日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成14年神審第15号
件名

漁船昭新丸プレジャーボート新谷衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年6月25日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(小金沢重充、大本直宏、前久保勝己)

理事官
野村昌志

受審人
A 職名:昭新丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:新谷船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
昭新丸・・・船首部外板に擦過傷
新 谷・・・右舷外板に亀裂を伴う損傷、船長が左手根骨骨折

原因
昭新丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
新 谷・・・動静監視不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、昭新丸が、見張り不十分で、漂泊中の新谷を避けなかったことによって発生したが、新谷が、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年7月18日10時50分
 福井県鋸埼北西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船昭新丸 プレジャーボート新谷
総トン数 4.9トン  
全長 13.10メートル 12.83メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 253キロワット 235キロワット

3 事実の経過
 昭新丸は、主に底はえ縄漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が単独で乗り組み、たい底はえ縄漁の目的で、船首0.4メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成13年7月18日04時40分福井県大飯郡高浜漁港を発し、05時30分同県鋸埼北西方沖合の漁場に至って操業を開始した。
 ところで、昭新丸の操業は、漁具として、直径2ミリメートル長さ500メートルのナイロンテグスを8本連結した全長4,000メートルの幹縄に、7ないし8メートル毎に釣り針を付けた長さ約1.5メートルの枝縄を、500メートル毎に沈子を、1,000メートル毎におけと称する浮標の付いた長さ約120メートルのおけ縄をそれぞれ取り付け、幹縄の両端には、おけ縄を介して長さ約3メートルの竹竿の先端に旗を付けて標識旗として使用し、投縄に約30分揚げ縄に約3時間を要する一連作業を1日2回繰り返すものであった。また、A受審人は、揚げ縄をしているときには、船橋後方の右舷船尾甲板で揚げ縄機を操作しながら台に腰掛け、自ら竹竿を組み合わせて作った仕掛けにより、舵及び主機を遠隔で操作して操船するものであった。
 A受審人は、10時25分ごろ同日2回目の揚げ縄を開始し、南北に入れた底はえ縄の南端から北方に向け、幹縄を約250メートル巻き揚げたところで同縄が切断したので、次のおけのところまで北上し、おけ縄を引き揚げて連結を解き、北方に延びる幹縄の南端に、おけ縄を介して標識旗を取り付けて離し、同時39分半鋸埼灯台から311度(真方位、以下同じ。)3.4海里の地点で、259度に向首させて主機クラッチのかん脱及び舵を種々に操作し、229度方向に0.3ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、南方に約750メートル残っている幹縄を揚げ始めた。
 A受審人は、南方に残った幹縄を約250メートル巻き揚げたところで縄が再び切断し、10時49分半288度に向首した停止状態で幹縄の切れ端を巻き終えたとき、漂泊中の新谷を正船首50メートルのところに視認しうる状況であったが、揚げ縄を早く終わらせることに気を取られ、前方の見張りを十分に行わなかったので、同船の存在に気付かなかった。
 10時50分少し前A受審人は、右舷方の標識旗に注目しながら288度に向首して発進し、正船首方の新谷を避けることなく、徐々に増速して進行中、10時50分鋸埼灯台から310度3.4海里の地点において、7.0ノットの速力になった昭新丸の船首部が、原針路のまま、新谷の右舷船首部に後方から40度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の末期であった。
 また、新谷は、船体中央に操舵室を有するFRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、魚釣りの目的で、知人5人を乗せ、船首0.3メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、同日10時00分同県大飯郡大島漁港を発し、同港の北方沖合の釣り場に向かった。
 B受審人は、鋸埼沖合で2ないし3回釣り糸を垂らしたものの、あたりがなかったので更に北上し、10時25分ごろ鋸埼北西方沖合の釣り場に至り、速力を減じて魚群探知機により探索を開始し、10時41分半鋸埼灯台から309度3.3海里の地点を、338度に向首して5.0ノットの速力で進行していたとき、右舷船首42度190メートルのところに西方に向首している昭新丸の左舷側を初認したのち、同時42分半前示衝突地点で338度に向首したまま漂泊し、釣りを開始した。
 ところで、新谷の漂泊状態は、釣り針を海底に落として巻き上げるジギングと称するルアーフィッシングを行い、その際釣り糸が海底へ垂直に降りるよう風潮流を考慮して船位を保つようにしていたことから、B受審人が操縦席に座って機関をアイドリング状態とし、いつでもすぐに移動できる態勢となっていた。
 漂泊を開始したとき、B受審人は、昭新丸が右舷正横後8度110メートルとなり、依然西方に向首したまま南西方へ移動しているのを認めたが、同船が一般の航行中の船舶と違う動きをしていたものの、自船の船尾方へ移動していくので大丈夫と思い、その動静監視を十分に行わなかったので、10時49分半昭新丸が自船に向首する態勢となったことも、そのまま自船に向けて発進したことにも気付かず、衝突を避けるための措置をとらずに漂泊を続けた。
 10時50分少し前B受審人は、右舷船尾方に昭新丸の機関音を聞いて振り向き、ようやく衝突の危険に気付いて大声を出すとともにクラッチを後進に入れて右舵をとったが及ばず、新谷は、328度に向首したとき、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、昭新丸は、船首部外板に擦過傷を生じ、新谷は、右舷外板に亀裂を伴う損傷を生じたが、のちいずれも修理され、B受審人が左手根骨骨折を負った。

