して替わした方がよいと判断した が、仮に蛭子丸が針路を転じていなければ、転針する時点には、すでに神宝丸の正 船首方に達していたもので、そのまま安全にその前路を航過することができたので あり、神宝丸に対する動静監視を十分に行ってさえいれば、転針そのものの必然性 は全くなかった。
 したがって、本件は、蛭子丸の左転によって近距離で短時間のうちに衝突のおそれが生じた特殊な状況として、船員の常務によって律するのが相当である。

(原因)
 本件衝突は、夜間、水路が三方に分かれている岡山県鹿久居島西方沖合において、南下する蛭子丸が、動静監視不十分で、前路を無難に航過する態勢の北上する神宝丸に対し、左転して新たな衝突のおそれを生じさせたまま進行したことによって発生したが、神宝丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、夜間、水路が三方に分かれている岡山県鹿久居島西方沖合を南下中、左舷前方に北上中の神宝丸を認めた場合、同船の前路を安全に航過することが可能かどうかを判断できるよう、動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、一見しただけで、神宝丸の前路を通過するのは難しいので、左転して替わせばよいものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、前路を無難に航過する態勢の同船に対し、左転して新たな衝突のおそれを生じさせたことに気付かないまま進行して神宝丸との衝突を招き、同船の船首部外板に破口及び船首構造物に損壊、並びに蛭子丸の右舷中央部外板に破口及び操舵室右舷側に損壊をそれぞれ生じさせ、A受審人に胸部打撲及び神宝丸甲板員に右肋軟骨損傷を、並びに蛭子丸同乗者2人に右肩甲骨骨折などをそれぞれ負わせるとともに、自らが右肋骨骨折を負うに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 A受審人は、夜間、水路が三方に分かれている岡山県鹿久居島西方沖合を北上中、自船の前路を無難に航過する態勢で南下する蛭子丸が、左転して新たな衝突のおそれがある態勢で接近するのを認めた場合、遅滞なく減速して右転するなど、衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、自船が右舷方のかき筏に近寄って航行しているので、いずれ蛭子丸が水域の広い西方に右転して替わしてくれるものと思い、衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、同船との衝突を招き、前示の損傷及び負傷の事態を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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