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平成13年横審第90号
件名

漁船源丸漁船廣栄丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年6月14日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(小須田 敏、原 清澄、甲斐賢一郎)

理事官
供田仁男

受審人
A 職名:源丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:廣栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
源丸・・・損傷ない
廣栄丸・・・右舷側船尾部外板に破口、転覆し、のち廃船、船長が右肩胛部打撲

原因
源丸・・・見張り不十分、船員の常務(新たな危険・避航動作)不遵守(主因)
廣栄丸・・・動静監視不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、源丸が、見張り不十分で、無難に航過する態勢の廣栄丸の前路に向けて転針し、同船に対して新たな衝突のおそれを生じさせたばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、廣栄丸が、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年6月1日11時30分
 三重県大王埼南東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船源丸 漁船廣栄丸
総トン数 4.9トン 1.87トン
全長 14.5メートル  
登録長   8.25メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 264キロワット  
漁船法馬力数   60

3 事実の経過
 源丸は、一本釣り漁業などに従事する、船体中央部船尾寄りに操舵室を設け、航海速力26ノットの性能を有するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、かつお引き縄漁の目的で、船首0.48メートル船尾1.38メートルの喫水をもって、平成13年6月1日02時30分三重県的矢港を発し、大王埼南方30海里の漁場に向かった。
 ところで、かつお引き縄漁は、両舷側から正横方に張り出した釣り竿や船尾から複数の引き縄を海中に入れ、鳥付群れやハネ群れなどの中を、約5ノットの対地速力(以下「速力」という。)で繰り返し同縄を引き廻して漁獲するもので、多数の漁船が集中する群れの中では、それぞれの漁船が互いに平行に近い針路で操業することから、張り出した釣り竿の先と反対方向から接近する他船の同先とが接触しないように航過距離を見極める必要があった。
 平素、A受審人は、漁場に到着したところで、操舵室後端付近の両舷側から長さ7メートルのグラスファイバー製釣り竿を1本ずつ真横に張り出し、それぞれの釣り竿から3本及び船尾から3本の引き縄を海中に入れ、機関を調整して約6ノットの速力で探索を行い、操業するときには約5ノットの速力とし、操舵室の屋根から顔を出して周囲の見張りと操船に当たり、時々船尾方に目を向けてかつおの掛かり具合などを確認するようにしていた。
 04時30分A受審人は、予定の漁場に到着し、いつものようにかつお引き縄漁を始めたものの、漁獲が得られなかったため、その後探索と操業を繰り返しながら大王埼南東方沖合に向けて北上中、11時15分大王埼灯台から153.5度(真方位、以下同じ。)16.8海里の地点に差し掛かったとき、自船の北東方約1海里のところに新たな鳥付群れを発見したので、針路を同群れに向かう075度に定め、6.0ノットの速力で手動操舵により進行した。
 A受審人は、11時24分半大王埼灯台から150.5度17.1海里の地点で、鳥付群れの中で北上しながらかつお引き縄漁をしている漁船数隻の右舷後方に付き従うこととし、針路を345度に転じるとともに速力を5.0ノットに減じ、その後間もなく同群れの中に進入した。
 11時28分A受審人は、大王埼灯台から150.2度16.8海里の地点に達したとき、左舷船首13度580メートルのところに廣栄丸を視認でき、その後その方位が少しずつ右方に変わりながら接近する様子から、針路が交差するものの、鳥付群れを越えた付近で同船と右舷を対して無難に航過する態勢であることが分かる状況であったが、定針時に先行する前示の漁船数隻以外に他船を認めなかったので、前路から接近する漁船はいないものと思い、前路の見張りを十分に行うことなく、船尾方に目を向けてかつおの掛かり具合などを確かめていて廣栄丸に気付かなかった。
 A受審人は、11時30分少し前鳥付群れを通り過ぎたため、同群れに向けて反転することとし、左転を始めた先行する漁船数隻に接近しないよう、右舵10度をとったところ、正船首方90メートルのところに接近していた廣栄丸に対して新たな衝突のおそれを生じさせることとなったが、依然として前路の見張りを十分に行っていなかったのでこのことに気付かず、直ちに行きあしを止めるなどの衝突を避けるための措置をとらないまま右回頭を続けた。
 11時30分わずか前A受審人は、B受審人の叫び声を聞いて船首方に目を転じたところ、至近に迫った廣栄丸を初めて視認し、機関を全速力後進にかけたが及ばず、11時30分大王埼灯台から150度16.6海里の地点において、源丸は、船首が045度に向いて3.0ノットの速力となったとき、その船首が廣栄丸の右舷船尾部に直角に衝突した。
 当時、天候は曇で風力2の北東風が吹き、視界は良好であった。
 また、廣栄丸は、一本釣り漁業に従事する、船尾部に操舵室を設けた航海速力21ノットの性能を有するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、かつお引き縄漁の目的で、船首0.4メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、同日02時30分三重県浜島港を発し、大王埼南方16.5海里の漁場に向かった。
 平素、B受審人は、漁場に到着したところで、操舵室後端付近の両舷側から長さ8.5メートルのグラスファイバー製釣り竿を1本ずつ真横に張り出し、それぞれの釣り竿から3本及び船尾から2本の引き縄を海中に入れ、機関を調整して約5ノットの速力とし、操舵室内で立って見張りと操船に当たりながら探索と操業を行うようにしていた。
 04時30分B受審人は、予定の漁場に到着し、いつものようにかつお引き縄漁を始めたものの、漁獲が得られなかったため、その後探索と操業を繰り返しながら移動し、11時18分大王埼灯台から151度15.6海里の地点に差し掛かったとき、僚船との交信から自船の南東方約1海里のところに新たな鳥付群れが存在することを知り、針路を同群れに向かう135度に定め、5.0ノットの速力で手動操舵により進行した。
 B受審人は、11時28分大王埼灯台から150.2度16.5海里の地点に達したとき、右舷船首17度580メートルのところに鳥付群れの中で操業している源丸を認め、その後その方位が少しずつ右方に変わりながら接近する様子から、針路が交差するものの、同群れの手前付近で同船と右舷を対して無難に航過する態勢であることを知るとともに、源丸がその群れを通り過ぎたところで反転することを推測し得る状況にあったが、同船が自船の存在に気付いているものと思い、その後源丸に対する動静監視を十分に行うことなく、船尾方に目を向けて漁具の様子などを確かめながら続航した。
 11時30分少し前B受審人は、右舷船首30度90メートルのところで、源丸が自船の前路に向けて右転を始め、新たな衝突のおそれを生じさせたものの、依然として同船に対する動静監視を十分に行っていなかったのでこのことに気付かず、直ちに行きあしを止めるなどの衝突を避けるための措置をとらずに進行し、同時30分わずか前、源丸が右舷方至近に迫っていることに気付き、大声で叫ぶとともにクラッチを中立としたが効なく、廣栄丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、源丸に損傷はなく、廣栄丸は、操舵室上部を圧壊したほか右舷側船尾部外板に破口を生じ、来援した僚船に曳航(えいこう)されたが、帰航中に転覆し、のち廃船処理された。また、B受審人は、右肩胛部打撲及び右上腕擦過創を負った。