(原因の考察等)
 本件は、底はえ縄の切れ端を揚げ終えたのちに標識旗を拾うために発進した昭新丸と同船の正船首近くで魚釣りのために漂泊していた新谷とが衝突した事件である。
1 原因
 昭新丸が発進する際、前方の見張りを十分に行わなかったことは本件発生の原因となる。
 一方、新谷は、昭新丸が切れ端を巻き終えるころ徐々に右転して自船に向首して発進する状況を監視していれば、衝突のおそれのあることが分かり、船長が操縦席に座って機関をアイドリング状態とし、いつでもすぐに移動できる態勢であったのであるから、回避可能性は十分にあり、衝突を避けるための措置をとれたものと認められる。
 したがって、新谷が動静監視を十分に行わなかったことは本件発生の一因となる。
2 同種海難再発防止上の留意点
 本件の発生地点付近は、底はえ縄漁のほかにたこつぼ漁の漁場でもあり、各漁船の標識旗等が多く見られる海域であると同時に、多数のプレジャーボートが釣りのポイントとして利用している海域でもある。
 したがって、このような海域では、漁船は操業中とはいえ、付近にプレジャーボートが存在することを予想し、より厳重に周囲の見張りを行うことが必要である。
 一方、プレジャーボートにおいても、次の点を考慮しておく必要がある。
 (1) 本件のように底はえ縄が切断したとき、漁船は急に向きを変えて発進するこ とがある点
 (2) 漁船の操業形態を把握して安全な船間距離を確保する点

(原因)
 本件衝突は、福井県鋸埼北西方沖合において、昭新丸が、切断した底はえ縄の切れ端を巻き終えたのちに発進する際、見張り不十分で、漂泊中の新谷を避けなかったことによって発生したが、新谷が、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、福井県鋸埼北西方沖合において、切断した底はえ縄の切れ端を巻き終えたのちに発進する場合、新谷を見落とさないよう、前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、2度も切断したことから、揚げ縄を早く終わらせることに気を取られ、前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、漂泊中の新谷の存在に気付かず、同船を避けないまま進行して衝突を招き、自船の船首部外板に擦過傷を、新谷の右舷外板に亀裂を伴う損傷をそれぞれ生じさせ、B受審人に左手根骨骨折を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、福井県鋸埼北西方沖合において、北北西に向首して漂泊中、右舷側に西へ向首したまま南西方へ移動している昭新丸を認めた場合、同船が一般の航行中の船舶と違う動きをしていたのであるから、衝突のおそれの有無を判断できるよう、引き続き同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、昭新丸が自船の船尾方へ移動していくので大丈夫と思い、その動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、昭新丸の接近に気付くのが遅れ、衝突を避けるための措置をとらずに漂泊を続けて衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、自身が負傷するに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:19KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION