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平成13年広審第67号
件名

油送船第二星宝丸貨物船ニュー プロスペリティ衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年6月20日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(竹内伸二、勝又三郎、西田克史)

理事官
岩渕三穂

受審人
A 職名:第二星宝丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
指定海難関係人
B 職名:ニュープロスペリティ船長

損害
星宝丸・・・右舷中央部の外板及び上甲板に亀裂と凹損、操舵室右舷側が圧壊、 船長が頭部打撲、顔面挫創及び右肋骨骨折、
ニ 号・・・船首部外板及び船首楼甲板に曲損と破口

原因
星宝丸・・・海交法の航法(衝突回避措置)不遵守
ニ 号・・・海交法の航法(衝突回避措置)不遵守

主文

 本件衝突は、関門航路から航路外に出ようとする第二星宝丸が、衝突を避けるための措置をとらなかったことと、航路外から同航路に入航しようとするニュー プロスペリティが、衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年8月26日02時02分
 関門港六連島沖合

2 船舶の要目
船種船名 油送船第二星宝丸 貨物船ニュープロスペリティ
総トン数 1,591トン 3,683トン
全長 84.91メートル 97.02メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 2,059キロワット 3,236キロワット

3 事実の経過
 第二星宝丸(以下「星宝丸」という。)は、可変ピッチプロペラを装備した船尾船橋型の油送船で、山口県岩国港、岡山県水島港及び大分県大分港から主に中国地方や九州の西日本各地にガソリン等の燃料油を輸送していたところ、A受審人ほか9人が乗り組み、ガソリン3,100キロリットルを積載し、船首4.5メートル船尾6.0メートルの喫水をもって、平成11年8月25日11時15分水島港を発し、福岡県博多港に向かった。
 A受審人は、船橋当直を甲板部職員と甲板部員との2人当直で4時間交替制とし、23時45分関門海峡東口の本山灯標沖で自ら船橋当直に就き、法定灯火のほか、海上交通安全法に定められた危険物積載船が掲げる紅色全周灯を表示し、翌26日00時50分部埼沖で甲板長を手動操舵に就け、やがて関門航路に入って同航路を西行した。
 01時45分A受審人は、台場鼻灯台を右舷側に航過したあと、徐々に右転して関門航路西側境界線付近を航行するようになったものの、レーダーで六連島までの距離を確認せず、このことに気づかないまま関門航路第1号灯浮標(以下「第1号灯浮標」という。)を正船首少し右に見ながら北上し、01時56分半六連島灯台から078度(真方位、以下同じ。)950メートルの地点で、針路を000度に定め、機関を回転数毎分210及びプロペラピッチを15度の全速力前進にかけ、11.4ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、同境界線からわずか外側を進行した。
 01時57分A受審人は、左舷船首26度1.8海里にニュー プロスペリティ(以下「ニ号」という。)の白、白、緑3灯のほか、同船の左舷後方に第3船の航海灯を初認し、いずれも関門航路への入航船で、これらの船舶と航路出口付近で航過するものと考え、操舵室前部中央にあるレピーターコンパスの右舷側に立って引き続きその動静を監視しながら続航した。
 01時58分A受審人は、六連島灯台から054度1,100メートルの地点で再び関門航路に入ったとき、航路北口に向け東行中のニ号を同方位1.4海里に認めるようになり、航路を出たところで同船と著しく接近するものと予測し、その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近したが、同船が間もなく航路入口の西端に向けて右転すると思い、速やかに減速し、必要に応じてプロペラピッチを後進とするなど衝突を避けるための措置をとることなく、航路の左側を進行した。
 02時00分A受審人は、六連島灯台から032度1,800メートルの地点で関門航路から出たとき、右転の気配を見せないまま1,300メートルに接近したニ号に対し、右転を促すつもりで、探照灯を同船の少し前方に向けて点滅を繰り返しながら同じ針路、速力のまま続航した。
 02時01分少し過ぎA受審人は、ニ号が約500メートルに接近したとき、衝突の危険を感じ、右舵をとれば同船が自船の左舷側に衝突し、積荷のガソリンが流出するおそれがあるので左回頭して右舷対右舷で替わすこととし、同船を注視しながら左舵一杯を令し、船首が左方に振れ始めたとき、同船のマスト灯の開きが狭まるのを認めて同船が右転したことを知ったものの、このまま左回頭して何とか同船が替わることを期待し、左舵一杯のまま回頭中、02時02分星宝丸は、六連島灯台から022度1.2海里の地点において、300度を向首したとき、星宝丸の右舷前部にニ号の右舷船首が、前方から60度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風力2の東風が吹き、潮候はほぼ低潮時にあたり、付近には微弱な南東流があった。
 また、ニ号は、船尾船橋型の冷凍貨物運搬船で、太平洋などで操業中の遠洋まぐろ漁船から積み込んだ冷凍まぐろを日本や韓国などに運搬する航海に従事していたところ、B指定海難関係人ほか19人が乗り組み、空倉のまま、船首2.34メートル船尾5.12メートルの喫水をもって、同月25日17時00分大韓民国釜山港を発し、遠洋まぐろ漁船の補給物資を積み込む目的で、静岡県清水港に向かった。
 B指定海難関係人は、20時から翌26日00時まで船橋当直に就いたあと自室で休息し、01時15分蓋井島西方2.7海里のところで昇橋し、同時40分六連島北西方5海里の地点で、船橋当直中の二等航海士から操船を引継ぎ、その後当直操舵手に手動操舵を命じ、同航海士にレーダー監視と船位の確認を行わせて六連島北方を東行した。
 B指定海難関係人は、操舵室前面のほぼ中央に立ち、操舵スタンド右舷側に設置された2基のレーダーのうち、自動衝突予防援助装置が組み込まれた左側の1号レーダーを3海里レンジとしてときどき監視し、専ら2号レーダーを使用していた二等航海士が、1.5ないし3海里レンジに切り替えながら5ないし10分間隔で、同レーダーに映った顕著な陸岸の方位と距離とによって測定した船位を使用海図第135号(関門海峡)に記入したので、同海図を見て船位を確認しながら操船にあたった。
 01時50分B指定海難関係人は、六連島灯台から334度2.9海里の地点で、針路を130度に定め、機関を回転数毎分135の港内全速力前進にかけ、11.5ノットの速力で、第1号灯浮標を正船首少し右に見て進行し、そのころほぼ左舷正横500メートルのところに自船よりわずかに速力が遅い第3船を認め、その後次第に同船との距離が開いた。
 01時55分B指定海難関係人は、六連島灯台から344度2.1海里の地点に達したとき、右舷船首方2.3海里の六連島東岸沖合に星宝丸の白、白、紅3灯を初認し、自動衝突予防援助装置を活用しないまま、しばらく肉眼でその動静を監視し、同船が関門航路を北上中の船舶と判断し、自船が航路に入る手前で右転するので同船と左舷対左舷で航過できるものと考えた。
 01時58分B指定海難関係人は、六連島灯台から356度1.6海里の地点で、星宝丸を右舷船首24度1.4海里に認めるようになり、その後関門航路を航行中の同船と衝突のおそれがある態勢で接近したが、同船は航路を出たあとも同じ針路のまま北上し、間もなく自船が右転するので同船と左舷を対して航過できると思い、速やかに減速し、必要に応じて行きあしを止めるなど衝突を避けるための措置をとることなく続航した。
 02時00分B指定海難関係人は、六連島灯台から007度1.4海里の地点で、関門航路入口まで1,250メートルのところに達したとき、右舷船首1,300メートルに接近した星宝丸が白灯を点滅していることを知ったが、これに留意しないまま海図台に赴き、二等航海士が海図に記入した同時刻の船位を見てほぼ次の針路線上に達したことを知り、同時01分少し過ぎ右舵10度を令したものの、紅灯を見せた相手船が約500メートルに近づいていたので急いで回頭させようと考え、右舵一杯を令した。そして再び海図を見て次の針路を再確認し、前方を見たところ、ほぼ正船首方向至近に星宝丸のマスト灯と両舷灯を認めて同船が左転したことを知り、一旦舵中央を令したもののこのまま右転を続けることとし、再び右舵一杯を令して回頭中、ニ号は、180度に向首したとき、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、星宝丸は、右舷中央部の外板及び上甲板に亀裂と凹損を生じるとともに操舵室右舷側が圧壊し、貨物倉から積荷のガソリンの一部が海上に流出し、ニ号は、船首部外板及び船首楼甲板に曲損と破口を生じて船首水倉から清水が流出したが、のちいずれも修理された。また、A受審人が、頭部打撲、顔面挫創及び右肋骨骨折を負い、20日間の加療を要した。

(原因)
 本件衝突は、夜間、関門港六連島沖合の関門航路北口付近において、同航路から航路外に出ようとする星宝丸と航路外から同航路に入航しようとするニ号の両船が、衝突のおそれがある態勢で接近した際、星宝丸が衝突を避けるための措置をとらなかったことと、ニ号が衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。


(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、関門港六連島沖合の関門航路北口付近において、同航路を北上中、航路外から同航路に入航しようとするニ号と衝突のおそれがある態勢で接近した場合、速やかに減速し必要に応じてプロペラピッチを後進とするなど衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかし、同人は、同船が間もなく航路入口の西端に向けて右転するものと思い、速やかに減速し、必要に応じてプロペラピッチを後進とするなど衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、間近に接近してから左転して同船との衝突を招き、星宝丸の右舷中央部外板及び上甲板に亀裂と凹損を生じさせて操舵室右舷側を圧壊させるとともに貨物倉から積荷のガソリンの一部を海上に流出させたほか、ニ号の船首部外板及び船首楼甲板に曲損と破口を生じさせて船首水倉から清水を流出させ、また、自身が頭部打撲、顔面挫創及び右肋骨骨折を負って20日間の加療を要するに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、夜間、六連島北方沖合を関門航路北口に向け東行中、同航路から航路外に出ようとする星宝丸と衝突のおそれがある態勢で接近した際、速やかに減速し、必要に応じて行きあしを止めるなど衝突を避けるための措置をとらなかったことは本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、深く反省して安全運航に努めている点に徴し、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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