(原因)
 本件衝突は、三重県大王埼南東方沖合において、両船がかつお引き縄を操業中、源丸が、見張り不十分で、無難に航過する態勢の廣栄丸の前路に向けて転針し、同船に対して新たな衝突のおそれを生じさせたばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、廣栄丸が、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、三重県大王埼南東方沖合において、かつお引き縄を操業中、鳥付群れに向けて反転する場合、船首方から接近する廣栄丸を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、定針時に先行する漁船以外に他船を認めなかったので、前路から接近する漁船はいないものと思い、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、廣栄丸に気付かず、右舷を対して無難に航過する態勢の同船の前路に向けて右転し、廣栄丸に対して新たな衝突のおそれを生じさせたばかりか、直ちに行きあしを止めるなど、衝突を避けるための措置をとることなく進行して同船との衝突を招き、源丸に損傷はなかったものの、廣栄丸の操舵室上部を圧壊させたほか右舷船尾部外板に破口を生じさせ、B受審人に右肩胛部打撲及び右上腕擦過創を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、三重県大王埼南東方沖合において、かつお引き縄を操業中、右舷を対して無難に航過する態勢で接近する源丸を認めた場合、同船が鳥付群れに向けて反転することを推測し得る状況にあったから、源丸が転舵したときに衝突のおそれの有無を判断できるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、源丸が自船の存在に気付いているものと思い、同船に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、源丸が自船の前路に向けて右転し、新たな衝突のおそれを生じさせたことに気付かず、直ちに行きあしを止めるなど、衝突を避けるための措置をとらずに進行して同船との衝突を招き、前示の事態を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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