(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年8月29日06時52分
千葉県犬吠埼南南東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第二あおば丸 |
漁船永野丸 |
総トン数 |
499トン |
16.95トン |
全長 |
75.97メートル |
19.00メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,323キロワット |
522キロワット |
3 事実の経過
第二あおば丸(以下「あおば丸」という。)は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人ほか4人が乗り組み、鋼材約1,500トンを積載し、船首3.50メートル船尾4.65メートルの喫水をもって、平成13年8月29日04時30分茨城県鹿島港を発し、名古屋港に向かった。
ところで、あおば丸の船橋当直は、04時30分から06時30分までと16時30分から18時30分までを甲板長が、06時30分から11時30分までと18時30分から23時30分までをA受審人が、11時30分から16時30分までと23時30分から04時30分までを一等航海士がそれぞれ単独で担当する3直制をとっていた。
A受審人は、同日06時30分犬吠埼灯台の東方沖合3海里の地点で、甲板長から船橋当直を引き継ぎ、そのころ銚子港方向へ帰港する漁船群が、自船の前路を右方に横切る態勢で接近してきたので、手動操舵に切り替え、針路を適宜変更して漁船群を避航しながら進行した。
06時40分A受審人は、犬吠埼灯台から114度(真方位、以下同じ。)3.0海里の地点で、針路を218度に定め、機関を全速力前進の11.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)にかけ、手動操舵のまま続航し、同時42分同灯台から122度2.9海里の地点において、左舷船首43度2.9海里に単独で北上する永野丸を初めて視認した。
06時47分A受審人は、犬吠埼灯台から140度2.9海里の地点に達したとき、方位が変わらないまま、1.5海里に永野丸を見るようになり、その後も方位が変わらず、前路を右方に横切り、衝突のおそれのある態勢で互いに接近するのを認め、その動静を見守って進行した。
06時50分A受審人は、犬吠埼灯台から151度3.1海里の地点にて、永野丸が避航動作を取る気配を示さないまま0.6海里まで接近したが、そのうち同船が避航するものと思い、警告信号を行うことなく、さらに間近に接近しても、速やかに機関を停止するなど衝突を避けるための協力動作をとることもなく、同じ針路、速力で続航した。
06時52分わずか前A受審人は、ようやく衝突の危険を感じ、右舵30度をとったものの、効なく、06時52分犬吠埼灯台から157度3.3海里の地点において、あおば丸は、原針路、原速力のまま、その左舷側中央部に永野丸の船首が前方から83度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で、視界は良く、風力4の北北東風が吹き、波高1.5メートルの波浪があった。
また、永野丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人ほか2人が乗り組み、きんめだい漁の目的で、船首0.4メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、同月28日23時40分千葉県外川漁港を発し、同漁港の南東方22海里沖合の漁場で操業を開始したのち、翌29日05時15分ごろ釣果のないまま操業を終了し、帰途に就くこととした。
ところで、永野丸は、操舵室前面に3枚の窓ガラスが水平に並んで設けられ、右舷側同ガラスには旋回窓がはめ込まれていたが、同窓用配線が腐食して断線していたため使用できない状態にあり、しぶきが当たる状況下などでは前方が見えにくくなるため、レーダーを使用するなど適切な見張りを行う必要があった。
B受審人は、05時20分犬吠埼灯台から137度22.0海里の地点を単独で船橋当直に当たって発進し、針路を外川漁港の防波堤入口付近に向かう315度に定め、機関を全速力よりも少し下げた回転数毎分1,700にかけ、13.0ノットの速力で進行した。その後、北北東の風波が高まったことから、機関回転数を若干落とし、12.0ノットの速力で続航したものの、しばしば右舷方からしぶきが操舵室の窓に当たる状況であった。
06時47分B受審人は、犬吠埼灯台から152度4.2海里の地点に至ったとき、右舷船首40度1.5海里に前路を左方に横切る態勢のあおば丸を視認でき、その後衝突のおそれのある態勢で互いに接近するのを認め得る状況であったものの、接近する他船が汽笛を鳴らしてその存在を知らせてくれるものと思い、レーダーを使用するなどしてしぶきで見えにくくなった右舷方の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、あおば丸の進路を避けることなく進行し、06時52分わずか前、船首至近にあおば丸の左舷中央外板を視認したが、どうすることもできず、永野丸は、原針路、原速力のまま前記のとおり衝突した。
衝突の結果、あおば丸は左舷側後部外板に擦過傷を生じ、同中央部から後部にかけてオープンレール、スタンション及び空気管を破損し、永野丸は船首部を圧壊し、船首マスト及び左舷側前部外板を破損したが、のちいずれも修理され、B受審人が約2週間の加療を要する左下腿挫創を負った。
(原因)
本件衝突は、千葉県犬吠埼南南東方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近中、北上中の永野丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切るあおば丸の進路を避けなかったことによって発生したが、西行中のあおば丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は、千葉県犬吠埼南南東方沖合において、漁を終えて外川漁港に向け、操舵室の窓にしぶきが当たるなかを北上する場合、右舷方から接近するあおば丸を見落とさないよう、右舷方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、接近する他船が汽笛を鳴らしてその存在を知らせてくれるものと思い、レーダーを使用するなどしてしぶきで見えにくくなった右舷方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれのある態勢で接近しているあおば丸に気付かず、その進路を避けないまま進行し、同船との衝突を招き、永野丸の船首部に圧壊等及びあおば丸の左舷側後部外板に擦過傷等をそれぞれ生じさせ、自身も左下腿挫創を負うに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
A受審人は、千葉県犬吠埼南南東方沖合を西行中、左舷方から接近する永野丸が、前路を右方に横切り衝突のおそれのある態勢で、自船の進路を避けないまま接近するのを認めた場合、速やかに行きあしを停止するなど衝突を避けるための協力動作をとるべき注意義務があった。しかしながら、同人は、そのうち永野丸が避航するものと思い、速やかに機関を停止するなど衝突を避けるための協力動作をとらなかった職務上の過失により、同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせたほか、B受審人を負傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。